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第三十七話 怒りの救出劇

○宮廷魔術師の館、屋根の上○


 いやぁ、ようやく屋根の上に到達できた。

 ったく、手間かけさせやがって。


 と、この屋敷のどこに三角さんが居るのか、もう一回サテライトで確認した方が良いな。

 さっきは大雑把な確認で、終わらせちゃってるし。


 サーチ、からの~ズームっと。


 あれっ、おっかしいなぁ。

 さっきは確かに屋敷の中を指していたのに・・・前庭に青いポイントが移動している。

 とはいえあそこに三角さんの姿など、何処にも見えないし・・・もしかして生き埋め?

 いやいや、どう見ても掘り起こされた形跡なんてものはない・・・

 となると、あの下に地下室かなんかがあるってことか?


 前庭の三角さんが居ると示されたポイントに移動してみる。

 そして魔鉄鋼棒をスコップに形状変化すると、黙々と庭の土を掘り始めた。

 暗がりというのもあってか、屋敷内の人々には、気付かれていなそう。


 えっさ、ほいさっと。


 リズミカルにまるで素人とは思えない手つきで、1mほど掘り進めていくと・・・


ガツッ


 おっ、何か当たった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○宮廷魔術師の館地下、召喚の間○


 ボロボロボロ・・・


 天井から砂塵が舞い降りる。


 えっ、なに?


 驚き、しばらく見つめていると、不意に丸い穴が現れた。


シュタッ


 だっ、だれ?盗賊?

 いえ、そんなのどうだって良い。

 お願い、誰か知らないけど、今すぐ私を殺して・・・


「三角さんっ。俺、分かりますか?霧島幸太郎です。って分かる訳ないか。」


 ・・・・・っ!日本語。


 その懐かしい響きに驚く私の目からは、自然と大粒の涙が零れ落ちた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 石壁に成形加工で半径1mほとの穴をあけると、中は地下室の様だった。

 俺がそこから首を出し、部屋の様子を窺うと、奴隷の首輪を嵌めた一人の女性の姿が映った。


 俺ははやる気持ちを押えつつ、彼女の前に降り立つ。


シュタッ


 顔はやつれ、乱れた髪とまるで光の無い瞳。

 とても同一人物とは思えなかった・・・


「三角さんっ。俺、分かりますか?霧島幸太郎です。って分かる訳ないか。」


 俺が声を掛けると、彼女はまるで精気の無いうつろな眼差しから、大粒の涙を流した。


 一気に身体の芯が熱くなっていくのを感じる。

 誰だ?彼女をこんな風にしたのは・・・


 あっ、そうだ、奴隷の首輪。


ガシャン


 激昂する気持ちを鎮めつつ、俺が首輪を外してやると、彼女はその場にへたり込んだ。


「三角さん、分かりますか?飛鳥ちゃんの知り合いです。一緒に飛鳥ちゃんのところに帰りましょう。」


 飛鳥ちゃんの名前を聞いた彼女は、目を大きく開き、漆黒の瞳に光が僅かに宿る。


「あ・・・す・・・か・・・」


 この分だと、やっぱ回復までちょっと時間が掛かりそうだな。

 ・・・取り敢えず、早く地球に帰った方が良い。


「ちょっと失礼しますね。」


 そう断ると、俺は彼女をくの字に肩に担ぎ上げた。

 と、その途端、彼女が壁に手を伸ばし、もがきだす。


「ちょっと、三角さん。少し動かないで・・・」


 いや、可笑しい・・・

 こんな状態の彼女がここまで・・・


 彼女の伸ばす手の先に目を移すと、壁際の机の上には・・・なんだろ、あれ、スキルスクロール?


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 シュタッ


 腕に装着したグラビティエンジニアの重力ベクトル固定術式を発動して、地下の部屋から三角さんを担いで見事脱出。


 意外といつも活躍してくれるんだよなぁ、こいつ。

 あっ、そうだ。

 あの魔法陣も使い物にならなくしておいた方が良さそうだな。


 出てきた穴に向け、プロちゃんの銃口を突っ込む。


「撃てっ!プロちゃん。」


『おおぅ、お待ちどうさまでしゅ。』


 ドォォォ――――ン


 あれっ、地下に撃ったのに、屋敷から火の手が上がるとは、これ如何に?

 あんな大層な鋼の扉を吹っ飛ばしたのか・・・

 っとに、通常弾でもこの威力だもんなぁ。


 と、ここで凄い勢いで屋敷の中から、大勢の人影が飛び出して来た。

 そして俺の姿を見つけると、十数名の剣を持った男達がこちらへと駆け寄ってくる。

 広いとはいえ石垣に囲まれた庭の中。

 見る見るうちに包囲が狭まり、ついには取り囲まれてしまうと、最後に現れたのは、一人の老婆。


「全く、とんでもない事をしてくれたねぇ、おまえさん。生きては返さないよ。」


 恐らく一番偉いと思われる老婆が、鬼のような形相で何やら俺に向かって罵声を浴びせる。


 う~ん、まるで何言ってるか分からん。

 がしかし、多分これは怒ってるんだろうなぁ。


 でもまあ・・・


 てめぇらがどんだけ喚こうが、今の俺の怒りには勝てねぇよ。


「プロちゃん、今度はあの屋敷に向かってぶっ放せっ!」


『おおぅ、お待ちどうさまでしゅ。』


 ドォォォ――――ン


 直径1mほどの巨大な火球が屋敷に目がけて飛んで行った。


 直撃した屋敷の一部は一瞬で吹っ飛び、火の手が上がる。


 その光景を目にした、異星の住人達は、驚きに打ち震え、その場にへたり込む。


スチャ


 俺は老婆に向かって銃口を向ける。


「お前等、死にたい奴は前に出ろっ!」


「ひぃぃぃ、おっ、おまえ、誰に向かって銃口を向けているのか分かってるのかい。あたしはこの国の・・・」


 はぁ~、言葉はまるで分らんが、どうやらまだ退いちゃくれない感じか?これは。

 ったく、悪党の癖に、要らん手間掛けさせやがって・・・


「そんじゃま、プロちゃん、とっときのあれ、行ってみよう♪」


『おおぅ、超お待ちどうさまでしゅ~♪』


カシャ


『ひっさ~つ、ぷろみねんすマグナムぅ~。』


 先ほどとは比べ物にならない大きさ、うねり続ける炎の塊が屋敷に向かって放たれた。


ドッゴゴゴォォォ――――ン


 強烈な地鳴りと共に今度は広大な敷地を誇る屋敷全体が木端微塵に爆散した。


ズシシシシシシィーン


 視線を戻し、睨みつけると、老婆は口をあんぐりと開けたまま言葉を失い、首を左右に振りつつ、尻餅をついたまま後ずさりした。


「これで理解できたか?クソ婆ぁっ!俺の方が怒ってるってっ。」


 俺の言葉に、今度はブンブンと首を縦に振る老婆。


 この婆さんには、俺の言葉が分かるのか?


 まあそれは兎も角、このくらいで良いよな・・・三角さんも生きてたことだし。


 満足し、その場を立ち去る俺を異世界の住人達は、只茫然と見つめていた。

 崩れ落ちた外壁を抜け、敷地の外へ出ると、三角さんは、安らかな表情で、小さな寝息を立てている。


 ふぅ~、あの必殺技、野外で放つと、あそこまで凄いのかぁ~。

 かなり派手にぶっ放しちゃったし、一瞬ヤバいって思ったけど、結界のお蔭か、周囲の建物には、たいした被害も出ていない。

 いや~、良かった良かった。


 あっ、そうだ・・・


(なあ、プロちゃん。さっきのは「待ってましたぁ」だぞぉ。)


『お待ちどうさまでしゅ?』


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○惑星モース、女神像の神殿内○


 本当は直ぐにでも地球に帰らなければならない所だった俺と三角さんは、この星の朝を迎えた今現在、未だこの惑星モースに居る。

 それが何故かと問われれば、プロちゃんの必殺技を使ったせいで、魔力充填率が今なお不足し、まだ星間転移術式の発動ができなかった為である。


 とはいえ、何とか1時間ほどで転移術式が使用可能となり、俺の知る限りこの星で一番安全だと思えるこの女神像の神殿へと転移。

 そこでプロちゃんの充填率が貯まるのを今か今かと待っている、といった次第である。


 かくして出来上がるこの状況。

 俺の膝の上では、安堵した表情で、憧れの探索者アイドルが眠っている。

 当然俺の理性は徐々に崩壊し、ついには無意識に彼女の唇へと、自分の唇が近づいて行く。


チュッ


 唇が微かに触れただけ・・・


 うぉぉぉ~~~感激。


 相手が高校時代の憧れの美少女ならば、これは最早、俺の人生最大のお宝・・・今回の報酬としては、過分といっても差し支えないだろう。


 にしても犯罪者になってしまったな・・・まあ悔いはありませんけど。

 いやしかし仮に彼女が今起きていたとしても、今回助けられた彼女としては、このくらいの事じゃ怒らない筈、うんうん。

 となるとこれは最早、お互いの了承の上で行ったに等しいのではないだろうか?


 おお~、であれば、もう一回・・・


『父さま、何とかいけそうでしゅ。』


 っと、いかんいかん・・・これ以上やったら、やり過ぎ注意報が発令するところだった。


(りょ~かい、プロちゃん。)


 俺は未だ眠る三角さんを抱き上げると、プロちゃんに組み込んだ星間転移術式を発動する。


 待ってろ、飛鳥ちゃん。

 今お姉さんを連れて帰るから。


 シュン

次回最終、第三十八話 心優しい頼れるヒーロー。

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