閑話:やり手マスター
「はぁ……美味しぃ――」
ギルドマスター権限で手に入れた明石焼きを一つ頬張れば、じんわりと滲み出てくるダシの味。
フワフワとした食感と、ダシの滲み出る感覚の先に、丁寧に塩揉みされ、臭みが一切ないコロッサルの身が歯を受け止めて。
さらにその身から、ダシとは違う種類のうま味の汁が溢れてくる。
奇麗に一口で頬張れる丁度いい大きさと、生地と中に入っている具材の比率まで完璧。
翔の居る現代から異世界に戻った後、朝方までの短い時間でレシピを整えたラベンドラと。
こちらの世界でもたこ焼きを食べるため、と意気込んだガブロによる超速の鉄板加工。
さらに、リリウムとマジャリスによる夜だからこそ可能な転移魔法の連続による材料集めは。
夜が明ける前には、各人が完璧に仕事を遂行。
朝一に出店の許可を取り付け、準備は数秒、調理は四人がかり。
初めは珍しい過ぎる料理に誰も手を付けたがらなかったが、好奇心旺盛な一人の子供が注文し、食べたリアクションを見た人々が殺到。
昼前には、既に長蛇の列を形成することになった。
「にしても、かなり珍しい料理ね。なんて料理?」
二個目の明石焼きを口に放り込みながら、そう尋ねたアキナへ。
「これを教えてくれた料理人曰く、『卵焼き』だそうだ」
手の動きは止めず、そう伝えるラベンドラ。
実は翔の家を去る前に、翔から、
「たこ焼きに合うソースが無いなら、こんな作り方もありますよ?」
と、明石焼きのレシピや作り方を教わっており。
こちらの方が異世界でなら作りやすいという事で採用された。
……もちろん、アキナにはそんな事知る手段は無いが。
「ルフ鳥の卵を使うってのがちょっとネックだけど、見たところそんなに難しい料理じゃないわよね?」
「今回はたまたまルフ鳥の卵が手に入ったから使っただけで、別に何の卵でも構わん」
「小麦粉と卵の比率や、中に入れる具材で個性を出すことも出来ますし、作りがいのある料理ですわよ?」
「鉄板の加工が一番面倒まであるぞい。基本ドワーフは鍛冶技術を誇りに持っとるからな。ただの鉄板の加工なんて頼むんじゃない! と突っ返される姿が目に浮かぶわい」
「どう考えても一番のネックはメイン材料の確保だ。今回はたまたまコロッサルを倒したから良かったが、次手に入るのはいつになるやら……」
と、手は止まらず、客への対応も疎かにせず。
それでいてアキナとの会話を続ける四人。
そんな四人に、
「ん~……コロッサルはまぁ、結構沖まで行けば居るっぽいから依頼出したり出来るだろうし……」
「狩れる奴居るんか?」
「あんたらみたく少人数じゃ無理。でも、数と船さえあればやってやれない事はないから」
「となるとこれもレシピを公開した方がいいか?」
「お願い……と言いたいところなんだけど、しなくていいわよ」
アキナは意外にもレシピの公開を義務付けなかった。
「その真意を聞いても?」
「? こういう工夫がいくらでも効くような料理ならレシピなんて固定観念無い方が柔軟な料理になると思わない?」
そんな言葉に疑問を持ったリリウムには、サラッと自分の考えを伝え。
「中に入れる具材もコロッサルである必要はなさそうだし……意外と肉でも合いそうだし」
並んでいる中に居るであろう、他の出店の料理の情報を手に入れ、自分なりにアレンジをしようと目論む料理人にわざと聞こえるように。
「そもそも、形状もこうじゃないとってものでも無いでしょ?」
様々なアレンジ案を伝えていく。
「そうだな。持ち運びや食べやすさの観点でこの形状にしているが、店などで落ち着いて食べるならばこの形状にこだわる必要もないだろう」
そんなアキナの意図に気付いたらしいラベンドラも、それに乗っかる形でいくつかの提案をしていく。
「焼くだけでなく蒸してみたりしてもいいかもしれないな。あとは、味付けも大いに選択の余地がある」
それもこれも、こちらの世界で手軽にたこ焼きを食べたいが為。
そして、その上で、自分が作るタコ焼きがやはり一番美味いと自覚したいからであるが。
「うんうん! ギルドの在庫にあんたらが討伐したコロッサルの身はかなりあるし、こりゃ今の内から出す準備でもしとかなきゃなー」
そんなラベンドラの気持ちとは裏腹に、ギルドも美味しいと分かったコロッサルの身の在庫を捌く絶好の機会と判断。
その言葉を聞き、そそくさと並んでいた列から離れる何人かを確認したアキナは。
「あ、そうそう、最後に質問なんだけど」
「なんでしょうか?」
「あのコロッサルの身、そのまま焼いたんじゃ生臭くて食えたもんじゃなくて。こんなに臭みが無くなってるんだから処理の仕方も知ってるんでしょ? 教えて? お願い!」
最後の明石焼きを口に放り込むと、この通り! と両手を合わせて頭を下げる。
わざわざ列に並んだ人たちがいる前で、ギルドマスターが頭を下げている。
その光景は、行為は、冒険者である『夢幻泡影』にとって断るという選択肢を失わせるもので。
意外にしたたかだな、と四人に思わせつつも、
「はぁ……、詳しい手順はこの列が捌けたらギルドに報告する」
との返事を獲得。
「さんきゅ。じゃ、私は見回りの続きをするから」
その返事に明るく元気に答えたアキナは、ルンルン気分でスキップなんてしつつ、また出店巡りを継続するのだった。




