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警視庁の特別な事情〜JKカエ優雅な日常を取り戻せ〜  作者: 綾乃 蕾夢
優雅な日常を取り戻せ

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30。非常ベル

 リビングにとって返したせりかは、奥の和室に入ると、クローゼットの中から長い()を持ち薙刀(なぎなた)を引っ張り出してくる。


「勇ましいね」

 和室の入り口にはニヤニヤといやらしい笑みを浮かべたキバ。


 せりかは落ち着いた瞳で薙刀を横一文字に払った。

「誰に用事があって来たのかしら」

「さっきも言っただろう。カエちゃんだよ」

 そのせりかの姿に、キバは眼光鋭く身体を構えた。


伊達(だて)じゃないな。このおばさん、格闘技経験者だ)


 立てた薙刀でおもむろに天井を突く。

「何してんの?」

 キバからは電気の傘があって見えていない。

「父親が、困った方向に革新的(かくしんてき)な人でね。その仕事上、昔から何かと狙われる事が多いの。

 だからこそ自分の身は自分で守る。それでも心配性な旦那さまが、私と娘の為に付けてくれた、非常ベルよ。

 すぐに警察が来るわ」


 薙刀を構える。

「とりあえず、住居不法侵入で収監されて来なさい」



 ###


 帰宅路を逆走する中で、あたしのスマホが聞いたとこのない警報音を鳴らし出した。

「ええっ。何々?」

 慌てて探るスポバの中からスマホを引っ張り出す。

 〈緊急警報発令。間宮家〉

 うち?


 ###


「間宮家」

 スマホの画面を見ていたイチが、視線を上げる。

「うっわ。僕がだいいいぶ昔に取り付けた非常ベルだ。間違えて押すようなところには取り付けてないから、何かあったんだ」

 視線を路地の男達に向け、イチを見る。


「ここの受け渡しは僕が待ってるから、イチは間宮家に行って。カエか、せりかさんに何かあったのかも。

 あっ。この通知、僕たち5人と巽さんのところに行ってるからね」


 止めておいた自転車に向かって走り出すイチの背中に声をかけた。


 ###


 どうしよう。うちで何かが起きている。

 だとしたら連絡してきたのは?

 せりかさん。

「んーっ!」

 イチ達も気になるけど、2つは駆け付けられないし。

 うん。やっぱりせりかさんが心配。

 あたしは再び方向転換すると、家に向かって走り出した。


「カエっ!」

 背後からかかる聞きなれた声に振り返ると、自転車を飛ばすイチが近づいてくる。

「イチ! スマホ見た? 先に行って、せりかさんのことお願いっ。

 すぐに追いつくからね」


「おうっ」

 あたしのことを抜き去り際に短く返事を残していく。

 ほんとは乗せて行って欲しいけど、重くなるとスピード落ちるだろうし。

 ジュニアはどうしたんだろう。

 後からくるのかな。

 とりあえず振り返る視線の先に人の姿はない。


 ###


 スピードを上げて自転車をこいでいたから、だけではない鼓動の苦しさが、カエを見つけたことで大分軽減された。

(不謹慎なのはわかってる。でも、カエじゃなくて良かった。

 追いついてくる前に、片付ける)


 見慣れた間宮家の玄関で、ブレーキと共にスライディングした自転車から飛び降りた。

 自転車はそのままポーチにぶつかりなにかのカケラを飛ばして停止する。

 飛び付く玄関のノブは、予想通り施錠されていた。

(庭からリビングに入れる)


 玄関の左側、庭に飛び出したイチは、裂けて垂れ下がったレースのカーテンの隙間からリビングを覗き込んだ。

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i518214    ★お読みいただきありがとうございます★
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