第二十八話 グラビティロケット
○霧島ダンジョン4階層、ダンジョンコア部屋○
な~んか、女神様と話して、出鼻を挫かれちまったが、今日は転移トラップの件についてこいつに聞きに来たんだった。
(なあ、ダンジョンコア、さっき女神様と話してた浮遊島ダンジョンにあった転移トラップが、もう消滅しちまってるんだが、お前にその原因って分かるか?)
『それは知らんな。』
そっか。
『ダンジョン内に設置される転移トラップというものは、原則として固定設置型。
そのダンジョンの外へと飛ばされることもなければ、突然現れたり、消滅したりはしない。』
へっ、そうなの?
『それにそもそも、あの浮遊島に関する質問を我にするのが間違っておる。
あれはダンジョンではない。恐らくダンジョンコアもないからな。』
ん、ダンジョンではない?
でも浮遊島には、魔物も普通に出現するし、レベルとかも上がったりするだろ。
『あれは言わば、どこかの星の地形の一部が、この地球に流れ着いたようなものといったところか。
まあ、お前と同じく、地球の理から外れた存在だな。』
なんだそれ?・・・流石に頭がおっつかなくなってきたぞ。
でもそういや浮遊島ダンジョンの魔物は、倒しても死体が残るとか、地上のダンジョンとはその性格が異なっているって、前に聞いたような・・・
『だが消える転移トラップの事なら、知っておる。
地上にあるダンジョンにも、地球の理から外れた謎の転移トラップが稀に突如出現し、数日のうちに消滅するといったことが起きておるからな。
そして今現在も、この国最大のダンジョンで出現中だが、それもまた、今日明日中には消滅してしまうだろう。』
う~ん、謎の転移トラップは、地球の理から外れてる・・・
つまりは他の星へと飛ばされる転移トラップである可能性が、極めて高いという事になる訳だ・・・
あれ?これってもしかして星間転移の術式をゲットする大チャンスなんじゃないか?
そしてそれは今日明日中にも消滅・・・
こうしちゃおれん、現場に急行だっ!
って、ちょっと待て。
今こいつ、この国最大のダンジョンって言ったよな・・・
この日本で、最大のダンジョンつったら、間違いなく富士ダンジョン。
昼間のテレビ・・・やらせじゃなかったのかっ!?
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○翌日、富士ダンジョン入口○
時刻は午前6時。
昨夜から眠い目を擦りつつ、夜の高速を店の軽トラで飛ばし、やっとこさ富士ダンジョンまでやって来た。
まあ店の方は、冷蔵庫の伝言板に一筆書いておいたし、大丈夫だと信じよう。
案内板の指示通りに遊歩道を抜けると、ここ富士ダンジョンの探索者協会支部となっているログハウスがあり、そこで侵入申請を済ませる。
こういった経験が殆どない俺だったが、受付嬢さんが懇切丁寧に対応してくれたこともあり、割とスムースに事が運んだ。
そこでついでに受付嬢さんから、現在出現中の転移トラップまでの道のりを、備え付きの簡易マップで説明して貰うと、目的地点までの道筋が頭に入って一安心。
などと、気を良くしていたら・・・
「現在は昨日起きた失踪事件の為に、捜索隊の方々がダンジョン内を探索していらっしゃいますので、その邪魔にならない様お願いしますね。」
と、こんな苦言も頂いた。
でもこれで昨日の件が、やらせじゃなかったことが確定してしまった訳だ。
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受付を済ませた俺は、ダンジョン入口へと向かう。
とそこで、横幅300mは超える大穴を前に、しばし呆然。
でっけぇ~。
こっちが田舎者みたいな気分になるな・・・
中に入ると、横幅はそのままに巨大な通路が先に延びる。
通路とは思えない巨大なものだが、ここは本来はフィールド型ダンジョン。
奥には直径50kmにも及ぶ巨大なダンジョンフィールドが広がっているという話だ。
そして俺が今回目指す転移トラップの出現ポイントも、この巨大通路を抜け、そのフィールドに入ると直ぐ見えるところにあるらしい。
周囲を見れば、朝方とは思えないほど、あちらこちらに他の探索者パーティーの姿があり、ソロ探索者の方が少ないといった印象だ。
そして本来この通路にも、レベル1~3程度のワイルドドッグと呼ばれる魔物が出現し、奥に進むほどその出現率も上がって行くそうなんだが、今のところは音沙汰なし。
この辺りでは、探索者の数が魔物の出現率を上回っているのだろう。
周囲に他の探索者達が居るお蔭もあり、それ程注意を払う必要もなく、どんどん先を急ぐ。
そして20分ほどゴツゴツした溶岩の上を進むと、光が差し込むフィールドフロアへの入り口が見えて来ていた。
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フィールドフロアに入ると、一気に明るさが増し、まるでアフリカのサバンナといった景色が広がった。
見渡すと遠くの方では、バッファローの様な魔物の群れに追われている探索者パーティー。
切り立った崖の上では、大きな鳥の魔物と闘うソロ探索者の姿も小さく映る。
やっぱスケールが違うねぇ。
比較対象が悪すぎだけど・・・俺の場合。
とまあそれはさて置き、目的地はあそこだな。
こっからでも叫び声が聞こえて来るし。
俺の見つめる視線の先には、数百に及ぶ人だかりが出来ている。
5分ほど歩いてその人だかりに近ずくと、むさい男達が涙を流して、転移トラップを取り囲むように見つめ、心配そうな表情を浮かべていたり・・・
そして、目に飛び込んできたピンク色のはっぴを着た男の鉢巻には『桃香!L♡VE!』。
「も~もっかちゃ~~~~んっ!」
こいつら殆ど、三角さんの熱烈なファンってとこか。
う~ん、しかしどうすっかなぁ、こいつら。
気持ちは分かるが、邪魔臭い。
これじゃ転移トラップに近づけやしないし、良く見えないっての。
・・・しゃーない。
俺は仰向けに寝そべると、足裏を斜め上方にセット。
グラビティロケット、発射5秒前。
4・・3・・2・・1・・ゴーッ!
俺がグラビティエンジニアの重力ベクトル操作術式を発動すると、身体は30度上方へと飛び上がって行く。
ぴゅ~~~ん
あったっ!
アイテムアナライズっ。
ぴゅ~~~ん
ズシャシャシャァァァァ
足裏の角度を調整し、弧を描くように再び着地した俺は、3mほど横滑りして静止する。
『ピロン。『星間転移術式』を術式リストに追加します。』
いよっしゃあ。
ウォォォ――――
ん、今の見られちまったか?
と振り返ってみると・・・
「も~もっかちゃ~~~~んっ!」
役目を終えたかのように消失していく転移トラップと、泣き崩れ、悲痛な叫びをあげる桃香ファン達の姿がそこにはあった。
かなりギリギリだったな。
(なあ、Gさん。一応ダメ元で聞いてみるけど、あの転移トラップ、何処の星に繋がってたか分かるか?)
『はい、分かりますけど、何か?』
次回、第二十九話 遠い世界の出来事。




