38。頑張れジュニア
幸せそうか。
あたしはここでみんなとバタバタしているのが何気に一番楽しかったりするんだよね。
まあ、今回みたいに辛いことや嫌なことも多いけど。
「とりあえずさ、カエの行き先を決定しないことには話が進まないわけでしょ?」
完全に部外者の体で、呆れたようにジュニアが話に割って入ってくる。
この辺の神経の強さというか、太さというかはホント何とも形容しがたい。
誰のせいで話が横道にそれたと思ってるんだよ。
「僕だって〈おじいさま〉のところに居候なんてイヤだよ。巽さんだってそうなったらキツいんじゃなの?」
おおっ。急にジュニアがあたしのフォローに回り出したぞ。
頑張れジュニア。
巽さんがその一言に苦い顔でこちらを振り返る。
「まあ確かに、あそこの家は嫁さんの実家。以上の緊張感を伴うが……」
本音が出ちゃったよ。
所轄の刑事からしたら、総監の顔なんて一生生で見ることなんてない雲の上の人だもんね。
「うーん、仕方がない」
巽さんも腹をくくったらしく、思案していた表をあげた。
「今日はとりあえずの宿泊施設に泊まる。
明日は土曜だな、家の片付けが済んだらここの近所のアパートの空いている物件探しだ」
「適当に見繕っておくよ」
巽さんの声にジュニアが返事をする。
「頼んだ。香絵は出来るだけ1人にならないように。俺が仕事から戻るまではここで待機だ。
異論は?」
巽さんが大きくみんなを見回した。
ほっ。
とりあえず隔離されずには済んだ。
みんなの動きが見えなくなるのは不安っていうか、やっぱりちゃんとカタが着くまではみんなと一緒に動きたいもんね。
「とりあえずは以上かしらね。明日の片付けは手伝いにいくわ。
それと、今週末は森稜署の方に顔を出すんでしょ?」
リカコさんがあたしとジュニアに視線を向ける。
「うん。手合わせするんだ」
ちょっと楽しみ。
リカコさんに笑顔を向けると、
「僕がお熱を出さなかったらね」
ジュニアがのほほんと付け足した。
「むぅ。当日キャンセルは受け付けません。寮まで迎えに来るからね!」
ギッとジュニアをにらみつける。
「大丈夫だよ。ちゃんと行くから。ノエルのケーキがタダで食べられるチャンスだもんね」
「ちょっと待て、おごるなんて一言も言ってないぞ」
「そうだよちょっと待ってよ、あたしが勝っておごってもらう可能性だってあるんだからね」
「限りなくゼロに近いけどな」
「……いや、だから」
カイリのことは一切スルーで進むあたしとジュニアの会話にさりげなくイチが突っ込みを入れてくる。
「怪我だけはしないで頂戴ね」
リカコさんが呆れ半分でつぶやいた。




