第十九話 変り種のボス
○霧島ダンジョン4階層○
3階層のヒゲモグラなど、進化したプロちゃんの前では、最早相手にもならない。
圧倒的な攻撃力で、難なくこの霧島ダンジョンの最下層となる4階層への階段まで辿り着いた。
それから勢い勇んで4階層に降り立つと、これまでとは少し異なる様相を呈していた。
えっ、上?
おっとっ!
ヒョイ
カシャ
『ひっさ~つ。ぐるぐるマグナムぅ~。』
バヒュ――ン
ブォン、ブルブルブルゥー
ぎゅおん
グササササッ
ふ~、危ない危ない。
って今度は横かっ。
カシャ
『ひっさ~つ。ぐるぐるマグナムぅ~。』
バヒュ――ン
ブォン、ブルブルブルゥー
ぎゅおん
グササササッ
何だ何だ?
この4階層に来たら、いきなり天井とか横壁とか・・・今まで床からしか出て来なかったのに。
・・・でもまあ一撃で倒せる。
(凄いぞぉ、プロちゃん。)
『えへへ~、ご無沙汰でしゅ。』
う~む・・・何だろう、これを訂正してあげる気になれない。
まあそれはさて置き、こいつ等今までとは、一味違うよな。
レベルは3階層から2ランクアップのレベル5個体。
見てくれも、グラサンは小洒落たデザイン、口髭は先が斜め上にピンと伸びた貴族髭、これまでの奴よりちょっと偉そうだし。
そしてなにより、天井や横壁からも出て来るってのが、厄介だ。
と言っても・・・
カシャ
『ひっさ~つ。ぐるぐるマグナムぅ~。』
バヒュ――ン
ブォン、ブルブルブルゥー
ぎゅおん
グササササッ
分かってしまえば、対応は可能。
『ピロリロリーン。ジョブ『アイテムマスター』がレベル4になりました。』
『パンパカパーン。霧島光太郎はレベル4になりました。』
おっ、Gさんと俺の同時レベルアップか。
この4階層も何とかなりそうだな。
『マスター、ちょっと宜しいでしょうか?』
(ん、どうした?Gさん。)
『今のレベルアップで私、新スペシャルスキル『クイックプロセス(極)』を会得いたしました。』
(おお、久しぶりのスペシャルスキルだなぁ。どんな能力なんだ?)
『はい、これはまあ『オールプロセス(極)』の補助スキルといった感じの能力です。
具体的には、『オールプロセス(極)』の単体工程の時間を瞬時に行えるようになる能力で、他の使い道は御座いません。』
(なんか、前の2つのスペシャルスキルと比べて、あんまり凄さが伝わってこない内容だな、それ。)
今の『オールプロセス(極)』の処理時間だって、単一工程で見れば、ものの数秒で済んでるし、不便を感じた覚えはない。
そう考えると、この能力の必要性を疑問視するのは当然の結果ではなかろうか。
『そうですねぇ、マスターがプロフェッショナルをメイン武器として使っている以上、そう言った感想を持たれるのも無理のない話かもしれません。』
(それって、どういう意味だ?)
『はい、例えば剣を持った場合、戦闘しながら瞬時にその剣の長さを変えたり、また盾の様な形状にすることも可能となります。
これは近接戦闘において、かなりのアドバンテージを生むとは思いませんか?』
あ~、『オールプロセス(極)』の能力を戦闘時にも活かせるってことか・・・確かにその発想はなかったわ。
(そういう事なら、納得だわ、Gさん。)
・・・とはいえ、俺にはプロちゃんが居るから、そのスペシャルスキルの出番は来ないかもな。
『ご理解頂けて、良かったです。』
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○霧島ダンジョン4階層、ボス部屋前○
さて、順調にボス部屋の前までやって来れた訳だが・・・この辺はもうヒゲモグラは出ないのか?
まあ丁度いいし、ここらでこの貯まりに貯まった小魔石を魔素クリスタルの珠にしちまうか・・・
この階層、エンカウント率がかなり高かったし、もう30個くらい貯まってるし。
と出来上がった魔素クリスタルの珠はゴルフボールサイズくらい。
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『魔素クリスタルの珠』
説明 :魔素クリスタルでできた宝玉。魔素含有率99%。
状態 :10/10
魔力耐久度 :3
魔力伝導率 :3
術式スロット数 3/3
組込術式 :なし
価値 :★★★
補足 :工芸品
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う~ん、大きさからして、もっとスペックアップしてると思ったんだけど・・・使った素材の質と量からして。
もしかして徐々に上がり難くなっていく感じなのか?
それだと今後は結構苦労しそうな予感がするけど。
となるともっと高レベルの魔物倒して、大きい魔石を手に入れた方が手っ取り早い気がするなぁ・・・
チラッ
ボス部屋への扉を横目に入れつつ、ふと思う。
う~ん、親父は行くなよって言ってたけど・・・そう言われて、むしろ行けと解釈するのは、もはやこの日本の様式美。
行っちゃおっかなぁ~。
ここまで少しは余裕あったし、大丈夫大丈夫ぅ~♪。
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○霧島ダンジョン4階層、ボス部屋○
ガガガガガコン
4階層のボス部屋に入った途端、後方通路に岩壁が上から降りてきて、退路を塞いだ。
不味い・・・閉じ込められた。
焦りつつも、部屋の前方に目をやると、横並びに4つの穴が出現。
薄暗いボス部屋内の何処からか、その穴にスポットライトが当たる。
チャララ、チャータラッタッタッター♫
すると繊細で煌びやか、まるで瑠璃色のガラスのような音色が響きだす。
ほどなく穴の底が盛り上がり、せり上がるように出現してきたのは、アラビアの民族衣装を身に纏い、それぞれ異なる楽器をもったヒゲモグラ達。
えっ・・・何始まんの?
そんな疑問に包まれながら見守っていると、ほどなく4体のヒゲモグラ達の手前中央に穴がもう一つ空いた。
その穴を注視していると、今度はアラビアの姫様風衣装を身に纏い、右手に曲剣を持った、妙にスタイルの良いメスヒゲモグラが、不思議なダンスを踊りながら、せり上がってきたのだった。
何この踊り、ベリーダンス?剣の舞?
摩訶不思議な光景に目を奪われ、無我夢中にそのダンスに見入っていると、メスヒゲモグラがこちらに向かって投げキッスを一つ。
チュッ
わおっ♡
ズキュ―――ン
何だこれ?やべぇ、意識が持って行かれる・・・
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
気が付くと、俺はボス部屋前に居た。
そして今現在、開いていたボス部屋への道は、固く岩壁で閉ざされている。
あれっ、プロちゃんっ!
装備していたはずのプロちゃんが、俺の手元から消えていた。
確認してみると、作ったばかりの魔素クリスタルの珠まで無くなっており・・・
何が起こった?・・・あの投げキッス以降の記憶がまるで思い出せない。
(なあGさんっ!何が起こったんだっ!?)
『そんな事よりマスター。今は此処からどうやって生きて帰るかを考える方が先決かと。』
なっ、何言って・・・
恐る恐る辺りを見渡せば、かなりの数のヒゲモグラ達が、穴から顔を出し、こちらの様子を窺っていた。
・・・ゴクリ。
次回、第二十話 絶体絶命の危機 放てっ!グラビティスパイラル。




