第二十三話 二度目のミッション
○ダンジョンショップ楽輝、地下工房○
『マスター、聞こえてますか?朗報です。久しぶりのミッションですよ。大事なことなので2回言いました。』
(朗報?凶報の間違いじゃねぇのか?それ。)
クリアできなきゃ、ジョブを失いかねない訳だし・・・
『そんなこと仰らずに。今回はアイテム神様からの緊急ミッションですよ。』
・・・緊急ってことは、急いでやれってことか?
『ミッション内容は、一週間以内に魔石を1個、女神像に奉納せよ、との事です。
どうやらアイテム神様も、魔石の実物を見てみたいらしいです。』
あ~、女神像の中の人も地球の神様じゃないらしいからな。
にしてもGさんめ、また余計な報告を・・・
とはいえ、このミッション、現状ちと厳しいな・・・一見簡単そうに見えるが、明らかに大きな落とし穴がある。
(なあGさん、女神像に奉納ってことは、またあの女神像の部屋に行く必要があると思うんだが、どうやって行けば良いんだ?
女神像の不思議な力で、向こうからご招待でもしてくれるってんなら、問題ないけど。)
そう、これがこのミッションの落とし穴。
女神像に奉納するには、またあの神殿へ行かなければならないが、俺にはそこへ行く手段が現状ない。
仮に転移術式を組込んだアイテムを使ったとしても、あの女神像の部屋には行けないって話だし。
『そんなサービスは御座いません。』
(そんなこと言ってもだな、Gさん。この間も言っただろ?星間転移魔法陣とやらは、もう無いんだぞ。一体どうしろってんだよ。)
『その難題を何とかするのが、ミッションというものです。』
(そりゃそうだろうけど、難易度高過ぎねぇか?このミッション。)
俺に銀二叔父さんみたいに、浮遊島ダンジョンに行って転移トラップを探し回れってか・・・
一週間以内なんて条件まであるし、逆立ちしたって無理だろ。
『はぁ・・・・・・少しは見どころがあるかと思えば、この体たらく。
本当にへなちょこなマスタ―ですね。』
悪かったな、へなちょこで。
このミッションを無理だと思う事がへなちょこってんなら、世の中の殆どの人がへなちょこだっつの。
『本来ミッションというのは、マスター自身が考え、実行し、達成するもの。私が過度にアドバイスすれば、アイテム神様に怒られてしまいます。
しかしどうやら私も焼きが回ったようです。ですから少しだけ。』
ん、どうした?Gさん。
『いいですかマスター、確かにあの転移術式では、異なる星への転移はできないと私は言いました。
ですがそれは、術式としてある種の制限が含まれているのが、原因です。
そして思い出してください。『オールプロセス(極)』を使えば、アイテムに組み込まれた術式の改変ができると、以前お話した事を。』
う~ん、そんな事言ってたか?
いやまあそれはこの際どうでも良い。
(Gさん、それはつまり、俺の持ってる転移術式を組込んで、またそれを改変してやれば、星間転移魔法陣と同じような代物が出来るって事か?)
『はい、まあ、ですが話はそう簡単では御座いません。
制限を取り除かれた術式というのは、得てして、その術式ランクが、本来求めた術式のランクよりも上がってしまうものです。
それ故、それ相応の組み込む器もまた必要となってしまうのです。』
(ん、ああ、そうか。魔力耐久度の高いアイテムさえあれば、術式問題は解決可能ってことか。)
『そういうことです。
そして私の独り言もここで終わりです。ここから先は、マスター御自身の考えと判断、行動で、ミッション攻略に挑んでください。』
ふふ、随分親切に受け答えしてくれる独り言だったじゃねぇか、Gさん。
(そっか。ありがとな、Gさん。少しモチベーション上がったわ。)
『はぁ、私は何故、こんな駄目なマスターを少し気に入ってしまったのでしょう。』
ツンデレかっ!
しかしまあこれで少しは光明が見えて来たな。
要は転移術式の改変に耐え得る魔力耐久度を持つほどの魔素クリスタルの珠を作り上げれば良いだけの話。
ならばその為にも、今夜ボス部屋へと赴き、プロちゃん共々魔素クリスタルの珠も確実に奪還せねばなるまい。
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○二階、居住スペース、リビング○
夜になり、店が終わると、俺はリビングで晩酌中の親父に話しかける。
今からあの4階層のボス部屋に挑むつもりでいるのだが、その前聞いたボス部屋情報を今一度確認しておきたい。
「なあ親父、今夜また、あの4階層のボスに挑もうと思ってるんだが、この前の話、もう一度、聞かせて貰っていいか?」
「ほ~お、随分と慎重に事を運ぶようになったじゃねぇか。」
「当り前だろ、あんだけ言われりゃ。」
「あはは、良い心がけだ。」
と改めてあのボス部屋の情報を確認していく。
先ず初めに聞いたのは、あの音楽とダンスについて。
あれにはチャーム、気絶の状態異常複合効果、更には装備や所持アイテムを盗むスティールといった複数の効果がある。
これにより、まずは様子見などと悠長に構えていると、なす術なく、意識を失ってしまうそうだ。
その後、自分達のステージが終わったヒゲモグラ達は、倒れた侵入者をボス部屋外に放り出し、地中へと戻り、ボス部屋の扉も固く閉ざされてしまう。
そしてこの扉はそのまま1時間ほど閉じられっ放しとなり、俺が目を覚ましたのは、恐らくこの辺のタイミングだったと思われる。
ちなみにボス部屋周辺のヒゲモグラ達は、ボス部屋に向かう者には一切攻撃をせず、放り出された者が現れると突如凶暴化するといった実に性格の捻じ曲がった手合いらしい。
全く持って、不愉快極まりない連中である。
「幸太郎、これがまずおめぇが事前に知っとくべき情報だ。」
「ああ、ありがとう、親父。
じゃあ次は、あのボス部屋の攻略法についても頼むよ。」
「そんなの簡単な話だ。ダンサー役のメスヒゲモグラが躍り出す前に、楽器隊のヒゲモグラを1体でも倒すことが出来れば、状態異常効果は発生しねぇ。
あの楽器隊が出現してきた瞬間から、有無を言わさず攻撃すりゃあいいんだよ。
しかしあの部屋に挑むときゃあ、予備の武器を一つとポーション類は部屋の外に置いておくのが良いだろう。
うちの地下ダンジョンなら他の探索者に取られる心配もねぇこったし、俺だって面倒だが、万が一に備えてそんくらいの保険はかけておくしな。」
うんうん、この方法なら俺でも実行可能だろうし、特に問題は無い。
「あとあのボス部屋のヒゲモグラ達の個々の強さについては、楽器隊の4体に関してはレベル5相当、つまり部屋の外に居る奴らと大差はねぇ。
ダンサーのメスヒゲモグラに関しちゃ、多少それに毛が生えた程度ってとこだが、まあ曲剣を持ってるし、おめぇ的には少しは警戒しておいた方が良いかもな。
まあ兎に角だ。4階層のレベル5ヒゲモグラをカード銃一発で倒したっつうおめぇの話が本当なら、楽勝な話だろ。」
いや、今そのカード銃が無いんだってば。
「あれは初見では苦労するが、大したこたぁねぇボスだからな。ガッハッハ。」
「ああ、サンキュウ、親父。2度も同じ話させちまって悪かったな。」
「まあうちの様な小させぇダンジョン、一人で攻略できない様じゃ、何時までたっても半人前だ。精々今回は失敗しねぇよう、気ぃ付けて行って来い。」
「わかったよ。」
さて、それじゃあ・・・
「あ~ちょっと待て、幸太郎。一応釘刺しとくが、ダンジョンコアには決して手を出すなよ。
壊されたら、うちの地下工房が無くなっちまうからな。」
「ああ、そのくらい知ってるって。」
「そんな事言って、おめぇは調子に乗って勝手にボス部屋に入っちまっただろうがっ。
うちのダンジョンコアは、俺が銀二達と一緒に、中東に遠征してた時に、奇跡的に手に入れた思い出の品だし、生きたダンジョンコアなんて、普通の方法じゃまず手に入らねぇ。」
あぁ~、それであんなアラビア~ンな恰好したボスが出て来るのか・・・
「コアの設置からダンジョンを育ててるプライベートダンジョンなんざ、うちぐらいのもんだし、滅茶苦茶貴重なんだぞ。」
まあ普通は出現したダンジョンを国から買い取るってのが、一般的らしいからな。
「今回は絶対に俺のいった事、守れよ。」
あっ、日本の様式美がまた・・・いやいや、今回はもう洒落にならんだろうな。
「ああ、分かったって。」
俺はプロちゃんを取り戻しに行くだけだし、ダンジョンコアになんて興味ないっつーの。
・・・多分。
次回、第二十四話 華麗なる奪還。




