第二十話 絶体絶命の危機 放てっ!グラビティスパイラル
○霧島ダンジョン4階層○
キュウキュウキュウキュウッ
「のわぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~っ!」
俺は叫びをあげると我武者羅に走り出す。
スタタタター
バシン
ドテッ、ゴロゴロゴロ―
ドカッ、ボコッ
足元を攻撃され、転倒し、そこを袋叩きにされる。
グヘッ。
うおっ、こいつら床の上を走っても早いっ。
しかも、力まで強ぇと来てる。
あっ、痛っ!
それになんだよ、この数・・・さっきはこの辺、全然居なかっただろっ!
これじゃ、逃げることも出来やしない。
あぁぁぁくそっ!
こうなったら・・・ってあれ?
・・・武器ないじゃん。
レベル4の俺が、この数のレベル5の魔物相手に素手で?
おいおい、冗談じゃないっ、このままじゃ、本当に死んじまうぞっ!
ドカッ、ボコッ
あっ、痛っ!
くっそぉぉぉ、考えろ考えろ考えろっ!
なんも思いつかなきゃ、後は死ぬだけだぞっ!
逃げるのもダメ、武器も無い、俺に今残されてるのは・・・
・・・・・・はっ!
こんな・・・痛っ!
ところで・・・痛っ!
死んで・・・痛っ!
たまるかぁぁぁっ!
「うぉりゃぁぁぁ、グラビティスパイラルッ!」
俺は袋叩きに遭いながらも、横倒しにされた身体の膝を直角に折り、少し上向き加減に足を傾げると、満を持して重力ベクトル固定ブーツに秘められた術式を発動した。
すると俺の身体は、自由落下の速度で、ゆっくりと床に擦れながらも回転運動を始める。
ズリッ、ズリズリ、ズリズリズリィィィ
ブンブンブンブン、ブロロロロロォォォォー
ドカッ、バキッ、ボコッ、ドカッ
いたたたたたぁー
ほどなく床上30cmほど浮き上がり、高速回転していく俺の身体は、みるみる内にヒゲモグラ達を吹き飛ばし、粉砕していく。。
ドカッ、バキッ、ボコッ、ドカッ
いたたたたたぁー
ズシャァァァァ
そして全てのヒゲモグラを殲滅すると、身体がまるで遠心力で吹き飛ばされたかのように床に転がった。
ぜぇ、ぜぇ、みっ、見たか。必殺、グラビティスパイラル・・・ゲロゲロゲロォー
ぜぇ、ぜぇ、つーかこの技、大した威力だが、反動も凄いな。
あ~、まだ目が回ってる、頭もクラクラしっぱなしだし、気持ち悪ぃ。
それに加えて全身打撲で滅茶苦茶痛てぇ・・・ゲロゲロゲロォー
がしかし、俺は生き残ったぞぉーっ!
『大丈夫ですか?マスター。今にも死にそうですけど。』
(あっ、ああ、まあ何とかな。)
・・・この技、封印しよう。
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グビグビ
カラン
ゴクゴク
カラン
あ~、生き返ったぁ。
ダンジョンショップの倅が、ポーションの一つも持たずにダンジョンに入れるかってな。
(にしても、あのヒゲモグラ、あんなに強かったか?)
『魔物の強さは、変わっていないと思いますよ。
きっと今までは、プロフェッショナルによる攻撃により、一撃で簡単に倒せてしまっていた事で、ご自身の実力を見誤っていたのでしょう。』
・・・それはあるかも。
ってか、プロちゃんっ、プロちゃんは何処行ったんだっ!
(プロちゃん、何処だ?)
・・・・・・。
装備してないと会話は無理なのか?
(Gさんっ!今プロちゃんはどうなってるんだっ!)
『あの子の今の状況なら、私より、所有者登録をされているマスターの方が詳しく探れるはずですよ。』
ん、ああ、そっか。ネームドアイテムの所在は、感じることが出来るんだったな。
・・・おっ、感じる。
この方角にこの距離・・・やっぱりさっきのボス部屋の中か。
がしかしどうする・・・
ダンジョン内に置き忘れたアイテムは、人目に触れないままだと、丸1日で消えちまうっつー話だし。
このままだと折角インテリジェンス化したプロちゃんと魔素クリスタルの珠が消滅しちまいかねない。
と言っても、武器を失くした状態だしポーションももうない・・・とてもまたボス部屋に行って戦闘なんて無理だ。
それにあのボス部屋の扉は閉められてたし、次はいつ開いてくれるのか・・・
(Gさん、武器もないし、ここは一旦撤退しようと思う。何か問題あるか?)
『私もその方が良いと思います。今のマスターは、死にぞこないのゴミ同然ですから。』
なっ・・・いや、全くその通りだな、くそっ。
「プロちゃぁぁぁんっ!ぜってぇ直ぐ戻って来っからぁ、良い子にしてちょっと待っててくれぇっ!」
俺はボス部屋の方に向かって大声で叫ぶと、踵を返した。
幸いにも、その後4階層では、ヒゲモグラ達は出現しなかった。
そして3階層に上がってからは、グラビティブーツによる天井移動で、ヒゲモグラとの戦闘を避けることに成功した俺は、何とかダンジョンからの帰還を果たしたのだった。
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○ダンジョンショップ楽輝、倉庫室○
「どうしたのっ、幸ちゃん。そんなロックな恰好して。母さん、そんな貧乏そうな服装好みじゃないわよ。オヨヨ。」
このジーパンとTシャツのボロボロ加減は最早ロックどころの騒ぎじゃねぇだろ。
「あ~、悪いけど、店のキュアポーションとHPポーション1本ずつ貰うね。」
使った分は補充しとかないとなぁ。
「あら、いいわよ。我が子の為なら、そのくらいの経営悪化、痛くも痒くもないものっ。」
ぐわしっ
もぉ、一々経営悪化とか言うなよ。
「ちょっと着替えて来るわ。」
「そうね、そんなボロボロの服で、店の中をウロウロされたら、店のイメージガタ落ちよ。お風呂も丁度沸いてるから、入ってきなさい。」
・・・ったく。
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○閉店後、二階居住スペース、リビング○
「なあ、幸太郎。おめぇ、俺の忠告無視して、ボス部屋に行ったんだってな。」
情報早ぇな、くそっ。
まああんな血の付いたボロボロの服装見られりゃな。
「ああ、うん。酷い目に遭ったよ、親父。お蔭で大事な装備まで無くなっちまって。それであのボス部屋って・・・」
「バカ野郎っ!」
・・・なっ。
「おめぇ、それを今頃聞いてどうすんだ?
こんなちっぽけなプライベートダンジョンでも、ダンジョンはダンジョンだ。死んだら後悔なんて、出来ねぇんだぞ。
探索者は情報収集、計画、準備、そのどれが欠けても命に係わる職業だ。
そんなこたぁ、ダンジョンショップの倅なら百も承知のはずだろうがっ!」
そりゃ分かってるつもりだけどさあ・・・今日は虫の居所でも悪いのか?
「勘違いしない様に言っとくが、おめぇが探索者をやるってのには、俺は賛成だったし、それは今後も変わらん。
この店の後を継ぐなら、Bランク探索者資格が相続で必要になるし、探索者としての経験もあった方が良いからな。」
・・・っ。
「がしかしだ。おめぇのやってるのは、何だ?探索者ごっこだろ。
ただ思いつきで好きなことだけやってるような、アルバイト感覚の高校生探索者と何も変わらねぇんだよ。
やるなら本気でやれ。そう簡単にBランクになれると思ったら、大間違いだぞっ!」
・・・くっ、こんなド正論、何も言い返せねぇよ。
そして少し黙り込んだ親父が、小さくも鋭い声色で呟く。
「今度母さん泣かしたら、ただじゃ置かねぇからな。」
えっ、嘘・・・あんなの何時もの事だろ?
「普段の嘘泣きは可愛いもんだが、あいつが本気で泣くと、子供みたいに暴れて、宥めるのが大変なんだぞ。」
ってことはあの後母さん、親父の前で・・・
親父の顔を見上げると、生々しいひっかき傷と痣。
そういや子供の頃、俺が川に落ちた日の翌日、同じ顔してたなぁ。
「おめぇもいい歳だ。俺の言いたいこたぁ、分かってるよな?」
「ああ。」
これからは心配かけないように、ちゃんと本腰入れて、探索者やれってこったろ?
反省してるって、ホント。
「次、母さんが本気泣きした時は、お前が宥める係だっ。」
それが言いたかったのかよっ!
その後、親父は晩酌がてら、ボス部屋の情報を教えてくれた。
話の最中、ふと思う。
・・・次からは、着替も用意しておこう。
次回、第二十一話 望外の高スペックレイピア。




