27。最後に人差し指を折る
深雪と一緒にいつものように歩く下校の道を、イチとジュニアがゆっくりと付いてくる。今週の決まり事。
1週間、何もなく過ぎてくれれば一番良かったんだけど。
首の後ろ辺りがピリピリする。
前を向いて深雪と話をしながらも、気になって手が首を触っちゃう。
この感じがある時は、大抵の場合尾行されている。
で、尾行なんかに気付くのは大抵あたしかジュニア。
深雪との会話のキリのいいタイミングでチラッと後ろを振り返ると、いつもより比較的真面目な顔で2人が話しているのが見える。
あたしに気付いたジュニアが手に持っていたスマホを小さく振った。
ぴこぴこっ。
スポバから引っ張り出すスマホが、ちょうどLINEを受信する。
ジュニア:尾行られてるね。
イチとお出掛けしてくるから、深雪ちゃんの事よろしくね~。
17:12
了解。のスタンプを送って少しだけ文字を打つ。
カエ:気をつけてね。
17:12
誰だろう?
キバ、アギト、餓狼。
気になるけど、今は深雪を置いて付いてはいけないし。
「LINE?」
スマホに集中しちゃったあたしに深雪が声を掛けてくる。
「ん。ごめん、もう大丈夫」
断ち切るようにスマホをカバンに押し込んだ。
大丈夫。今はイチとジュニアに任せよう。
###
前を歩くカエと深雪が少し先の角を曲がっていくのを確認して、イチとジュニアはゆっくりと後ろを振り返る。
大通りからは1本入った裏通り。
すぐ真横の月極めの駐車場には、白い軽自動車が寂しそうに留守番をしている。
2人が振り返った事で尾行をしていた人物は、一旦出てこようとした路地に慌てて戻っていった。
「あれれ。今の影って」
ジュニアが思い当たってイチに視線を移す。
「あーっと。あれだな。えっと、銀龍会の頭悪男」
はっきりと拍子抜けの顔で、2人が路地を見る。
「リカコが巽さんトコにパトロール強化のお願いしたって言ってたのに。まだ捕まって無かったんだね」
「うろちょろされるのもウゼーし、巽さんに引き渡すか」
自転車を傍らに停めて来た道を引き返す。
「おいっ! オヤジの仇っ。覚悟しやがれ」
不意をついたつもりかもしれないが、武器を持って曲がり角から飛び出してくるであろう事は想定済み。
イチの振り下ろしたカバンが、頭悪男のナイフを握った手を叩く。
そのまますれ違い様に強烈なボディブローが決まった。
「ボエェェェッ」
よくわからない声を上げて、アスファルトの上に崩れ落ちた。
「うっわ。よわー。久しぶりによわー。そして語彙が貧困。ボキャブラリーを増やすことから始めましょう」
膝を折ったジュニアがうつ伏せの後頭部に語りかける。
「今日はあの小娘はいないのか」
角から出て来たもう1人の声に顔を上げる。
スーツ男の手には、1丁の拳銃。
「おっと。おっさん。それ持ってると、おまわりさんに捕まっちゃうんだよ」
さすがのジュニアも、その黒い影の脅威にゆっくりと立ち上がり軽く両手を上げると、イチと並ぶまで下がっていく。
「どーも。一応聞いておきたいんだけど、2年前の現場ってどこだったのかな? 残念ながら、俺もあいつも記憶が無くてさ」
自分に注意が向くように、大きな声を張ったイチの横で、ジュニアが手の中指、薬指、小指を同時に折り、最後に人差し指を折る。
軽く肩すくめたイチに、警戒心と苛立ちマックスでスーツ男が銃を向けた。
「覚えてない?」
憎しみの瞳が燃え上がる。
「あの日、Rロイヤルホテルだ」




