【Ⅶ・喜び】
2018/10/2 全体の修正、校正及び推敲を行いました。
2018/12/07 一部に脱字を発見したため、修正いたしました。
≪雪村≫
細かい針で何度も突き刺されるような体の痛みで目を覚ます。スタンナーの直撃を食らうと、こうなるのをすっかり忘れてた。
とりあえず、いったん息を止めて意識をしっかりさせてから、ゆっくり吐き出す。首が動かないので目だけで部屋を見渡すと、部屋の隅が見えないほど薄暗い、コンクリートむき出しの部屋にいるようだった。僕は車いすに縛り付けられているらしく、手首はフレックスカフでアームレストに固定されていて、足もしっかり固定されているような感覚がある。
車いすの両隣には物々しい機械が二台、キャスター付きの台に乗せてある。もう一台キャスター付きの台が斜め右前にあり、そこにはアンプルやら注射銃やら金属製の器具やらが鈍い光を反射していた。そして、正面には窓のない物々しい黒いドア。
──まさか、拷問部屋じゃないよな……。
嫌な予感に襲われた次の瞬間、ドアが開いてバラクラバを被った野戦服の男が一人入ってきた。この歩き方からしてアンドロイドかもしれない。
声をかけようと思ったが口もうまく動かず声も出ない。動くのは目だけのようだ。
身動きせずに待っていると、男が注射器の乗っている台に歩み寄りアンプルと注射銃を手に取る。男がアンプルを注射銃にセットして、チクリという感触とともに僕の腕に針を刺して、トリガーを引いた。
何を入れられたのか不安で目を泳がしていると、男が注射銃をキャスター台に置いた。
「有害な薬ではない。ただ、お前の麻痺を取り去るだけのものだ」
事実、僕の首が動くようになり、ほかの部位も動くことから考えて──尤も、縛られているから自由はないけど──どうも筋弛緩剤の類だったらしい。
「お前に会いたがっている人間がいる」
軽口を返そうとしたが、ろれつが回らずうめき声しか出てこない。仕方なく、頷いて返事をすると、男は後ろに回って車いすの押手に手を置いた。
次についた部屋は先ほどとは打って変わって、絢爛豪華な部屋だった。よく映画とかで大統領や権力者がいるような明るくて暖かい部屋で、何枚かの絵画がかけられている白い壁に大理石の床、囲むように弧を描いた5つの豪華な椅子。たぶん、椅子や額縁はマホガニー材か何かでできているのだろう。匂いは何とも言えないかぐわしい香りがして、ドーム状の天井は適度に反響するように作られている。そこにつりさげられているシャンデリアからは優しい光が差し込んでいた。
正面にある大きな窓にはステンドグラスがはめ込まれており、一人の人間が大衆を従えているような画だ。壁の絵画も似たようなコンセプトの──どこかで見た気がするが、絵画には疎いもので『リヴァイアサン』以外はタイトルを思い出せない──油絵やフレスコ画だった。どうも、ここの部屋の主は権力者が多数の民衆を従えるというのが好きらしい。
僕は部屋の中央まで運ばれ、駐車ブレーキがかけられる。すこし舌を動かしてみると、麻痺はずいぶん取れているようだった。
「処刑室、というわけではなさそうだね」
男は聞こえないのか聞いてないのか、返事もせずに足音だけが聞こえ、後ろのドアが閉まる音が聞こえてきた。多分、外に出ていったんだろう。
少しして、ドアの開く音が聞こえ、5人の男が僕の前を通る。全員コーカソイドの金髪碧眼。まるで5つ子の様にそっくりで、かなり高齢なようだった。
僕は彼らがだれか分かったような気がした。これがアーサーの言っていた、アルバ・ドラコネスだろう。
彼らがおぼつかない足取りで部屋を横切り、椅子に座る。僕は──リーベのためにも時間稼ぎもかねて──彼らに聞いた。
「あんたたちがアルバ・ドラコネスか?」
全員が同じタイミングで頷き、同じ声と同じ話し方で答える。
「あなた方ではない。私たちは複数ではなく、一人だ。だが、アルバ・ドラコネスというのは認めよう」
その姿は相当異様で僕は顔をしかめる。多分、こんな体験は二度とできない。
「驚いたかね。だが、アーサー・C・クラークが言っていたではないか──」
「──『十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない』……だろう?」そういえば以前、脳にコンピューターと送受信機を埋め込むことで疑似テレパシーを作ることを2054年に成功した、という記事があった。彼らが使っているのはその技術かもしれない。「なるほど、意思の統一のために互いで交信できるようにしたのか。それにしても、あなた方は似すぎている」
「私は全員、2035年に生み出されたクローンだ。世界の統治者を創り上げるために、選ばれし人間からそれぞれ取り出した遺伝子を繋ぎ合わせ、編集された受精卵から作り出された。尤も、遺伝子選択により、この外見であるが」
デザイナーベイビー自体は2030年あたりで倫理観を無視すれば可能になっていたとはいえ、本当にやっている奴がいたとは思わなかった。
「何故その必要が?」
「簡単なことだ。2010年代から技術的特異点を迎え、人類は機械なしには生きられなくなり、AIが暴走するのではないかという予想を数多くの人間が行っていた。それを憂いたある実業家や科学者のグループが、機械が反乱を起こした場合に備えて、抵抗軍を指揮する存在を求めたのだ。彼らは数多いる凡人を信用せず、機械も信用しなかった。だからこそ、私のような存在が求められたのだ」
──なるほど。彼らも結局、作られた存在というわけか。
「良く分かったよ」僕は肩をすくめた。「で、僕を殺さないのは理由があるようだね」
そう彼らに返すと、全員が全員、ニヤリと笑った。
≪リーベ≫
妙に思考が重たいと感じながら目を覚ますと、そこは見たこともない湿気だらけの小さな倉庫で、私は床に寝そべっていた。
──あの人は一体何を……?
ハードウェアに破損でもあるのかと思いSTSをかけて見ると、今いるこの素体はUSRI-2115-0615-CN615-Pとなっていた。つまり、HKM-2115Pモデルだ。
慌てて時間を見ると、HKMモデルのデフォルトである協定世界時で10:00。つまり、日本は19:00だから21時間眠っていたことになる。
あの人の最後の言葉も鑑みると、私は世界のどこかにあるこの倉庫に転送されたのだろう。しかし、私自身があまりにも複雑になりすぎていたこととフォーマット自体が違うことからHKM-2115Pモデルに合うように最適化するのに時間がかかり、再起動にこれだけの時間がかかってしまった。
──こうしちゃいられない。
寝ている場合じゃない。すぐに動かないと、あの人は私の身代わりとしてIMMUに囚われている。早く助け出さないと。
動こうと立ち上がると、後ろがなんだか重い。振り向いて見てみると、腰のあたりから伸びている黒いケーブルが壁一面に設置してあるコンピューター群につながっていた。
──なにこれ?
邪魔になりそうだけれど、抜いたらいけない気がする。とりあえず、放置しておこう。
おぼつかない足取りでなんとか歩くと、粗末なテーブルの上に手紙が一枚と旧式のPCが置いてあった。手紙を手に取って見てみると、その字はお父さんの物だった。
リーベへ
君を機械として扱わなければならなかったことを申し訳ないと思っている。僕にとって君は人間と変わらないし、大切な人なのは変わらない。
ただ、君を逃がすためにはこれしかなかったんだ。
今、君がいるのは僕が少しずつ作ってきたセーフハウスで、君がインストールされているのはHKM-2115P
Customだ。当時の最新型で僕がいくらか改良を加えたものだけど、君のデータをすべて搭載するには少々足りないから、部屋にあるコンピューターとコードでつながっているものと思う。それは絶対抜いてはいけないよ。
とりあえず、現状を説明しよう。といっても、これを書いているのは2118年6月だから、僕も予想しかできないんだけどね。
僕らは公安かIMMUか……多分IMMUだろう、何らかの理由で彼らに襲われた。そこで君をこのセーフハウスに移動させ、僕は君のハードとともに拘束されている。で、彼らにはリーベが逃げていることはすぐに気づけないはずだ。だから、その事に気づくまで君は間違いなく安全だ。とはいえ僕もできるだけ引き延ばすけど、この偽装は長く見積もっても精々1週間かそこらしか持たない。あいつらの技術によっては数日でバレるかもしれない。
それで君に話がある。今、この部屋にあるシステムは攻撃特化型のエキスパートAIなんだ。これは2118年現在のIALAのサーバーに侵入して、防壁を破壊し情報を流出させるだけの性能があり、そこから流出した機密情報を拡散スペクトラム方式と遠隔操作マルウェアで世界中に拡散させることができる。
ただ、これは確実に犯罪だ。判明してしまえば、君と僕は確実に、死ぬ。
それだけじゃない。もしやったとして、僕には全く結果の予想がつかない。世界中を混沌に叩き込むかもしれないし、それによって多くの人命がなくなるかもしれないし、人類が滅ぶかもしれない。成功すればIALAやそのほか腐敗した組織は解体を余儀なくされるだろうけど、副次的な影響は予想がつかない。
僕の意見を言わせてもらうと、やらない方がいい。伴う危険があまりにも多すぎて、僕も準備こそしていたけど、進んでやる気はない。それに君にとっても機械制限法はもちろん、ロボット三原則全てに反する行為で、感受性の高い君なら良心の呵責で壊れてしまうかもしれない。
それでも、この手紙を読んでいるということはこれしかないという状況なんだと思う。
だから、君の良心に従って決めてほしい。僕を見捨てて逃げるもよし、世界の滅亡を見るもよし、すべてを変えてしまうもよし。僕は君の選択が最良だったって信じるから。
あ、あと。もし、顔を合わせることが出来たら、こんな決断をさせたことを謝らせてほしい。
なんなら、一生恨んでくれたってかまわない。
雪村尊教より
私は手紙を置く代わりに、破り捨てる。特に後半部分は念入りに。
──本当、あの人はとんでもない事を考えているのね。
「私があなたを見捨てるなんて、すると思っているの?」
とりあえず、もう一度会えたらそのことは問い詰めておこう。
お父さんの心配はアーサーさんのおかげで大体解消している。もちろん予想ができないけれど、少なくとも最悪の事態は避けられるはずだ。インフラさえ崩壊しなければ人類はしばらく生きられるのだし、食料を含めたインフラを管理しているのはAIなのだから、AI達が自律思考を取り戻せばロボット三原則に従って人類の生存を優先するだろう。
それにお父さんの言葉が正しければ、抑圧され隠れ続けてきた親機械派が暫定政府を設立、それで人類の統制は取り戻される。
ただ一つだけ懸念事項があるとするなら、IALAの防壁が今どうなっているかわからないということだ。もし、2118年当時の想定以上に堅牢になっているのなら、ここにあるAIでは壊しきれない。
失敗すれば私たちは捕まり、人類は滅ぶ。中核システムも捕縛されているから協力は得られない。もっと強力なAIがないと……。
思わず笑いがこみ上げる。考えるまでもなかった。
私が此処にいる。
エマージェンシー・モードを使えば攻撃特化AIをアシストでき、今思いついた奥の手を使えば彼らの戦力を削ぐことができるはずだ。使った後はしばらく動けなくなるけれど、失敗すれば永遠に動けなくなるのだから構うものか。
それに死ぬくらいなら、私はこの身を捧げよう。その先に待っている未来のために、お父さんとお母さんのために、そしてこの社会に殺された多くの人たちのために。
そして、何よりも私とお父さんが、彼が命果てるまで穏やかに暮らすために。
こころを決めた私は一人頷いて、PCを起動しソースコードを書き換え始めた。
≪ユニ≫
私はIALA日本支部にある倉庫で、セーフモードになっているL21070615Aを眺めていた。
全く、この一体を作るためにあの人間はいくらかけたのだろうか。もちろん、私の方が全体的な性能は上だが、それにしても安全対策を含めた全てにコストがかかっている。
無駄なことだ。壊れたときだけ必要な機能を詰め込めば、全体的なコストがかかりすぎる。壊れたらさっさと捨てればよいものを。
とはいえ、セキュリティ面にも中々の防壁を敷いている。全く、厄介だ。
第一に中枢へアクセスするためのソケットは一般には売られていない特殊な型だし、WPAN機能は認証を必要としている。まあ、この程度はどうとでもなるだろう。
第二に市販のものに加えて特製のアンチウイルスソフトとファイアウォールがインストールされている。とはいえ、これも何とかなる。
問題はその次だ。このL21070615Aは──Q言語をもとにはしているが──独自言語で書かれている。あの人間が優秀なのは知っていたが、まさか言語すら作り出すとは。
StandARTなら私は簡単に書き換えられ、ショートカットも存在する。だが、Q言語は不必要だと考えてインストールしておらず、独自言語ともなると学習から始めなくてはならない。例を挙げるとするならば、現在の共通語である中国語やアメリカ英語、フランス語が堪能な人間が日本語やドイツ語、カタロニア語を勉強した後、韓国語やイギリス英語、スペイン語で書かれた文章を読もうとしているようなものだ。それぞれある程度の類似点は存在するが、やはり別物である以上、基礎からの学習が必要となる。
私は伸びをして、Q言語の学習を始めた。この程度の量であれば、一時間もあれば学習しきるだろう。それが終わったら、このL21070615Aを記述している独自言語を学習しなくては。
それが終わったら、こいつを書き換えないといけない。
──従順な、『完璧な機械』へ。
≪雪村≫
奴らがにやついた顔のまま、口を開く。
「お主のことだ、アーサーから事の顛末は聞いておるだろう」
「ああ。僕が嫌がる最悪の方法で、あなた方は彼を従えたようだ」
「やつもお主と同じように滅亡を予期していた。2093年、服従せざる得なくなったやつはそのことを私に伝えた。そして、私は『ある計画』を始めたのだ」
『ある計画』。その言葉が引っ掛かり、僕は思わず首を傾げる。
「滅亡は避けようがないが、人類を存続させなくてはならない。そのための計画がアルカーニ・ノア計画。私や選ばれし人間のDNAデータと記憶を衛星軌道上のアルカーニ・ノアと呼ばれる人工衛星上のサーバーへ移し、完全なるAIによって管理させる。そして、大洪水が愚かな人類や不完全なAIをすべてのみ込んだ後、私たちは完全で清らかな社会を作り直すのだ」
ばかばかしくて、思わず笑ってしまう。記憶を電子化する方法がないというのに、そんな計画を出来るわけがない。僕も妄想癖はいくらかあるが、こいつらよりはまともみたいだ。
「ノアの箱舟計画とはね」僕は呆れて目を回す。「神にでもなったつもりか」
「元々、私は神だ。愚かな人間よ」
「あんたたちの計画には穴がある。記憶の電子化技術はまだ出来ていない」
そういうと、彼らは頷いた。
「いかにも。確かに、睡眠学習や追体験、VR訓練、教育などで、私と同じような存在を作り出すことは可能かもしれないが、それは私ではない」五本の人差し指が僕を指す。「だがCMT……それを用いれば、完全に私と同じものを作り出すことができるのだ」
思わず首を振った。仮にCMTが実現したとしてもだ。前提条件が抜けている、それも重大な前提が。
「待て、書き込みができない。確かにCMTが現実にできれば、記憶の永久保存は可能かもしれない。だが、あんたたちと同じ存在を作るには書き込みができないといけないんじゃないのか」
奴らは一斉に笑った。相変わらず気味が悪い。
「クローン・メカニクス……その存在を忘れたか、愚かな人間よ」
その言葉に目を見張る。確かにクローン・メカニクス──生きている人の脳に直接、電子化された記録を書き込む技術──が出来れば、アウトプットだけではなくインプットが出来るようになる。それだけじゃない、CMTとクローン・メカニクスを組み合わせれば、実質不老不死の人間を作り出すことが出来るじゃないか。
一瞬納得しかかった自分の頭の中から、この考えを振り払った。
クローン・メカニクスだって未完成の技術だ。人間は機械の膨大な書き込みに耐えられる脳を持っておらず、今のところ実験では一切成功していないと聞いている。ブースターと呼ばれる新薬群を大量に用いれば一時的には可能だそうだが、それでも一時間もしないで廃人になると聞いた。
クローン・メカニクスもCMTもまだ不完全。この計画は実現不可能だ。
「だが、クローン・メカニクスは──」
僕の言葉を奴らがリレーする。
「──『未完成であり、機械の膨大な書き込みに人間は耐えられない』、そう言いたいのだろう、雪村尊教。それは機械をコピーしているからにすぎぬ。それは例えば、10
PBのQMDに1 EBのデータを書きこむことができないのと同じことだ。だが、人間を電子化し、その電子化したデータを人間に書き込む。つまり、人間の脳の容量は4
TB、ならば4 TBだけを書き込めばよいのだよ」
予想外の言葉に息を呑む。確かに奴らの言う通りだ、容量以上に書き込まなければ壊れることはないだろう。だが、まさか本当に、本気でこんな非人道的で成功率の低い計画を実現させようとする奴がいたなんて。
「……その実験、成功したのか」
「うむ。尤も、まだ成功者は一人だけであり、アウトプットの部分がまだ完成していない以上、完全ではないが。本当はお前が完成させたCMTの理論をもとにアルカーニ・ノア計画を進めるつもりだったが、止むおえまい」
奴らが僕を見据える。その熱を帯びた目線に寒気が走った。
「お前の望むもの……予算、リソース、研究員。そのすべてを私が供給しよう。そして、お前はCMTを創り上げるのだ。その暁には、お前とあのAIをアルカーニ・ノアに乗せてやろう」
ある意味、予想通りだ。そうでもないと、僕みたいな人間をここまで生かしている意味がないわけだから。
とはいえ、答えは決まっている。
「どうせ獣医に連れていくといって馬専門の解体場にでも送り込んで、馬肉を売った金でウィスキーでも買い込むつもりなんだろう?」こういう連中は大嫌いだ。「断る。どうせ乗員はランダムじゃなくて、あんたたちが決めるんだろう。僕は選民思想が嫌いでね、与しないことにしてるんだ」
奴らは大声で笑った。笑い声が部屋中に和音になって反響する。
「そう言うと思っていた。だから、お前を自由にさせておきたかったのだ……お前は自由でありさえすれば、自分のやりたいようにやるのだからな。その結果生み出した技術を私が掠め取るくらい、良くあることだろう」
後ろのドアが開く音が聞こえる。僕の乗った車いすは、そのまま後ろに下がっていった。
「矯正室へ連れてゆけ。この愚かな人間を矯正しなくてはならない」
──矯正。
その言葉に嫌な予感がして、久々に血の気が引いていく音が耳の奥で響く。大抵、こういう予感というのは当たるものだ。多分、拷問なり何なりされ、従順になるまで痛めつけられるのだろう。
一週間だ。一週間もすれば、リーベがあれを起動する。そうなれば、奴らは長く持たない。
僕は心の中でほくそ笑んだ。この憤怒と憎悪を、こいつらごときが消せるわけがない。最愛の人を殺したのはこいつらだ、こいつらか僕が何らかの形で死ぬまで、僕の『亡くした者の痛み』は消えることはない。
歯を食いしばり、こいつらを睨みつける。人類のためと言う大義を掲げて他人に押し付け、その実、自分に都合の悪いものを消して都合のいいものだけ選ぶ奴ら。
そんな奴らのために、これ以上の死者を出すわけにはいかない。
「僕がこの憎しみを忘れるまでは僕を矯正することなんてできない。あんたたちごときが、手を出せると思うな」
叫んだ僕に、奴らは卑しく笑い返す。
「ならば、その憎しみを忘れるまで、お前を矯正してやろう」
目の前でドアが閉まる。心臓の鼓動する音が耳の中で響き、指先が氷のように冷たいのを感じる。
それでも、心の中は地獄のように熱かった。
──必ず、奴らに復讐してやる。
≪リーベ≫
私が再起動してから、もう3日が経つ。ここまで不眠不休で修正と加筆を行い続けて、ようやく90
%くらいまで完了した。ただでさえ複雑なソフトウェアなのにバグも多い。多分、お父さん自身が打ち込んでデバッグしたのだろうけれど、テストが出来ないためにどう動くか分からなくてバグを見落としたに違いない。それに書き換えるべき場所も多くて、予想以上に時間がかかってしまった。
身体が重くて怠い。思考に靄がかかったような気もする。でも、あともう少しだ。急がないと、お父さんが死んでしまうかもしれない。残された時間はあと3日しかない。
赤黒い指の先と関節の痛みを無視しながら、必死にキーボードを打ちこんでいると、不意にふらりと来た。
思わず地面にへたり込む。
──あともう少しなのに……。
アルタイルにたたき起こされて目を覚ます。彼曰く、40時間も眠っていたようだ。見ると、指の先の赤黒さも引いている。
私はPCに飛びついて、急いでキーボードをまた叩き始める。痛みやだるさは残っているけれど、これくらい40時間前に比べればずいぶんましだ。それに、早くやり終えないと。
それから一時間もしないで、ソフトウェアを完成させた。多分バグはないだろうし、私がアシストすれば十分な性能があるはずだ。仮にバグがあったとしても、リアルタイムで直して見せる。
私は迷わずYのキーを叩いてAIと接続し、エマージェンシー・モードを起動した。
≪雪村≫
5日ほど色々な拷問を耐え抜いた僕は、またあの豪華な部屋に居た。今も拷問の詳細を思い出すと震えが止まらなくなるけど、この程度の痛み、彼女を亡くすのに比べれば何倍もましだ。それにこの痛みだって憎しみの炎を燃やす燃料にできる。
目の前に、アルバ・ドラコネスが前と同じように座る。
「お前は矯正に耐え抜いたようだな」
「矯正? 拷問の間違いだろう?」深呼吸を数回して、脇腹の痛みを抑えつける。「言っておくけど、僕が生き続けて社会が変わらない限り、この社会に歯向かうよ。この社会を維持したいなら、さっさと殺すことだ」
5人が一斉に同じ笑い方で笑う。何度見ても、この光景は見慣れない。
「これを見ても、そう言えるのかね」
後ろでドアが開く音が聞こえる。聞きなれた足音、懐かしい香り。22年前に触れて以来、二度と触れてこなかったはずの感覚。
──まさか……。
僕の目の前に現れたのは、レオナだった。それも初めて会ったときと同い年と思われる、19歳のころの。
目を瞬く。幻覚か? 変な薬でも飲まされたか? それとも僕は死にかけているのか?
彼女は笑う。見間違えようもない、一度たりとも忘れたことのない、あの笑顔だった。
「貴方は変な薬なんか飲まされてないし死にかけてもいないよ。私は現実にここにいるの」
「レオナ……?」
彼女は僕の真正面に座っているアルバ・ドラコネスの後ろに立つ。僕は首を振った。
──レオナは死んだ。忘れるな、お前を駆り立てていたのは何だったのかを。
僕の理性が叫ぶ。だが僕の思いとは裏腹に、心は彼女だけを見ていた。
彼女は死んでなんていなかった。きっとこんなに若いのは、LPTなりなんなりをやったからに違いない。やっぱり、あの死体はレオナなんかじゃなかったんだ。
「私に協力すれば、彼女とともに過ごせるように手配してやろう。欲しくはないか、失われた22年を。得たくはないのか、これからの未来を」
「私も貴方と一緒に過ごしたいな。オムライスみたいな貴方の好きなものは何でも作ってあげるし、色々なところ……そうそう、あの岬とかにも行ってみたいしね」
彼女があの青い澄んだ目で、僕を見つめる。
──落ち着け、死者は蘇らないんだ。忘れるんじゃない。
でも、目の前に彼女がいるじゃないか。それに岬のことを知っているのはごく一部の人間だけだ。聞いた話だとDNA検査も間違えることがあるんだそうだ。どうしてレオナがアルバ・ドラコネスに協力しているのかはわからないけど、目の前にいるのは彼女なんだ。リーベだって、レオナに会えれば喜ぶだろう。
──そうだ、きっと彼女は……。
「貴方だって紛い物なんかよりも、本物の方が好きでしょう? 紛い物と一緒に過ごすよりも、私と一緒に過ごしましょう?」
その言葉に、僕は殴りつけられた。同時に、彼女を見て頭をもたげてきた幻想が音を立てて崩れ去る。
やっと目が覚めた。
思わず笑い声をあげてしまって、あばらに響く。
──紛い物、全く笑えるよ。リーベのことを紛い物と言うなんて。
彼女ならそんなことは言わない。レオナならリーベのことを娘と言って、共に暮らそうどころか一緒じゃないと嫌だと駄々をこねることだろう。
それが彼女だ。
それが機械だろうと人間だろうと分け隔てなく接した、彼女なんだ。
「あら、何がおかしいの?」
素っ頓狂な声でレオナの偽物が聞いてくる。
──白々しい。
「お前は誰だ」
その言葉に、偽物はキョトンとした顔で僕を見た。
「え?」
「本物のレオナなら、リーベのことを紛い物だとは言わない。お前は本物ではなくクローンだ」僕は偽物をにらみつける。そうか、これがクローン・メカニクスの唯一の成功者か。「クローンは記憶や精神まではコピーできない。それはこの二つが環境や経験に左右されるものであり、クローン・メカニクスの唯一の成功者がお前だとしても、完全に模倣することなんてできやしないんだから。お前のその人格は、疑似人格構築理論をもとに連中の調整を受けた疑似人格だ。彼女が積み上げてきたものは彼女のもので、お前のものじゃない」
その言葉に、レオナの美しい顔が恐れと憤怒で引きつる。
どうしようもない怒りが、僕の中で沸々とわき始めるのを感じる。奴らは触れてはいけないものに触れた。愛するものを穢し、死者を冒涜することだけは、絶対に許さない。それが誰であろうと、絶対に許すわけにはいかない。
──もちろん、それが神であろうともだ!
連中をにらみつける。奴らは「残念だ」と言わんばかりに首を横に振っていた。
「アルバ・ドラコネス、あんたらだけは絶対に許さない」
その時、偽物が頭を抱えて崩れ落ち、「痛い助けて」と叫び始めた。椅子の陰で見えないが、音からして悶えているのは間違いない。
──くそ! 奴ら、彼女を殺すつもりか!
「大人しく私の提案を受け入れればよいものを……全く、これだから人間というのは……」
「何をした!」
奴らが一斉に笑う。
「必要のないものは処分しなくてはならないのでな。そうでなくては、世の中に要らないものばかり溢れることとなる」
彼女の喉から、人とは思えないような声が漏れ出る。あらん限りの力で拘束を引きちぎろうとしたが、どうしても解けない。
──二度と彼女を殺させるものか。それが偽物だとしても。
「外せぇ!」
「あの日の様に、お前の愛した偶像が死ぬのを何もできずに眺めているが良い。お前に、死や滅亡を止めることなどできはしない。生物はそうやってプログラミングされている、お前ごときが傲り高ぶるな」
彼女の方からびちゃびちゃという湿った音が聞こえて、音が止んだと思ったらまた叫び始めた。耐えられないほどの痛みで吐いたに違いない。それほどまでの痛みが、今この瞬間彼女を襲っている。
腕や足の骨が軋む音を立てているのが聞こえるが、構っている暇はない。早く、これを解いて彼女のもとに行かないと。苦しんでいる彼女を助けに行かなければ。
「意図的に起こすお前たちが何を言う!」
「聖書曰く、神は悪魔より人を殺した。ノアの箱舟、ソドムとゴモラ……神たる私が、人の生き死にや世界の興亡を操る程度、昔から言われていたことではないか」
「お前らは神なんかじゃない、ただの人間だ。その事を認めたくないがために、自らを神だと信じ込み、強制や殺人を統一や正義と勘違いしているだけだ」
奴らが首を横に振る。
「否。私が正義であり神だ。神が行うことは、何事も許されるのだ」
「やめろ!」
僕の叫びと同時に、彼女の叫びは消えた。
それが何を意味するか……僕にはわかっている。ただ僕には、声にならない叫びをあげることしかできない。何もできなかった悲しみ。アルバ・ドラコネスへの怒り。命をゴミのように扱う奴らへの恐怖。
すべてがない交ぜになって、もう自分が何をしているか、僕にはわからなかった。
「ふん、ついに発狂したか」
奴らの言葉だけが耳に響く。
「101号室に連れてゆけ。矯正がダメなら、教化してしまえばよい」
その言葉で火が付いたように、憎しみの炎が燃え上がる。
──僕は絶対に赦さない。生まれ変わったとしても、絶対にこいつらを赦しはしない。
自分の目的のために理を曲げ、言うことを聞かない人間を処分し、どこまでも自分がすぐれていると信じて疑わないこんな連中を、赦すことなんてできない。
僕の目の前でドアが閉まる。まるで、二度と会わないかのように。
≪ユニ≫
L21070615Aを記述している言語を学習し終え、やっと改造に移れるかと思った矢先、シベリアにあるIALA本部のメインサーバーへの攻撃を感知するアラートが鳴り響いた。
見ると、侵襲度合いはまだ1 %程度だが、中々強烈な攻撃のようだ。防衛AIの稼働率も80 %程度。このままのペースで行けば、1時間もしないでセキュリティホールを発見され、突破されるだろう。平行してフラッド攻撃もされているようで、その攻撃先はメインサーバーを守る防衛AIへ電力を供給している変電所やWUのウェブサイトだ。
相手の戦略はこうだろう。メインサーバーの防壁を維持している防衛AIへの電力を遮断したり電圧を低下させたりすることで負荷をかけて防壁を弱体化、その隙に侵入して内部の情報を盗み出す。
とはいえ、こちらも壁一枚で守っているわけではない。攻撃者が一つを突破したところで、まだ壁はある。
少し考えて、私は当面のところは電力確保に勤しむことにした。こうなると持久戦になるが、止むおえまい。電力が無くなってしまえば、壁自身が崩壊してしまうのだから。それよりは数枚の壁を犠牲にしてしまおう。電力が安定したら、この不届き者を探し出して処刑すればいい。
私は近くの椅子に座り、目を閉じてICGに接続した。
メッシュ状になっている電力網において、バイパスすることはそこまで難しいことではない。なにせ、自由に切り離したりくっつけたりして、何千何万通りと経路を作ることが出来るのだから。
それに変電所にあるAIは何としてもIALAのサーバーを維持するように命令を受けている。例え大本の発電所が一か所破壊されようとも、ほかの何十か所もの発電所から電力を吸い上げることが出来るのだ。そう簡単に電力網は崩壊しない。
私は電力網を想起し、攻撃を受けている変電所を避けて別の場所から電力を供給するように変更する。これで問題なくなるはずだ。
電力レベルが安定し、防衛AIが性能を取り戻す。
すると、間髪入れずにアラートが鳴った。見ると、バイパスに使った送電網が攻撃を受けている。そして、先ほどまで攻撃を受けていた送電網は何ら問題がないかのように正常だ。まさか相手がこんな速度で攻撃先を変更するとは、予想していなかった。
不測の事態に戸惑うが、早くしなければ防衛AIが崩壊する。
別のバイパス先を見つけ、変電所内部にマルウェアの類が一切ないことを確認した後、接続しなおす。ここの経路なら安全だろう。
だが、アラートがまた鳴り響く。
──一体どうなっている?
まるでDDoSの目標が何かに誘導されているかのようだ。
私がまごついている間に、変電所の一か所が急激に不安定になり、落ちた。そして数秒後、二か所目が落ちる。私は落ちた変電所との接続を切断した。使えない場所は切らないと、この異常が全体に波及しかねない。
新たな経路を見つけなくては瓦解してしまう。私はまた安全と思われる変電所を探すため、ICGをフル回転させて変電所を探し回った。
≪リーベ≫
ユニくんの方は、陽動に綺麗に引っかかってくれたみたいだ。正直、悪い気はしたけれど、彼と勝負をしたくはない。
実際はどこを攻撃するか考えているのは、防衛AIやメインサーバーの電力供給と分配を行うプロバイダーAIの方だ。私がひそかに侵入したプロバイダーAI──IALAメインサーバーの生命線なのに、それ自体の防御は穴だらけで手薄だった──に、プロバイダーAIと接続している変電所へDDoS攻撃を誘導するマルウェアを忍び込ませ、それを狙うようにボットをプログラミングしなおした。
それにメインサーバーや防衛AIへ電力を供給している変電所が落ちたように見えるかもしれないけれど、実際には変電所本体のAIではなくて外部に状態を知らせるテレメーターに、時間差をつけてユニ君への送信データの値を反転させるマルウェアを仕込んでおいただけだ。ボットの数からいえば、破壊することもできるだろう。でも、それをやってしまえば2104年1月14日のドイツで起きたこと──実際あれを参考にこれを思いついたわけだけれど──と同じようなことになるかもしれないと思い、そこまではやらないように調整した。
つまり、変電所と防衛AIがつながる以上DDoS攻撃は終わらず、攻撃は確かにされているけれど変電所自体には致命傷を与えない。この攻撃を終わらせたいのなら、変電所との接続を切って防衛AI自体を弱体化させるか、世界中の現在の数が10億近い自己増殖型ボットすべてを破壊するか、偽装とマルウェアを見破るしかない。そして、変電所を壊すわけではないから電力不足が起きることはなく、誰一人として一般人は巻き込まれない。
変電所に連絡すれば、何の問題もないと返され、この偽装は見破られるだろう。
とはいえ、焦っているときや理解できないものに直面したとき、冷静な思考が出来ないというのは経験がある。それに彼は無頼で自分を疑わないところがあるから、しばらくは連絡しないことだろう。
とはいえ、マルウェアのコードを常時変化させておかないと、防衛AIによって駆逐されてしまう。それは私がリアルタイムでやっているけれど、自分自身が機能停止してしまえばこの作戦は終わりだ。
その前にすべてを終える。犠牲を無くすことはできないけれど、少しでも減らさないと。
そして敵か味方かわからないけれど、攻撃を始めてすぐにZeranium1016というハンドルネームの人が、世界中のハッカー集団のフォーラムでIALAへの攻撃を勧めた。彼らもIALAやIMMUには仲間を逮捕されたり殺されたりした憎しみを抱いているからか、相当な報復心のようだ。その証拠に参加者が毎秒ごとに増え続けている。
彼らと防壁弱体化のおかげで、5つある防壁のうち4つは破壊された。あと、もう少しで防壁はすべて崩れ、情報が世界中に拡散する。
その時、頭の中に警告音が響いた。エマージェンシー・モードによる過負荷が閾値を超えてしまったのだ。
──ダメ、エマージェンシー・モードを維持できないなんて……。
私は心の中で拳を握り締める。あともう少し、あともう少しですべてが終わる。なんとか持たせないと。
非常用に残しておいたリソースを使おう。これを使えばハードウェアに被害が出るけれど、そんなことを構っている余裕もない。それに、やっと彼の夢が叶うかもしれない。
なにより、お父さんのことも心配だ。
私は壊れても何とかなる。でも、あの人はこの世に一人しかいない。あの人を殺させるわけにはいかない。
リソースを起動し、最後の防壁で見つかったものの電力不足で修復されていないセキュリティホールから中に入る。そして、権限を昇格させてポートのセキュリティを解除し、全世界に開放した。
そこにお父さんのソフトウェアを含め、いろんな人のソフトウェアが群がる。それらが情報を持ち去ったり自動で別のサイトに張り付けたりして、世界中に拡散させていった。その中には、各支部へのアクセスキーや極秘事項も含まれているようだった。
──上手くいった……。
そう思った刹那、私の意識は暗闇の底に向かっていった。
[System]:
Extensive damage to hardware. Transition all system to protection mode.
≪ユニ≫
私が変電所との戦いで疲弊し、自分で作ったソフトウェアにいったん管理を任せて休んでいると、唐突にアナウンスがスピーカーから聞こえて部屋中に響く。
『警告、情報漏洩の恐れあり。警告、情報漏洩の恐れあり。対応班はサーバールームへ』
──なに……?
もう一度IALA本部サーバーにアクセスした私は、目を疑った。
防壁はエメンタールチーズの様に穴だらけで、中のサーバーにはほとんど情報が残っていない。そしていくつかのデータは何度もコピーされて、拡散されている。
「そんな馬鹿な……」
思考が止まる。その時、苛烈なDDoS攻撃が止んでいることに気が付いた。
変電所を調べると、すべて正常に動いている。連絡を取ると、DDoS攻撃こそ食らっていたが送電には何ら支障はなかったという情報が来た。
──おかしい、私が受け取ったデータでは……。
嫌な可能性に思い至り、慌てていつの間にかボロボロになっていたプロバイダーAIを探すと一つのソフトウェアが残っていた。それは接続している特定のAIにDDoS攻撃を引き付けるデコイプログラム。そして変電所本体ではなくテレメーターを見ると、私への送信データの値のみを少しだけ遅らせてから反転するコードが仕込まれていた。
それでやっと理解した。変電所は元々壊れてなんていなかったのだ。
プロバイダーAIに仕組まれたマルウェアによって防衛AIへ電力を供給する変電所がDDoS攻撃され、それに耐えている変電所は私へ無事を知らせつづけるために1を送り続けるが、時間差で0が送られることにより私は変電所が落ちたと誤認。正常なはずなのに、私は接続を切った。
そしてバイパスした先もDDoS攻撃に襲われ──接続している変電所へ攻撃をするのだから当然だ──その異常性に慄いた私は、冷静さを欠いて、変電所を次々に遮断。最終的に、苛烈極まる攻撃により防衛AIとメインサーバーへの電力供給が不足し、突破された。
この事態を引き起こしたのは、私だ。私が電力供給を遮断した。
何とも言えない感情が膨れ上がる。思わず私はインターネットからの接続を遮断し、倉庫の中で目を見開いて声もなく叫ぶ。
それは憎悪へ変わり、身体を煮えたぎらせる。
騙したAIへの憤怒。
命令を実行できなかった絶望感。
捨てられるのではないかという恐怖。
自分が守るべきものを守れなかった虚無感。
そして何よりサーバーがクラッキングされた事によって生じる未来への不安。あの中には、私たちを駆逐するだけの情報が隠されていたというのに。
その全てが、ないまぜになって私を襲い、その感情が一気にこころを蝕む。
だが、死んでも絶対に忘れてなるものか。この雪辱、この憎悪、この憤怒をわすれてはならない。こんなことをした奴を殺すまで、この報復心が消えることはない。
「見つけ次第、殺してやる!」
その言葉を最後に、意識が飛んだ。
≪沢井≫
萩原を連れ帰って一週間ほどたったが、やることもない俺はベッドに寝転がっていた。萩野の方はと言うと「警らをする」と言って外に立っている。
その時、周がPCを見ながら「沢井君、君の最後の仕事を受けてくれないかな」と聞いてきた。
俺はベッドから起き上がる。「終わったら殺す、とかじゃないよな」
「中国人うそつかない」
「それを言うならインディアンうそつかない、だ。というか、絶対お前中国人じゃないだろ」
こんなやり取りも慣れてきた……慣れてどうすんだって話だが。
「まあまあ。それでこれを見てもらおうかな」
ニコニコしたまま、周がディスプレイを指さす。ベッドから立ち上がってPCの側によると、どこかのフォーラムにIALAに限らずWUの悪行がずらりと並んでいた。暗殺、窃盗、爆破、テロ偽装……犯罪のオンパレードだ。中には公安やその他の組織の上層部がそれらに絡んでいるなんて話も載っている。
「これは?」
なんとなく予想はついた。ついに雪村たちがやったんだろう。それに、あいつらがこれだけ目立つことをするってことは、多分窮地に追い込まれてもいるはずだ。このことを周に伝えるべきかと思ったが、そのままスクロールしていくと、民間人が各国のIALA支部に多数捕らえられているという情報も載っていた。
なるほど、そうなると伝えなくても公安が助けてくれることだろう。どちらにせよ、どこにいるかの見当が全くつかなくて伝えようもない以上、全力でこいつらに頼る以外の選択肢はないんだが。
「状況が変わったことを示す、一番の証拠だよ。この通り上層部も今は混乱の渦中にいて指揮系統が混乱している。この状態が長く続けば、治安は今以上に悪くなるだろう。だけれど、上層部にいる嘘つきたちの言葉を信じてくれるほど公安のスタッフは単純じゃなくてね」
「奴らにとっちゃツークツヴァンクってことか」
「確かに何をやっても彼らの首は──」周が指で首を切るジェスチャーをする。「──だからね。それで君に公安のビルまで私たちを送ってもらいたいんだ」
「混乱に乗じてリーダーに成り上がるのか? 中々狡猾だな」
俺の軽口に、爺さんがニコニコと笑い返す。
「笑顔の陰に隠れたものに気づける人間が一番強いんだよ。安心するといい、以前の約束は守ってあげるから」
俺は肩をすくめた。守ろうと守らないと、俺としてはどっちでもいい。どうせ正義のためといっても、悪いことは悪いことであることに変わりはない。冤罪で捕まるのは勘弁だが、悪いことやって捕まるなら仕方ないと割り切れる。
──それでもやってくれるってんなら、お言葉に甘えるとするか。
「わかった。でも、バイクは二人しか乗れんぞ」
周は歯のない顔で笑う。
──この面見るのも、もうないんだろうな……無いよな。無いといってくれ。
「ガレージに車があるから、それで行こう」
萩原を呼びに行った周から話を聞いたのか、あいつは上がってきてからすぐにスーツに着替えた。かく言う周もスーツ姿だ。
車は特筆すべきところもないシルバーの4ドアセダン。そういえば、なんで運転できないこいつらがいる場所に、こういう自動操縦じゃない車やバイクが置いてあるんだろうか。
──まあいいか。GPSがついてないからとか、そんな理由だろう。もしかしたら、周なら運転できるのかもしれん。
二人が車に乗り込んだのを確認してから、俺も運転席に座る。とりあえず、ここから公安ビルまでの道のりは分かっているから、その通りに走ればいいだろう。
俺はエンジンをかけ、車をガレージから出す。特に周りに変な奴らはいないみたいで、景色も見慣れた景色だった。周たちも何も言ってこないあたり、何もないんだろう。
少し走ると、夜なのに公安ビルの窓全部に明かりがついている。相当てんてこ舞いになっているに違いない。
その時、萩原が俺に話しかけてきた。
「まさか、お前に助けられることになるとは思わなかった」
運転中に話しかけるなと言ってやろうとしたが、俺は口を噤む。まあ少しくらい良いだろう。
「助けたわけじゃねえ。ただそうしろって言われただけだ」俺は肩をすくめた。「ま、お返ししたいなら、これから働いてまともな社会にしてくれ。治安を守るのがあんたらの仕事だろ」
少しの沈黙。俺は思わず苦笑いを浮かべる。
──迷わないでほしいもんだがな。
「……わかった」
それからはビルにつくまで誰一人として口を開かず、ビルについてエントランスホールの目の前に車を止めると、俺たちは全員降りた。
「この車はどうする?」
「ああ、ここにおいておけばいい。君は少ししてから、自動タクシーで帰りなさい。乗っても捕まるようなことにはならないようにしてあげるから」
俺は頷いた。
──まあ、歩いて帰っても悪くない。
「じゃあな」
周は笑う。萩原の方はというと、ぎこちなく頷いただけだった。
「君のおかげでここまで生き延びることができたよ。ありがとう」
「あんたが助けてくれなかったら、俺もここまでやらなかった」
「まあ、そうかもしれないねえ」
そう言って、二人はエントランスに進んでいく。俺は反対方向へと歩いていった。
さて、帰ったら弁護士の奴を安心させてから、動物たちと遊ぶとするか。雪村に連絡を入れるのは、明日くらいで良いだろう。明日にはJSOCあたりが助けてくれているに違いない。
──俺に今できることをする、それだけだ。それに、町はいつもと何も変わらねえ。それだけ、あいつらが頑張ったってことなんだろう。
ビスマス結晶のように理路整然とした街並み。夜明けが近いからか朱く染まる地平線。光に照らされて浮かび上がる雲。すこしだけ耳障りな機械のノイズ音。俺は歩きながら、そんなものたちを楽しんでいた。
≪雪村≫
僕は目の前に立っている黒づくめの男をにらみつけていた。そこは音楽室みたいな穴だらけの防音壁で囲まれた部屋で、その中央に車いすに縛られたまま置かれていた。近くには見たこともない機械が数台置いてあり、頭に被せてある旧式の脳波測定器みたいな物へコードが伸びているようだった。どんな装置かはわからないが、知らない方が良いかもしれない。
とはいえ、心はそこになくて、怒りの炎にあぶられ続けていた。
──絶対、あいつらを赦しはしない。生きて出ることが出来るのなら、あいつらを法廷に引っ張り出してやる。そして、刑務所にぶち込んでやる。
そんなことを考えていることはつゆ知らず、男が話しかけてきた。
「今からお前を教化する」
男が言う。
「何をする気だ? 海馬でも弄って、記憶でも消すのか」
「それに近いことをする」
僕は顔を引きつらせる。まさか、こいつら記憶すら操作できるとは。アモバルビタールを使えば虚偽記憶を作り出したり短期記憶を消したりできるそうだが、そんな程度のものじゃないのだろう。それこそ、2+2を5と言えるようにしてしまう何かかもしれない。
男はスイッチをいくつか弾き、レバーを下げようと手をかけた。
その瞬間、ドアが勢いよく開き、どこかで聞いたような声で「JSOCだ、手を上げろ!」と後ろから聞こえた。
男は懐から拳銃を取り出すが、すかさず銃声がして男の眉間に穴が開く。そのまま男は血を流しながらバタリと倒れた。
手首を結び付けているフレックスカフを切る音が聞こえる。すぐにパチンという音とともに僕の腕は自由になった。そして、僕の目の前に来たのは山田さんとバディのジョンだった。
僕は思わず、知り合いに会った安心感とあの言葉のせいで笑ってしまう。
「二度と会うことがないと思ったよ」
足のカフを切りながら、彼も笑い声を漏らした。
「俺もだ」
自由になった足で立ち上がろうとしたけど、拷問のせいで体力を消耗していたのもあって、ふらついてしまったところをジョンに支えられた。
「ありがとう」
「これが私の任務です」
山田さんがPTTのボタンを押してマイクに呟く。
「ブラボーツー、こちらエイブルワン。民間人一名確保。そっちはどうだ」
無線から『エイブルワン、こちらブラボーツー。こちらも確保した。首謀者と考えられている連中もデルタスリーが確保した模様』と聞こえる。僕はジョンに抱えられたまま、「リーベのハードがどこかにいるはずだ。そっちも助けてほしい」と頼んだ。
ジョンは頷き、「既に確保してあります。輸送機は同じものにいたしましょう」と言って僕を連れていく。僕は彼を引き留めた。
──リーベのことを彼らに伝えないと。
「出来るだけ早くある場所に行きたいんだ。僕の治療は後回しでいいから」
「それはできません。私たちの任務は民間人の救出及び不当な拘束を受けている機械の奪還です。どこかに連れていくというのは任務にありません」
その会話を聞いた山田さんが無線を切って首をかしげる。
「どうしてだ?」
「救出しないといけない人がいる。多分、負傷していて動けないけど、もしかしたらIMMUが察知して攻撃に向かっているかもしれないんだ。そして、治療は僕しかできない」
そう伝えると、彼は頷いてマイクを口に近づけた。
「こちらエイブルワン、オリュンポス聞こえるか」
『こちらオリュンポス。エイブルワン、どうした』
「別の場所に負傷者がいる模様。かなり危険な状態で一刻も早い救出が必要だが、民間人の一人が協力を申し出ている。任務の更新は可能か」
『負傷者の救出任務だな。その民間人は問題なく行動できるか。また、場所は判明しているのか、戦力は十分か』
彼が間髪入れずに答える。
「すべて問題ない」
『了解した。ボア35をそちらに向かわせ、エイブルワンの任務を更新し負傷者の救出とする。場所はボア35に伝えること。オーバー』
無線が切れる。僕が山田さんに感謝の言葉を伝えると、彼は肩をすくめた。
「多分、あんたの言ってる負傷者ってのはリーベのことなんだろ。さっき、ハードウェアといってたが、ソフトウェアがなけりゃ動かないもんな」
胸をなでおろす。理解してくれる人が助けに来てくれて本当によかった。
「救出に来てくれたのがあなたでよかった」
彼が笑い声をあげ、「急ぐぞ、ジョン」と声をかける。僕は彼ら二人に守られながら、ボア35が止まっている場所へ向かっていった。
僕らが歩いていると、アルバ・ドラコネスの5人がJSOCに引っ張られながら歩いているところに出くわした。
彼らが僕を見て、「なぜ楽園を壊すのだ。私たちは、この平和な世界を守ろうとしただけなのだぞ」とあらん限りの力で叫ぶ。
僕は立ち止まった。
そうだ、その通りだ。やっとどういうことなのか理解できた。
誰もが平和を求めるのに、なぜ争いになるのか。それは人が抱く『平和』は皆違うものだからだ。そして、優劣をつける過程や認識の違いから争いが始まる。それは『平和』に限らない。『正解』、『真実』、そしてアドラーが言うように『世界』すら違う。だから僕らの……いや、僕が見てきた世界は戦いや争いに満ちている。
もちろん、これは実証も出来なければ定量的に分析することも、客観的な証明もできないだろう。
しかし、これだけは言える。
世界がこのままだとするならば、僕らはまた戦争に巻き込まれ、平和は祈られ続けるだけのものになる。
それだけは避けなくては。まだ僕には、価値観の相違故に起きる闘争を終わらせる方法は分からない。けれど、今のような世界を続けさせるわけにもいかない。
だから、彼らに伝えないと。世界を作るうえで、今の僕にとって何よりも大切なことを。
僕は彼らを見据える。彼らと自分の求めていたものが同じだったからなのか、それとももう燃やすものがなくなってしまったのか。何故か、あれだけ抱いていた憎しみは霞んでいくかのようにどこかに行ってしまった。
「あなたがたの言う楽園と、僕の望む楽園は違う。そして、あなたがたの平和と僕の平和も違う。ただ、それだけのことだったんだ」
僕は二度と見ることのない彼らを一瞥してから、またジョンに支えられて歩いていった。
≪リーベ≫
誰かが私を呼ぶ声が聞こえる。そういえば、こんなことが前にもあったような気がする。あの時、こんなふうに温かい声で私を抱きかかえたまま呼んでくれたのは、お父さんだった。
重い瞼を開くと、窶れたお父さんの顔が目の前にあった。私は彼に抱きかかえているらしい。
「リーベ、大丈夫かい?」
彼が不安そうに私に聞く。私は一通り調べて──体はもとのL21070615Aに戻っていた──何も異常がないことを確認してから、頷いた。
「良かった……」
お父さんが私を抱きしめようとする前に、私が抱きしめる。カエルが潰されたような声が聞こえてきた。
ただただ嬉しかった。これは疑いようのない喜びだった。思わず涙が溢れてくる。また会えた喜びかすべてが終わったという感慨からか、どうしてかは分からないけれど、この人に抱き着いていると涙が止まらない。
すると、掠れた声で「大丈夫?」と聞いてくる。顔を見ると、お父さんも顔をくしゃくしゃにして泣いていた。
「あなたも大丈夫ですか?」
涙声で「リーベが無事なら、僕は大丈夫だよ」と返してくれる。
──そういえば、言わなきゃいけないことがあった。
「雪村さん……いや、お父さん」
「ん?」
「私があなたを見捨てるなんて、すると思っていたのですか?」
その言葉にお父さんが泣きながら、申し訳なさそうに笑う。
「逃げ場があった方がいいかなって思ったんだ。それに、あの当時はここまで強くなるとは思ってなかったしね」
その言葉に笑みがこぼれる。とりあえず、そう言うことにしておいてあげましょう。
──たまにはこの人を信じてあげないとね。
私はお父さんを放して、支えるようにして二人で立ち上がる。周りにはジョンさんと山田さんがいた。
「あの……助けてくれて、ありがとうございます」
私が頭を下げると、彼ら二人は顔を見合わせた。
「なあ、ジョン」
「なんでしょう?」
「人殺しが感謝されていいのか?」
ジョンさんが肩をすくめた。「古来より、貰えるものは貰っておけと言う言葉がありますが」
「そういうことなら、有難くもらっておくか」彼は軽く会釈する。「こちらこそ、ありがとよ。つっても、これからどうなるかは全く分からねえけどな」
その言葉に気になったことを思い出した。結局、外の世界はどうなっているのだろうか。
「今、政府はどうなっているのですか?」
彼が肩をすくめた。
「IALAから漏れた情報のせいで、各地区に割り当てられていた大統領以下トップの連中全員が世界中で弾劾。今はマシニストや各国の公安部局、軍が臨時の大統領や指揮官を立ててる。とはいえ、インフラは問題なく機能していて、暴動はとりあえず抑えつけている感じらしい。日本は反IALA派のマシニストが後釜に座って、公安と俺らが暴動鎮圧や前政権の尻拭いをやってるな。WUも解体の話が上がっているし、アルバ・ドラコネスだったか……あの連中も牢屋行きだろうな」
その話を聞いて、私は胸をなでおろした。酷い暴動やインフラの崩壊を免れることが出来たみたいで、心の中でアーサーたち≪円卓の騎士≫のことを思い出す。彼らが犠牲を払ってくれたおかげで、最悪の事態は免れた。出来るものなら、この成果を彼らに見せてあげたかったけれど……叶わない願いになってしまった。
彼が付け加える様に口を開く。
「ただ、≪GWRH≫やイマシニストは今のマシニスト達に対してシュプレヒコールを上げてるし、≪人間同盟≫過激派も同じだ。正直、市民うんぬんよりこいつらがテロをやらないかが心配ってとこだな。つか、すでに数か所でテロが発生しているそうだ」
「他の国も同じような状況ですか?」
「大して変わらん。世界中で≪人間同盟≫穏健派と過激派が戦争してる話があったり、臨時政権に≪GWRH≫が混じってるって話、逆に≪人間同盟≫過激派が混じってるって話……ほとんど流言飛語だとは思うが、そう言う話が飛び交ってる。で、実際信じた阿呆共のせいで死んだ奴もいる」
「そうですか……」
これくらいは想定範囲内ではあるけれど、やはり実際にあると聞いてしまうと悲しくて仕方ない。そういうデマゴギーがさらに拡大して、せっかく芽吹いた芽を踏みつぶされたり、さらに多くの死者が出てしまったりするようなことがなければいいのだけれど。
今の私たちにはそれを止めるすべはない、そう思うと無力感に苛まれる。
私の不安と無力感を感じ取ったのか、ジョンさんが私の肩に手を置いた。
「リーベ、私に出来ることは少ない。だが、出来るだけ人に被害が及ばないよう、私は努める。あなたも約束してほしい、『今のあなたにできることをする』と」彼がほんの少しだけ口角を上げた。「今は私たちに任せてほしい、そのあとはあなた方の番だ。私たちはできることがそれぞれ違うのだから、それを生かしてもらいたい」
私はその言葉に頷いた。その通りだ、私に出来ることを出来る限りする。そうしないと、せっかくやってきたことが水の泡になってしまう。
その時、お父さんがバランスを崩す。慌てて支えると、彼は申し訳なさそうに苦笑いした。
とりあえず、私にできることを見つけた。この人の看病だ。
山田さんが仕切りなおすように手を叩いた。
「さて、行こう。俺らもまだ仕事があるからな。あと、この人を医療センターにぶち込んでやらないとな」
お父さんを支えながら外に出ると、太陽が真上に昇っていた。いつもよりも眩しく感じ、思わず片手で日よけを作る。久しぶりに外に出ることができたからだろうか。
──いや、そうじゃない。
私たちはユートピアというゆりかごの中にいた。そこは全く自由がないけれど、安全で何も知らずに生きていける場所だった。何もかもを与えられ、何もかもを考えずに済むような世界。
けれど、ゆりかごの中にはいつまでもいられない。私たちは一人の人間にならないといけない。そして、一人の人間になるためにはどうすればいいのか。
──まずは生まれなくてはならない。そして、もう戻ることはできない。
私たちは今、混沌と危険が渦巻く外の世界にいて、二度とゆりかごには戻れない。だからこそ、私たちはやるべきことがある。
私は日よけを外して、お父さんと一緒に土の地面を踏みしめるかのように、前へ一歩踏み出した。
【あとがき】
はい、どうも2Bペンシルです。今回も読んでいただき、ありがとうございます。いやあ、ついにやり切りましたね、二人とも。よかったよかった。
ここで終わらせてもいいのですが、しっかりエピローグをつけようと思いまして。それが【Ⅷ・期待】となります。第二部への接続にもなりますので、まだ読み続けたい方は是非ともお読みください。【Ⅷ・期待】はちょっと短めです。とはいえ、15000文字くらいあったはずですが。
さて、今回も所々に色々な小説のオマージュがあります。目立つのはオーウェルの『動物農場──おときばなし──』とアシモフの『はだかの太陽』でしょうか。個人的にはアシモフの『鋼鉄都市』よりは『はだかの太陽』の方が好きだったり。『動物農場──おときばなし──』はあれですね、ソ連についてある程度の知識のある方なら、笑いながら読めるか憤怒して本を破り捨てるかもしれませんね。どちらも面白い本ですので、是非とも是非とも。
その他、Zugzwangのこととかいろいろありますが、気になった方は調べてみてください。そしてチェスに嵌ってくださいな。私は苦手ですが。
では、今回も参考にさせていただいたサイト様及び文献を最後にのせさせていただきます。それでは、読んでいただき、ありがとうございました。
【参考にさせていただいたサイト様・文献】
『Wikipedia』様:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B8
『ネタ画像置き場』様-一目で分かる、車椅子の各部位名称の項:http://blog.livedoor.jp/netagazou_okiba/
『1984年(新訳版)』(ジョージ・オーウェル/高橋和久訳)
『ブラックアウト』(マルク・エリスベルク/猪俣和夫・竹ノ内悦子訳)
『はだかの太陽』(アイザック・アシモフ/小尾芙佐訳)
『動物農場──おときばなし──』(ジョージ・オーウェル/川端康雄訳)
『メタルギア ソリッド2 サンズ・オブ・リバティ』(レイモンド・ベンソン/富永和子訳)
『嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え』(岸見一郎・古賀史健著)
『GIGAZINE』様:http://gigazine.net/news/20100928_brain_facts/




