第二十七話 地球の理を外れた存在
○霧島ダンジョン4階層、ダンジョンコア部屋○
ボス部屋から、コア部屋へと進み、ダンジョンコアにご挨拶。
(まいど~。)
『おう、昨夜の人間か。今宵は我主、女神マナート様が直接お話したいと仰っておる。
今から神界通信を繋ぐから、ここから先は無礼な言動が無い様、十分注意してお話しろ。』
えっ、嘘、何でいきなり女神様?
恐らく一般的には、その存在すら信じてない人の方が多かろう神という存在がこんな身近に・・・
『人間、そなたはそのジョブというものを、どうやって手に入れましたか?』
おお、早速御降臨。
なんか声聞いただけで、不思議と美人な気がするな。
こっちの喋りもおのずと神妙な面持ちになってしまう。
(あっ、はい。どうやってと言われましても、持ってるスキルを捧げる代わりに、女神像から授かったとしか言いようがないですけど。)
『では、その女神像は何処にありましたか?』
(う~ん、あれは浮遊島ダンジョンにあった転移トラップから、転移した先の神殿にあった女神像でした。)
『やはり、あの浮遊島でしたか。』
(あ、はい。俺も正直よく分かってないですが、多分惑星モースとかいう違う星だと思います。)
『ふむ、それでそなたは、スキルを取得できない身体になっているという訳ですね。
ようやく合点が行きました。』
えっ、嘘、スキルを取得できない身体ってなに?
俺の合点がいきませんけど・・・
でも言われてみれば確かに、スペシャルスキル以外のスキルを取得していない。
結構ダンジョン探索もしたし、地下工房だって一応はダンジョン。
普通ならスキルの2つや3つ、取得出来ていても、何ら不思議ではないくらいには、ダンジョン内活動をしている気がする。
(それ、本当ですか?)
『何のことです?』
(俺の身体が、スキルを取得できないとかなんとか・・・)
『おや、そなたはまだ気付いていなかったのですか?
そなたがこの地球の理を外れた存在だという事に。』
おいおい、今度は俺が、地球の理を外れた存在だぁ?
(あの何を言っているのか、俺にはさっぱり・・・)
『そなたはその女神像より、かの星の理を受け入れています。』
理を受け入れたって・・・まあ快くスキルは捧げたけど。
いやでも、確か「信仰を欲するか」とか、妙な聞き方してたし・・・う~ん。
『それ故そなたには、地球のスキルシステムが適用されず、その惑星モースのジョブを含めたスキルシステムによって支配された存在になっているのですよ。』
えっ、何そのビックリ仰天ニュース。
『そこでひとつ、妾から提案があります。
もしそなたが所持するそのジョブを捧げるなら、妾の信仰を授けてあげましょう。どうしますか?』
(あっ、すいません。もうちょっと詳しく。)
信仰を授けるとか言われても、こっちは全然意味が分からん。
前回はこれで失敗したようなもんだし・・・いやあれはあれで良かったのか。
『今現在この星で運用されているスキルシステムをより良き形へと進化させていくのもまた、この星の成長を助ける存在である我々神にとっては、大事なこと。
そして異星のジョブの存在が判明した今、この地球のスキルシステムに於いても、ジョブというものを導入する必要が生じたということです。
しかしそのまま異星の理であるジョブを地球のスキルシステムに組み込むには、先ほど言った様な不具合もまた生じてしまいます。
そこで妾がこの星のスキルシステムに適合する形のジョブを新たに創造し、そなたをこの星の理に支配された存在に戻してあげようという意味です。』
はぁ、なんとなくだが、このマナート様は、俺に『アイテムマスター』の代替ジョブを地球の環境に適合するよう作ってくれるって話か?
そしてそれを貰えば、俺はまたスキルを普通に取得できる身体に戻れると・・・
でもそれってつまりは、今ある『アイテムマスター』は無くなっちまうって事だよな。
そんなの、今の俺としては考えたくもない感じなんだが・・・
でもまあそうは言っても、このマナート様が授けてくれるジョブがどんなものなのかってのも当然気になってしまうところ。
(ちなみにその代わりになるものって、どういったものですか?)
『興味をお持ちになりましたね。よろしい、妾の考案中の新ジョブ『舞姫』を詳しく説明してあげましょう。』
えっ、『舞姫』って、女性用ジョブなんじゃね?
『この『舞姫』というジョブの能力というのは、このジョブ専用の『スペシャルスキル進化』です。
これは例えば、この『舞姫』ジョブを取得した者が、ジョブ関連スキルである『演舞』、『剣術』という2つのスキルを取得したとします。
するとその2つのスキルは新たな1つのスキルへと進化を遂げ、『姫剣舞』という『舞姫』ジョブ専用のスペシャルスキルへと進化するという仕組みなのです。』
男の俺に、女性らしさ満点のセクシーな剣の舞を踊れってか・・・あのメスヒゲモグラみたいに。
まあそれは兎も角、システム自体は悪くない。
これなら既に取得したスキルも無駄にはならない訳だし、結構面白いかも。
『そしてスペシャルスキルは、この他にもあと2つ用意する予定でいます。
どうでしょう、このジョブ能力。とても素敵な能力だとは、思いませんか?』
確かにこの『スペシャルスキル進化』は好感触ではある。
がしかしこの『スペシャルスキル進化』一つだけって言われると、ちょっと物足りなく感じてしまう。
でもそれは、俺が『アイテムマスター』というジョブと比較するから感じることで、良く考えればあれはエクストラジョブ。
俺としても惑星モースのジョブ事情に詳しい訳でもないけど、ここはひとつ、俺的な見解って奴をこの地球の女神様に進言させて貰おうか。
(え~っと、俺の知る限りでの惑星モースのジョブと比較した意見を言わせて貰って良いですか?)
『ほう、面白い。申してみなさい。』
(はい、まずあっちの世界のジョブには恐らく数多の種類、系統があり、その種類、系統といった中にもランクがあったりして、ジョブ能力には段階的に差別化がなされていると思います。
そして俺の所持しているジョブは、エクストラジョブといって、スペシャルスキルの取得以外にも、あと5つほど固有能力がある、ランクの中でも多分最高のジョブなんです。
そう考えると、確かに『スペシャルスキル進化』は素晴らしい能力ですが、俺としては物足りなさを拭えないというのが正直な感想です。)
う~ん、女神様に対し、我ながらちょっと辛口な見解だった気もするな・・・
『ふむ、そなた、名を何と申す。』
えっ、やっぱり怒らせた?
(あっ、はい。霧島幸太郎です。)
『では幸太郎、そのジョブ能力について、もう少し詳しく聞かせなさい。』
とここから30分ほど、Gさんに確認を取りつつといった感じで、マナート様にジョブ能力の説明をして差し上げた。
『大変良い話をお聞きしました。礼を言います、幸太郎。
しかしそなたの言う、体系化、差別化、様々なジョブ能力といったものは、とても妾の様な下級神一人では、今この場での対応はできかねます。
ですからもうしばらく・・・そうですねぇ、あとひと月ほどお待ちなさい。
さすれば神議会での発議、審議、決議を済ませ、そなたの言った形に少しは近づけておくことも出来るでしょう。
そして、その時が来たら、今度こそ色良いお返事を期待していますよ。』
へぇ~、こんな俺の意見を参考にしてくれるのか。
でもまあそれなら、後発の利益って奴もあるし、惑星モース以上のジョブシステムがこの地球で構築されていく可能性もなくはない。
『人間、たった今、マナート様が通信をお切りになられた。楽にして良いぞ。』
あっ、そう、ふぅ~。
にしてもどうしよう・・・現状『アイテムマスター』で満足している俺としては、色良いお返事って言われても困るんですけど。
『舞姫』なんて女性用ジョブ、貰う気更々ないわけだし。
でももしかしたら、今回のミッションを失敗して、ジョブを失ってるかもしれないし、女性用ジョブといえども、無いよりはマシな気がする。
と言っても、今からひと月後の事考えても仕方ないな・・・
そん時は状況もまた変わってるだろうし、今無理に結論を急ぐこともなかろう。
次回、第二十八話 グラビティロケット。




