42。理解と脳みそへの冒瀆
剣道教室での今日の担当、生活安全課の室田さんがみんなの前であたし達の紹介をしてくれる。
「はい。今日は香絵先生の他に海流先生と太一先生もお手伝いに来てくれています」
ざわめく子供達から拍手をもらって、あたし達は微笑んだ。
リカコさんは無条件で見学。残りは強制参加。
「あれ、ジュニアがいない」
小学生達ににこにこ笑いかけながらカイリとイチにだけ聞こえるようにつぶやく。
「逃げたかな」
楽しそうに薄く笑って、イチがつぶやいた。
おのれぇぇ。ジュニア許さん。
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「巽さん」
3階にある刑事課、開けっ放しの扉をノックしてトレーニングウエアのジュニアがにこにこと手を振る。
「来たか……」
あからさまに嫌な顔をした巽が目を通していた書類から視線を上げると、席を立った。
「平野、しばらく第3会議室にいるから。何かあったら呼んでくれ」
「はい」
ジュニアのことを振り返る平野は、銀龍会の構成員を回収した一昨日の1件を思い出さずにはいられない。
(一昨日のことだけじゃない。前にもあった。香絵ちゃんもそうだけど、この子達はなんなんだ。
今回は拳銃所持だったんだぞ。普通高校生が立ち向かうような相手じゃない)
ジッと見つめてしまったジュニアは、平野の視線ににこっと笑うと、ブンブンと手を振りながら巽の後を追い廊下に消えていった。
「何が知りたいんだ」
署内で一番小さな第3会議室。
コの字に並べられた長机と、セットされた椅子。その椅子の1つに座った巽が、ジュニアに椅子を勧めるわけでもなく話し始める。
「何って、もちろんイチがヤクザ連中を毛嫌いしている理由だよ」
巽の座る椅子の隣の椅子を大きく引いて、勝手に腰を下ろすと踏ん反り返った。
殺風景な部屋には、時折外を走る車の音が響いてくる。
小さく息を吐いた巽が、ジュニアの顔をみつめてゆっくりと言葉を吐く。
「剣士、あまり個人的な話はプライバシーの観点からも……」
「うんそうだね。じゃあ道場に戻るよぉ」
巽の話を遮るように感情なく言い放ち、立ち上がるジュニアを巽の方が慌てて引き止める。
「待て待て待て。このままちゃんと終われるか?」
「まさか。気になることを解明しないだなんて、理解と脳みそへの冒瀆だね」
教えてくれないなら調べるまでのこと。ふてくされた瞳がはっきりと主張する。
にらみ合い、早々に巽が息を吐く。
「お前に聞いた俺がバカだった」
「意味のない駆け引きなら時間の無駄だよ」
椅子に座り直したジュニアに巽が重く口を開く。
「お前は両親の記憶があるか?」




