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私のこころ  作者: 2Bペンシル
第一部・5
21/26

Record of ”Happy New Year!”

【前書き】

ファンアートをいただきまして、書き下ろしました。詳しい経緯は活動報告をご覧ください。本編には直接関係いたしませんので、気軽に読んでいただければ幸いです。

【ファンアート】

挿絵(By みてみん)

※この絵をもとに、書き下ろさせていただきました。


≪Record of ”Happy New Year!” 21280101≫

 

 私が書斎のドアをノックしてから、返事を待たずに開けると、お父さんが私の方を見ていた。

「どうしたの、リーベ?」

 怪訝な顔で私を見つめるお父さんに、私は口を開いた。

「お父さん、初詣行こうよ」

 そういうと、びっくりした顔で「初詣? え、ここらへん神社あるの?」と聞き返す。私はホロディスプレイへ、先程まで調べていた神社の情報を送る。

 お父さんが言うように、ここ数十年で初詣というのはほとんど行われなくなっていた。とはいえ、どこにでも──元の形を保っているかどうかは別としても──生き延びている習慣と言うのはあるもので。

「ここからそれなりに距離はあるけど……なるほど、良く見つけてきたね」

 その神社も、日本では数少ない生き残りの一つだった。

「行けないことはないでしょう?」

「今からか……」お父さんが宙を見て、頷く。「うん、時間はあるよ。でも、リーベの方は大丈夫なの?」

「心配しないで。前々から行きたいって思って予定は空けておいたから、しっかり終わらせることは終わらせているよ」

 お父さんが微笑んで、椅子から立ち上がった。

「じゃあ、行こうか」

 

 自動タクシーとリニアを乗り継いで目的地に来た私たち二人は、大きな鳥居を見上げて立っていた。神社の周りには人がほとんどおらず、時たま近くの道を通る人間とアンドロイドがいるだけだ。それでも、つい1年前に比べれば人通りは増えた方だと思う。

 鳥居の向こう側に目を向けると、参道の傍に小さな店舗がいくつか見えた。その内の一つが「着物・着付けいたします」という看板を掲げている。

「お父さん、着物って?」

 私が看板を指さすと、別の方向を見ていたお父さんが私の指さす先を見た。

「ああ、日本に昔からある服だよ。別名を和装若しくは和服って言って、250年くらい前は和装が一般に着るような──」お父さんが着ているコートを持ち上げる。「──こういう服だったんだ。コートは羽織(はおり)だけど。ちなみに洋装というと、洋服のことになる。そういうとこからも、一般に着られていたってのが分かると思うよ」

「なるほど……私も着られるのかな?」

 そういうと、お父さんはあごに手を当てる、いつも通りの仕草のまま呟いた。

「着れないことはないと思う。僕もそこまで着物に詳しいわけじゃないけど、160 cmなら普通に合うのがあるはずだ。体形は一般的な女性とそんな変わらないから、問題はないだろうし」

 確かに、当然といえば当然だ。ほとんど人間と変わらないリーベが、着ることのできない理由と言うのはない。

「そんなこと聞くなんて、着てみたいの?」

 お父さんの言葉に私は力強く、「うん」と頷いた。それを見たお父さんは「そういうことなら」と言って微笑む。

「でも、最近あんまり娘を甘やかすのも良くないような気がしてきたんだよね」

「そうはいっても、無理でしょう?」

 私がにこりと笑って見つめると、お父さんは観念したように肩をすくめた。

「バレたか。まあ、無茶なことを言ってくるわけじゃないし、いつも不便掛けているわけだしね。じゃあ、行ってみようか」

 お父さんが鳥居をくぐって、参道に足を踏み入れる。私もお父さんの後ろをついていった。


 私がお店のお婆さんの言う通りに──お父さんはお金を払った後、外で待っていた──いくつかある着物を選んでカウンターへもっていくと、彼女はたるんだ皮膚を持ち上げて優しく微笑んだ。

「薄紅藤色を基調に古代紫の梅柄の振袖とは……若いのに、落ち着いたものを選ぶんだねえ……」

 その言葉にもう一度着物を見る。けれど、そのような感じはしなかった。

「そうなのですか?」

「若い子だと、神前なのに場違いだというくらい派手なものを選ぶ子すら居るから……口には出さんがねえ。でも、貴女はそういうわけではなさそうだねえ」彼女は私の目を見た。「どうだい、これでいいかい?」

 私は頷く。お婆さんは腰を曲げたまま着物を持って、「ついてきなさい」と言って店の奥に消える。私もすぐにそのあとを追った。

 少しして、着付けて貰った私は──胸の辺りがきついことを言うと、「少し我慢しなさい」と怒られた──いつもつけている白いカーネーションの花飾りの代わりに、お婆さんが勧めるカラフルなブーケの髪留めをポニーテールの根元に挿す。カーネーションの髪飾りは着物の中に仕舞った。

「ありがとうございます」

 私が会釈すると、お婆さんが優しく微笑む。

「いいんだよ、こういう商売は大体見向きもされないからねえ……」

 お婆さんと二人で外に出ると、一陣の寒風が顔を撫でる。私は寒くなかったけれど、お婆さんのほうは「これはいけない」と言って店の中に戻っていった。ほどなくして、お婆さんは手に純白のストールを持って出てくる。

「つけていきなさい。着物を返す時に一緒に返してくれればいい」

 突然の親切に、私が驚いて「いえ、そんな。寒くありませんから」と答えると、お婆さんは首を横に振った。

「いいからいいから。女の子は体を冷やしちゃいかんよ、ババアじゃないんだから」

 そこに含まれるいくつかの皮肉と虚構に、一瞬だけ頬が緩む。甘えることに決めた私は、お婆さんに「ありがとうございます」と言ってストールを受取り、首に巻き付ける。すると、手に何か持ったお父さんが道の向こう側から歩いてきた。

「お、似合っているね」

「何をもっているの?」

「これ?」お父さんが容器と思わしきものを左右に軽く振る。「近くで売ってた揚げ餅。こういうところで売ってるものが割高なのは認めるけど、おいしそうだったもんで」

 私はその言葉にあきれて、ため息をついた。完璧な人間はいないとは言うけれど、だからといって咎めないわけにもいかない。

「そんなことしているから、お金をAIに管理される羽目になったでしょう?」

 お父さんは舌を少しだけ出して、「人間っていうのは愚かなもんでね。有限の物が沢山あると、いつまでも存在すると思い込む習性があるんだよ」と笑った。

「その言葉を自戒に向けようとは思わなかったの?」

 私がとげとげしく言い放つと、お父さんは肩をすくめた。

「その余裕がなかったんだ」そういって、もう一つ容器を取り出す。「ほら、リーベの分。さあ、食べながら行こうよ」

 もちろん、こころの底から責める気は始めから無い。自戒する余裕すら無い状態を見てきたのも、呪縛から解き放たれた姿を見ているのも、私だったから。それに遺産は中核システムが管理してくれているのだから、そこまで心配しないでいい。

「もう……」

 いつの間にか、お婆さんの姿は無くなっていた。私は容器を受け取って、中の揚げ餅をつまみながらお父さんと並んで歩き始めた。


 書いてある通りに手水舎で(みそぎ)を済ませた私たちは、もう一つある赤い鳥居をくぐって白い石畳の境内に入った。人影はまばらだったけれど、風に揺れている絵馬が奏でる音や本殿の方から聞こえてくる清々しい音が、耳に心地よかった。

「先にお参りしようか、それともおみくじでも引いてみる?」

 お父さんがそう私に聞いてくる。私は「まずは挨拶しようよ」と言うと、「そうだね。じゃないと色々失礼か」と気が付いたように呟いた。

 二人で本殿の方に行って、私が鈴につながっている麻縄を掴んで軽く振ると、また清々しい音が周りに響く。二礼してから、お父さんがマイコンリーダーにマイコンをかざして賽銭を入れ、二人して柏手(かしわで)を二回叩く。

 私は手を合わせたまま目をつぶって、願い事を頭の中で唱えた。

──どうか、何があってもこの人が独りになりませんように。そして、最期まで一緒に居られますように。

 目を開けると、隣にいたお父さんも目を開けたようだった。合わせた手を離した私たちは一礼して、次の参拝客に場所を開ける。

「お願い事していたみたいだけれど、何をお願いしていたの?」

 私の問いに、お父さんは「願い事は話すと叶わなくなるんだよ」と自信満々に告げる。私が唇を尖らせたのを見たのか見なかったのか、お父さんは「御神籤(おみくじ)引きに行こうよ」といって足早に社務所に歩いていった。

 私がそのあとをついていくと、お父さんは二人分の料金を払うためにリーダーに左腕を掲げているところだった。

 電子音が鳴り、桐の箱についている電子可塑性導電高分子のふたが縮んでいく。お父さんが箱の中に手を突っ込み、一つだけ御神籤を取り出した。私もそれに倣って、一つだけ取り出す。手にしたのは大体縦2 cm、横5 cmほどの小さな紙の巻物だった。

「さて、何が出るかな。僕、御神籤って初めてなんだよね」

 わくわくしたように上機嫌な声でつぶやきながら、御神籤を留めている紙を雑に破く。私も親指を紙と紙の間に入れて極力破らないように気をつけながら、止めている紙を剥がして御神籤を開く。

 運勢、大吉。一番いいと言われている運勢だ。

「みてみて、お父さん!」

 私がお父さんに御神籤を見せると、「お、縁起が良いね。さて、僕はどうだろ」と言って御神籤を開く。すると、その顔が引きつっていくのが目にとまった。

「どうしたの? まさか末吉でも引いたの?」

 その言葉にお父さんは片頬をあげて、ぎこちない笑いを浮かべる。

「……見る?」

「うん」

 御神籤を受け取って運勢のところを見ると、そこには『凶』の字が一文字だけ書かれていた。思わず、お父さんの顔を見つめる。

「ほ、ほら、凶って大吉よりも珍しいんだよ?」

 言葉に詰まりながらもお父さんが取り繕う。私は少しの悪意に駆られて、御神籤に書いてあることを読み上げた。

「願望、未だ叶う時でない。待人(まちびと)、いつか来るが(しあわ)せ少なし。失物(うせもの)、出るが遅い。金運、節制せよ──」読み上げる私をお父さんは焦った声で遮る。「わかった、わかったから僕の運勢を公開するのは、ね?」

「そういうなら……」

 御神籤を返して自分のを見てみると、全ての項目で大吉らしい「良し、待て」とか「努めよ」とかいう文章が並んでいた。お父さんに言ったらバーナム効果が云々と返されそうだけれど、今年は良い年になるかもしれない。

「ねえ、リーベ。夕焼けが綺麗だよ」

 突然お父さんが私に声をかける。その声に顔を上げると、ほんの少しだけ有る雲に夕日が反射して、空が燃えていた。碧から橙へと変わる中に、蒲公英(たんぽぽ)色の炎が輝く。まるで乱雑にまき散らしたそれぞれの絵の具が図らずも調和しているような、そんな絵画を彷彿とさせる空だった。

 そのとき、私はあることを思い出した。そうだ、この言葉をまだ言っていない。

「お父さん、言い忘れていたことが」

 首を傾げたお父さんが「ん?」と声を上げて、こちらを見る。

「今日はありがとう。私の我儘を聞いてくれて」

 そういうと、「こちらこそ。リーベが居なければ、初詣なんか行かないだろうしね」と微笑んで、思い出したように手をたたいた。

「そうだ、これ言わないと」にっこりと笑う。「あけましておめでとう、リーベ」

 私は太陽を背にして、向き合うように立った。

「あけましておめでとう、お父さん」


【Record of ”Happy New Year!” The END】

【後書き】

 はい、どうも2Bペンシルです。皆さま、あけましておめでとうございます。なんか、2017年に2018年へ向けてメッセージを書いていると、お気軽タイムトラベルをしている気分になります。私はタイムトラベル否定派ですが。

 さて、実はですね、途中で雪村さんが「ほ、ほら、凶って大吉よりも珍しいんだよ?」と言っていますが、あれは(原本に則れば)嘘になるようです。とはいえ、その原本が見られず見つかるのがブログの記事だけということで、反映は致しませんでした。神社によって確率が違うこともあるそうなので、そうであれば間違いではありませんしね。

 また、例によって参考にしたサイト様は最後に掲載させていただきます。今回も読んでいただき、ありがとうございました。

 では、皆さま。過去からはよいお年をお迎えください。未来へは明けましておめでとうございます。来年もリーベ達をよろしくお願いいたします。


【参考にさせていただいたサイト様】

全般:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B8

着物関連:http://www.kanaiya.co.jp/mame/index.htm

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