20。気分上げるぞ大作戦!
「香絵ーっ」
教室に入ると、あたしを呼ぶ夏美の大きな声に手を振って応える。
「お帰りっ。ねっねっ。烏丸先輩ってどんな人?」
深雪。みんなにも話したんだ。
興味深々な夏美と、愛梨につい首を傾げちゃう。
「どうって言われてもな」
前髪をかき上げる仕草。本人的にはキザに笑んでいる顔。変な英語。
美味しいご飯を作ってくれるし悪いヤツではないけど、いろいろ変わり者だし。それをそのまま伝えていいものか。
「んー。
んー。
んーーー。
……いい人だよ」
「なんか、ひねり出したわね」
だってぇー。
そりゃ、夏美のツッコミも入るよね。
「いいの。学校来るのが楽しみになるもん」
深雪がプイッと窓の外を見る。そっかぁ。学校に登校する活力みたいなものね。
「分かるわぁー。恋こそ女の子を輝かせるのよ」
机に乗り出して力説する夏美に、愛梨が冷たい視線を送る。
「夏美は目移りし過ぎなのよ」
「いっぱい好きな人がいればそれだけ楽しいじゃない」
愛梨のツッコミにもめげない。
「それはちょっと違くない?」
騒がしい教室の中でも一層バカ話。
柔らかいお昼の日差しが、会話の温度すら上げてくれるみたいに感じる。
ここは楽しい。
うん。最近忙し過ぎなんだよ。なんだか楽しくない。
仕事は危うく失敗するところだし、イチも怪我しちゃうし、リカコさんには悲しい思いさせちゃうし。
次の仕事は来週の木曜日だったよね。よし、気分上げるぞ大作戦!
……何しよっかなぁ。
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「気分上げるぞ大作戦?」
放課後の教室で、ジュニアが机に頬杖をついてあたしを見上げる。
今日は火曜日。
火、木、金曜は美術部で活動している深雪を教室で待ちながら、イチとジュニアにアイデア募集。
昼間とは打って変わって、静かな教室にはあたし達3人だけの声が響く。
「うん。最近雰囲気よくないし、楽しい事したいなぁ。って。カイリとリカコさんも巻き込んで、あんまり疲れない事」
「疲れない事ね」
ん。イチはあんまり乗り気じゃないみたいだな。
「あっとと。忘れないうちに。次の訓練日は絶対にあたしも行くから、連れて行ってね。
リカコさんやみんなに心配かけたくないから、しばらく本気で頑張るっ」
グッと力を込める。
イチとジュニアが顔を見合わせて、あたしに視線を移した。
「なんか考えておくよ」
「うんっ」
イチの声にもちょっとやる気が出てくれたかな。




