第三十四話 とある女性探索者の悲劇
今回は毛色の違う、ダークでいや~なお話回です。
苦手な方は、ご注意くださいませ。
○数日前、惑星モース アルデバラン王国王都エルナト、とある宮廷魔術師の館地下、召喚の間○
薄暗い石造りの広間。
その四隅には、煌びやかな装飾の施された燭台の炎。
中央には紅い血で描かれた大きな魔方陣。
その魔方陣がぼんやりとした光を放ち始めると、それは溢れんばかりの眩い光に変わっていく。
ピカァァァ―――
「うぉぉぉ、ついに来たか。」
壁際の机の陰に潜み、その光景を見守る100を超えた老婆の口から、しゃがれた歓声を上がる。
光が収まってみると、魔法陣の中央には、一人のうら若き女性の姿が現れていた。
「あっ、あれ、ホントに転移しちゃったの?私。
っていうか、ここ何処よ?」
とてもダンジョン内とは思えないけど・・・
あっ、そうだ、早く戻らなくっちゃ。
きっとスタッフさん達が心配してるし。
チクリッ
痛っ!
ドサッ
女性が突然倒れ込むと老婆が声を上げた。
「イ~ヒッヒッヒ、ようやく旨く行ったよ。」
いたたたぁ・・・って、だっ、誰よっ?このお婆さん。
言ってることがまるで分らないし。
「全く、今回は苦労したよ。あの色ボケ王が『美しい女性』なんて条件付けるもんだから、もう季節は初夏ときたもんだ。
あっ、そうそう、次はこいつをプレゼントしてあげないとね。」
スッ
今度は何よっ。
横倒しになった女性の右手を持ち上げ、老婆がその女性の薬指に大きなサイズの指輪を通すと、それは指のサイズにピッタリとはまっていく。
「ヒーヒッヒッ。これはあたしからの大サービス。反応が無いと、あたしも楽しめないからねぇ。」
あっ、急に言葉が分かるように・・・。
でも、変だな。
声は出せないし、身体も痺れちゃって、全然動かせない。
「どうだい?動けないだろう。
さっきのは強力な痺れ針、そのまま半日は動けないはずさね。」
えっ、痺れ針?
それ何の冗談よっ。
「しかしまあ、なんだろうねぇ、この娘。女の私から見ても、ホントいやらしい身体してるよ。
これだけ色気のある別嬪さんじゃ、あの色ボケ王にゃ勿体ないくらいだし。
これは礼金の方も弾んでもらわないといけないねぇ、ヒーヒッヒッ。」
何変なこと言ってんのよっ。
まあ最近グラビアのお仕事依頼を断るのが、うんざりするくらい増えちゃってるけど・・・
「さあ、今度はお待ちかねの奴隷の首輪だよぉ。」
老婆は歩き出し、壁際に掛けてあった首輪を手に取る。
ジャラリ
えっ、ちょっ、ちょっとぉっ。
奴隷の首輪ってどういう事よっ。
そういう人権侵害のマジックアイテムを対人使用するのは、法律違反でしょっ!
「こいつを嵌めたが最後、もうお前さんは、一生奴隷として生きて行くしかなくなっちまうのさ。
解除できるのは、あたしの様な高位の術式魔法士か、この首輪の鍵を持った者しか居ないからねぇ。」
ねぇ、もしかして私、今大ピンチなんじゃない?
このお婆さんまるで真面な感じがしないし。
「ほう、良いねぇ。少しは状況が飲み込めて来たかい。
美しい女性は、怯えた表情も実にそそるじゃないか。」
ねぇ、嘘でしょ?
もうこんな冗談止めて・・・
女性の悲痛な表情などまるで気にした様子もなく、老婆は実に楽し気な表情で、奴隷の首輪を女性の首に巻きつける。
ねぇ、お婆さん、ちょとぉっ!
ホントにそれ、洒落になってないって・・・
ガチャンッ
「どうだい?お嬢さん。
そんな意味が分からないような顔してないで、もっと絶望した表情を見せておくれよ。
あたしが楽しめないじゃないか。ヒーヒッヒッ。」
ほっ、良かった・・・何とか賭けには勝ったみたい、精神的な束縛感もないし。
以前奴隷の首輪って、精神支配系の状態異常を継続的に発生させる特殊なマジックアイテムだって聞いたことがあった。
だとしたら私は『マインドガード』スキルを持ってる・・・
ふふっ、旨く行けば奴隷の首輪の発動も防げちゃう気がしたのよね。
でもこのお婆さんは、もうこの桃香お姉さんを本気で怒らせちゃったわよぉ。
こうなったら、この全身の麻痺が回復次第、絶対お仕置きしちゃうんだから、覚悟しておきなさい。
「おや、こいつは驚いた。この娘、まだこんな目で私を睨むのかい。
前にも居たんだよねぇ、あんたみたいなスキルを持った異世界人が。」
はぁ?異世界人?私が?
全く、何言ってんだろう、このお婆さんは・・・
いえ、ちょっと待って・・・この異様な部屋と魔法陣、わからない言葉、怪しさ満点のお婆さん。
それにダンジョンの転移トラップで、ダンジョンの外に転移してるなんて可笑しい。
これってまさか本当に・・・私は異世界転移しちゃったの?
「でも大丈夫。ちゃあ~んと絶望させてあげるからねぇ。」
えっ、ちょっと、今度は何する気?
「このスキルスポイトで、お前さんのスキルを今からひとつ残らず吸い出してあげるよ。」
えっ、なにそれ、スキルを吸い出すなんて出来る訳・・・
「なぁに、死にやしないさ、お嬢さん。」
ちょっともう勘弁してよっ。
スキルがなくなっちゃったら、本当に奴隷になっちゃうじゃない。
「あの異世界人の女が大好物の色ボケ王の性奴隷になるだけさ。まあここで死んだ方が100倍マシかもしれないがね。ヒーヒッヒッ。」
えっ、性奴隷・・・そんなの絶対嫌よっ!
「なにせ、あのエロジジイときたら、み~んな1カ月足らずで、使い物にならなくしちまうからねぇ。」
あっ、そうだ、帰還石。
私の左手の中に、まだちゃんと握られたままだし、身体が痺れていても発動くらいはできるはず。
もうこんなとこ、今すぐ脱出よっ!
帰還っ!
あれ、何で転移してくれないの?
帰還っ!
ちょっと、なによこれ、不良品っ!?
帰還っ!帰還っ!帰還っ!
「覚悟はいいかい?お嬢さん。」
帰還っ!帰還っ!帰還っ!ちょっとっ、発動してよぉーっ!
「それじゃあ、いくよぉ。」
ちょっ、やっ、やめてぇぇぇーーーっ!
「スキルスポイト。」
老婆が注射器の様なマジックアイテムの尖端を、横たわる女性の身体に押し当てると、そこから幾つものスキルスクロールが飛び散るように床の上に転がる。
コロンコロンコロン・・・
「ほ~う、こいつは驚いた。随分大漁だったねぇ。スキルスクロールが6つも出て来たよ。」
いっ、いやぁぁぁぁぁぁぁーーーーーっ。
その瞬間を境に、女性の目からは光が失われていった。
「ありがとうねぇ、空っぽのお嬢さん。」
次回、第三十五話 サテライトワールドマップ。




