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私のこころ  作者: 2Bペンシル
第一部・5
20/26

Record of "Log Ⅲ"

 2000PV記念の短編です。本編を知っていると細かい設定が分かりますが、知らなくても何とかなります、多分。

 直接、本編にかかわってくる部分というのはあまりないので、気楽に読んでくだされば幸いです。

 また、一部グロテスクなシーンを想起させる部分があります。ご注意ください。

≪Record of "LogⅢ" 20891130・21191130≫

 僕がボールを適当に放り投げると、いつも一緒に居るアンドロイドのEDM-2080がキャッチして、ゆっくりと取りやすい場所に投げ返してくれる。

 ボールを受け取り、また投げる。そして、アンドロイドが投げ返す。

 僕には友達がいない。

 だって、彼が一緒に居るから必要ないんだ。川村ちゃんには親っていうのがいるらしいけど、僕にはそんなの必要ない。

 茶色っぽい髪、たるんだ皮膚で少しだけ潰れている目と口、僕といつも一緒にいるEDM-2080はとてもやさしそうに見える。そして、本当に彼はとても優しくて、どんなこともやってくれる。ボールを投げれば受け取ってくれるし、本を読んでほしいっていったら本を読んでくれるし、とてもいいアンドロイドだ。大人たちはアンドロイドを「人じゃない」と言うけど、僕から見ればEDM-2080は立派な人間だ。

『マスター、そろそろお時間です。シェルターに戻りましょう』

 彼が落ち着く低い声で、僕に告げる。腕に書いてある時計を見ると、もう15:00だ。でも、まだ遊んでいたい。そういうとき、僕はいつも文句を言う。

「もっともっと。すこしくらいなら大丈夫でしょ」

 困ったように彼が首を左右に傾げてから、首を振った。

『ダメです。私は命令に反することができません』

 そういって、彼はシェルターに向かって歩き出す。僕は頬を膨らませて「やーい、ポンコツ」やら「命令しか聞けない機械め」やらを、彼の背中へボールの代わりに投げつけた後、彼の後を追いかけた。

 彼はこんなことを言っても、声を上げたり手を上げたりしない。だから、僕もつい言ってしまう。

 でも、僕は彼のことを信じていた。何より僕のことを分かってくれるから。


 シェルターに入って消毒やら着替えやらを一通り終えた後、彼が『さあ、夜ご飯にしましょう』と言い始める。

 おかしい。いつもなら19:00からがご飯だ。今の時間はおやつの時間なのに。

「EDM-2080、今はおやつの時間だよ」

『いいえ、マスター。夕飯の時間です』

 なんだか頭の後ろがソワソワする。こういう時はいつも嫌なことが起きる。

「今の時間はEDM-2080?」

 彼が顔を上に向ける。と思ったら、勢いよく下に向ける。俯いたまま、左右に激しく振り始める。

 その姿はとてもおかしいけど、笑えるようなものじゃない。もしかして、彼が壊れちゃったのかもしれない。だとしたら、とんでもないことだ。

「EDM-2080、今は15:32だよ。いつもはおやつの時間だよ」

 僕の言葉を聞いた彼が顔を動かすのを止めて、見たこともないような顔で僕をにらみつける。驚いた僕は、空気が抜けるような音が聞こえ、思わずしりもちをつくように後ろから倒れた。腰が抜けてしまったみたいだった。

『いいえ』彼が怒声を浴びせる。『今は今は今は……』

 逃げようとするけど、足が動かなくて立ち上がれない。僕は何度か深呼吸して、気持ちを落ち着かせる。その間、彼は『今は今は』と唸りながら右、真ん中、左、真ん中、右……と絶え間なく首を振り続ける。

──とりあえず、助けを呼ばないと。

 後頭部のソワソワが収まらないまま、僕は言う事を聞く腕だけを使ってコンソールに向かって這う。コンソールにさえ触れれば、非常事態だってシェルターの外に伝えられる。そうしたら、誰かが彼を助けてくれる。

 その時、彼が動かしている首を真正面に向け、僕を見た。無表情だ。彼の顔には何にもない。

『ダメダメダメダメダメ』

 そう言いながら、狂った、目を見開いたEDM-2080が中腰になって迫ってくる。

「くるな」

 僕が追い払おうと左腕を振りかぶると、手のひらが覆いかぶさろうとしていたEDM-2080の顔に当たった。

『イタイイタイイタイイタイイタイ』

 奴の右手が折れそうなほど強い力で──ミシミシと音が聞こえていたように思う──僕の左腕を掴む。体をよじっても、奴の拘束は解けそうになかった。

「痛い、命令だ、やめろ」

 思わず僕が叫ぶ。奴は掴んだまま、キョトンとして首を一度だけ左右に振った。そして、「わかりました」と快活な声で答え、僕の腕を掴んだまま、勢いよく自分の体に右手を引き寄せる。

 その勢いは相当なもので、僕の目には見えなかった。けど、その手に掴まれているものが何かは分かった。そして、妙に体の左側が軽いことも。

 奴が僕の顔を見る。右手を見る。掴まれているものを見る。

『アブナイアブナイアブナイアブナイ……ハイジョハイジョハイジョ……』

 そう呟きながら、奴は湿った音を立てながら──。

「あ……ああ……」

 僕は痛いと感じなかった。生温かい何かが迸ってそのたびに寒くなる感覚はあるけど、それだけだった。でも、自分の左側に目を向けられない。向けたら、見たくないものを見てしまうような気がしてしまって、向けられなかった。何と言っても、目の前にあるものが信じられなかった。お腹の上の辺りから込みあがるものを感じて、思わず僕は床に吐いた。

 どうしてこんなものを見なきゃいけないのだろう。どうして彼はこんな風になってしまったんだろう。一体、何があったんだろう?

 口の周りを赤くした奴がいきなり叫びだす。僕は寒気と恐怖で身を震わせた。

『ダメダメダメダメダメ』

 半分くらいになった腕を持ったまま、コンソールに向かう。僕はそれを眺めていた。コンソールについた奴は警報を押したみたいで、シェルターの中に警報が鳴り響く。

 そして、近くにあったペンを自分の顎に──。


「──やめろ!」

 叫び声が反響して、俺の耳に鈍った自分の声が届く。辺りを見回すと、そこは相変わらず動物の匂いが漂う俺の寝室だった。いつの間にか乗っていたキジトラ猫が俺の顔を見上げているのが、窓から差し込む月明かりで見えた。まだ外は暗い。

「……夢か」

 ナイトテーブルに乗せてある時計を見ると、今は3:35だった。

「くそが……」

 俺は起き上がってキジトラを避けてベッドから降り、顔を洗おうと思って洗面所に向かう。

 歩きながら、あの日のことを思い出していた。結局、あれは命令過多と量子ポテンシャルの対消滅による──つまり俺が悪い──致命的なバグが原因だった。そして、何を思ったのかEDM-2080は、自らペンを顎の下に突き刺して機能停止することを選んだ。自殺したロボットということで珍しく世間を騒がせたものの、ロボット三原則第一条を破ってしまったことが、奴にとっちゃ何よりの問題だったらしい。

 以来、俺はアンドロイドがある程度近づいてくると、吐いたり気絶したりするようになった。それに肉を見ると、自分のちぎれた左腕のことを思い出すのか吐き気がして、肉も食えない。そして、必ず『あれ』が起きた日には、こんな夢を見るようになった。それも丁度、12時間前の3時35分に必ず目が覚める。

 医者に言わせると、ほぼすべての症状の原因はPTSD(心的外傷後ストレス障害)だそうだ。しかし、カウンセリングも投薬もEMDR(眼球運動による脱感作及び再処理法。PTSDやパニック障害の治療法の一つ)も脳モジュール回復治療も効果が上がらず、もう何年も行ってない。

 洗面所についた俺は右手で蛇口をひねり右手で椀を作る。中腰になって椀に水を貯め、顔に何度か浴びせると少しは気分が晴れた。何度かやって、十分だと思って顔を上げる。

 鏡にEDM-2080の顔が映っていた。

 反射的にこぶしを固め、右腕で殴りつける。ガラスの破片が散らばり、少しだけ残った鏡に俺の顔が映る。

──また幻覚だ。

 濡れた顔のまま、洗面台の前にへたり込む。この夢を見るといつもそうだ。必ず、鏡にあいつの顔が映る。あいつの、亡霊(ファントム)が映り込む。

「もうやめてくれよ……」

 雪村に俺のトラウマを打ち明けたとき、あいつは皮肉の一つも言わずにただ俺の話を聞いてくれた。そして聞き終わった後、「沢井があの事件の当事者だとは知らなかった。話したくなったら、いつでも相談してきて。僕にできることはそれだけだから」と言っただけだった。それで随分救われて、何度もあいつに相談に行った。何度も何度も行っても、嫌な顔一つしないで聞くだけだった。

 でも、あいつにいつまでも頼っているわけにはいかない。もうあれから30年だ。いい加減、蹴りをつけないと。

 洗面台を支えに立ち上がる。鏡を見ると、ひび割れた鏡に映る顔は俺の顔だった。奴の顔じゃない。

「もうお前は死んだんだ、EDM-2080。中にも、外にも、お前はいない」

 これで何度目になるのか。吐き捨てたセリフの余韻が空気を漂い、霞のように俺の周りのまとわりつく。俺はそれを振り払うかのように踵を返した。 

【後書き】

 はい、どうも2Bペンシルです。今回も読んでいただき、ありがとうございます。

 いやあ、遅れに遅れてやっと出せましたよ、2000PV記念短編。持病の悪化とレポート課題とテストとバイトにタコ殴りされるとは……あ、持病の方は薬で何とかなるのでご心配なく。そしてどうでもいいですが、2303PVをすでに達成していました。ありがとうございます。

 さて、比較的露出の多い沢井先生の過去、いかがでしたでしょうか。できるだけグロテスクなシーンの直接表現は避けましたが(ゴア表現は私自身あまり好きではないため)、「こういうことがあったんだな……」と思っていただければ幸いです。

 ちなみに、途中で出てくるキジトラ猫ですが、沢井先生がアングラで買い取った猫です。この後、良い里親に引き取られて、寿命を全うしています。きっと二度と出てこないと思ったので、簡単な略歴をつけさせていただきました。

 次は3000 PVくらいに‶LogⅣ‶をば。次はだれにしましょうかね……。周防君、コンちゃん、千住さん、モブキャスト……は寝てPCWに居るだけになりそうです。もし、気になる方がいらっしゃれば、Twitterでもどこでもいいのでご連絡ください。

 今回、参考にしたサイトというのは特にないので、省略させていただきます。では、今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。これからもよろしくお願いします。

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