第三十一話 ぷろみねんすマグナム
○骨山ダンジョン 探索者協会支部○
うちからスクーターで15分。
やって来たのは、最寄りの骨山ダンジョン。
このダンジョンを探索者協会の識別基準である5段階のダンジョンレベルで言えば、危険度2のDランクダンジョン。
危険度2でDランクと聞けば、比較的安全で優しい部類のダンジョンをイメージするかもしれないが、そうではない。
ランクDともなると、1階層からレベル3の魔物が出現するくらいには、その危険度が上がり、うちの様ななんちゃってEランクで危険度1以下のプライベートダンジョンとは一線を画するのである。
さてこの骨山ダンジョンを系統で言うなら炭鉱型ダンジョン。
現在18階層が最下層となっており、1フロアあたりの広さは2k㎡くらいと、フロアサイズだけ見れば結構手狭な部類に入る。
木枠で補強された入り口から中に入れば、足場は踏み固められた平坦な通路。
所々に燭台もあり、蝋燭の火で最低限の視界は確保されている。
そして出て来る魔物に関しては、アンデット系が主体で、この特徴は下層へ行っても変わらない。
とまあこんなところが、このダンジョンの概要であり、近隣にあるダンジョンショップの店員としては、実際に入ったことが無くてもこれくらいは知っている。
駐輪場にスクーターを止めた俺は、探索者協会支部である3階建ての建物に入ると、まずはダンジョンへの侵入申請を済ませた。
帰還予定は明日の午後2時、これはこの24時間で必ずプロちゃんのスペックアップを完了するという俺の覚悟の表れである。
そしてその後はフードコーナーにて、直近の昼飯、照り焼きトリプルバーガーを2つ購入すると、そのままダンジョン入口へと向かった。
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○骨山ダンジョン1階層○
買ってきたハンバーガーの一つに噛り付きながら、幅3mの通路を進んで行く。
モグモグ
っと、もう四差路か。
網の目状に複雑に入り組んだ通路。
協会支部から貰った簡易マップを眺め、2階層への階段方面へと右に曲がる。
「おりゃぁぁぁっ!」
ドカッバキッドカッ
前方で3人組の若い探索者パーティーが2体のスケルトンと戦闘をしているのが見えた。
ふ~ん、通路が複雑だから分からなかったけど、結構他の探索者さん達が、こんな低階層でもお仕事中なんだな。
モグモグ
「お疲れさまで~す。調子はどうっすか?」
「あ~、まあぼちぼちってとこっすかねぇ。結構もう人が入ってるみたいで、この辺じゃいつもより遭遇率があまり良くないよぉ。」
「あはは、そっすかぁ。まあ頑張ってください。」
「ああ、お互いになっ。」
見知らぬ気の良い探索者達に軽く挨拶を交わすと、そのまま通り過ぎる。
再び歩き始めて10分経過。
未だスケルトンとの戦闘なし。
「きえぇぇぇいっ。」
交差ポイントに差掛かり、枝道の先を見てみれば、道衣と袴姿の7、8人の人の群れが、スケルトンと老齢の師範といった出で立ちの薙刀使いが戦う様子を見守っていた。
あ~ホントにダンジョン内で練習する道場ってあるんだなぁ・・・
この骨山ダンジョンの1階層は、剣を持ったスケルトンが出るので、道場の実戦練習場として、それなりに人気があるとか、そういや前に聞いたし。
そんな光景を横目に見つつ、再び前に進むこと10分。
ありゃ、2階層への階段に辿り着いてしまった。
1階層とはいえ、2、3回は戦闘があるものだと聞いていたが、当てが外れてしまったな。
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○骨山ダンジョン2階層○
2階層に降り立っても、見た目の通路に変化はない。
といってもこっから先は、1階層しか載っていない探索者協会の簡易マップは使い物にならない。
スマホに保存しておいたマップ情報を頼りに、進んで行くことにする。
以前聞いた話では、この2階層に出現する魔物は、スケルトンに加え、物理攻撃が効かないゴーストと呼ばれる魔物も出現し始める。
それ故このダンジョンの2階層以降では、探索者の数もかなり少なくなるらしい。
早く魔石を貯めたい俺の本番は、この階層からという感じである。
と周囲確認していると・・・
「ファイアーボール。」
ドーン
魔法スキル所持者の女性が放ったボーリングの玉ほどの火球が、ゴーストを一撃のもとに消滅させた。
へぇ~、火魔法使いが居る探索者パーティーか。
物理が効かないと言っても低レベルのゴースト。
火魔法スキル所持者が居れば、この階層も余裕だろうな。
っといけない、こっちの準備もしておくか。
(プロちゃん、ちょっと火炎術式を組込んでみるから、火の玉を一発撃ってみてくれるか?)
旨く行ききゃあ、これでゴースト対策はイケるはず。
『やってみるでしゅ。』
カシャ
ブゥォフゥッ
先ほど見たファイアーボールとは比較にならないほどの大きさ・・・
直径1mはあろうかという大きな火球が、プロちゃんの銃口の前に出来上がる。
ドォォォ――――ン
うわっ、熱っ!
ズシーン
放たれた巨大火球が、10mほど先のダンジョンの横壁にぶち当たると、立っている足元まで振動が伝わってくる。
ってか、でかすぎだろっ!
火が落ち着き、ダンジョンの横壁を確認してみれば、直径1mの円状に溶けて窪みが出来ていた。
そういや魔力伝導率11って言や、もう既に軽くレジェンドアイテムを超えてる数値・・・これちょっとヤバイかも。
焦って振り返り、先ほどの探索者パーティーの様子を窺えば、もう通路を曲がったのか、その姿は無い。
ほっ・・・他の探索者には、迷惑かけずに済んでたみたいだな。
(プッ、プロちゃん、すっ、凄いな。)
『えへへ~、ご無沙汰でしゅぅ。』
(なあ、プロちゃん。次はできるだけ小さく小さく撃ってもらえるかぁ?)
あんなの普通に使うには、威力があり過ぎる。
『お任せでしゅ、父さま。大きさも自由自在でしゅ。』
(うん頼んだぞぉ。)
『わかったでしゅ、父さま。あたち、もっともぉ~っと頑張るでしゅ。』
(いや頑張るんじゃなくてだなぁ、もっと小さくしてくれって話だからなぁ、プロちゃん。絶ぇぇぇ対、絶ぇぇぇ対間違えるんじゃないぞぉ?)
『はいでしゅ、父さま。全開バリバリでしゅ。』
「よぉ~し、それじゃあ本番行ってみよう~。」
カシャ
『ひっさ~つ、ぷろみねんすマグナムぅ~。』
ドゴゴゴォォォ――――ン
3mほどある通路が、炎で埋め尽くされると、最早この火球の大きさが把握できない・・・
ズシシシシシィィィーン
先ほどより数段上の震動。
あ~・・・うん。
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【必殺技】
『ぷろみねんすマグナム』
種類 :アクティブ
効果 :残った充填魔力を全部使っちゃうです。そのかわり威力は絶大でしゅ。
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激しい熱風が頬を駆け抜けた。
ビュゥゥゥ~
・・・なんだこれ?
次回、第三十二話 魔物の無限ループと器用なマネが出来る奴。




