第七十二話 香水
「まあ、今回はなんとかなりましたけど、次のためにブリーフィングタイムです」
サリナは魔石を取ると、ビニールシートをどっからか出して床に座る。僕の手にしていた包丁が消える。なんかコイツのマジックバック高性能じゃないか? サリナは隣を手で指す。指示されるまま座る。
「なんだそれ? ブリーフィング? ブリーフの現在進行形って事はブリーフする。ん、パンイチになる事か?」
サリナが僕をジト目で見ている。ちなみに当然ブリーフィングの意味くらい知ってる。
「タッキさん。女の子が下品な事言わないの」
「女の子だから下品な事言ってるんだよ。男で下品な事言ったらセクハラだろ」
「女の子同士でもセクハラには変わりないです。それに、タッキさん、鏡見ました?」
「ん、見たけど?」
「可愛いでしょ?」
「うん、可愛い」
「即答ね。普通は謙遜とか少しはするものよ。まあいいけど。あなたは可愛いよね。目を瞑って想像して。あなたの目の前に可愛らしい可憐な女の子がいます。その娘が口に出すのも憚られるような下品な事を言ってます。どう思いますか?」
「どんなに可愛くても、下品なだけで興ざめだな。ミコやサクラやエマみたいだ」
「そうでしょう。あなたは彼女たちと同レベルでいいの? 可愛い娘には義務があるのよ。いついかなる時も可愛くあるために。そのうちの一つが下品禁止。人を幻滅させるのは大罪よ」
サリナは熱弁する。なんか訳が微妙に分からないけど、なんだか分かる。うん、僕は可愛い。人を幻滅させないようにしないと。ん、なんかイチゴのような香りがする。やられるとこだった。
「それは、理解したけど、で、これは何の香りだ? 分かってる。人を従順にして納得させやすくなるやつか?」
「さすがね。その通り。だけど、マジカルパフュームはあくまでも誘導するだけで、人を操るものじゃないわ」
「そのマジカルパフームってなんなんだ?」
「言えてないわ。パフューム」
「ちゃんと言えてるぞ。パフューム」
「ま、いいけど魔法の香水よ。嗅いだら少し落ち着いたり、好戦的になったり、素直になったりするものよ」
「そっか、けど、なんか香水ってややこしいよな。オーデコロンとかなんとかなんとかとかイミフだよ」
「まあ、一般的には、オードパルファムとかオーデコロンとかオードトワレとかあるけど、濃さの違いね。濃い方が長く匂いが保つの。オードパルファムは4~6時間、 オーデコロン、オードトワレは1~3時間くらいって言われてるわ。持続時間が長くなる程高価になるわ。ちなみに私のマジカルパフュームは五分くらいしか保たないけど。あんまり濃いの使うと、持続時間は延びるけど、効果が強くなるから」
なんか話長いな。なんでインテリってウンチク話したがるんだろう。まあ聞いた方が悪いけど、疲れるわ。
「そうなんだ。香水って男と一緒だな」
「どういう事?」
「持続力が強い方が価値があるって事だよ」
べチン! ピシッ!
うわ、マッハでデコピンきやがった。なんかおでこが熱い。なんか陶器にヒビが入ったような音が……
はっ?
僕は何してたんだ? 僕はどうもサリナに持たれかかって寝てたみたいだ。
「気がついた? ごめん、頭割っちゃった」
「え?」
額がヌルヌルするから触ってみたらべっとりと血が……もしかして、僕はサリナのデコピンで頭が弾けたのか? 良かったミコに魔法かけて貰っていて。ていうか手加減しろよ。
「ゴメン、やり過ぎた。けど、下品なジョーク言うタッキさんも少し悪いわよ」
セクハラで殺されるは酷すぎる。もう絶対コイツの前では言わない。
「じゃ、帰りましょう」
サリナが立ち上がる。
「そうだな」
自動蘇生装置が帰った今、少しでもリスクは犯したくない。このまま探索を続けたら多分僕は殺される。セクハラでサリナに。なんで僕は毎日女の子に怯えながら鍛錬をせねばならないんだろうか? 初日のミコとエマのコンビが一番安全だったとは。あの時は最悪と思ってたけど、命の危険は無かったもんな。
僕は出来るだけ相槌うつだけで、言葉使いに気をつけて歩く。居なくなって分かる。ミコは大事だ。その魔法が。あの時下剤を僕が飲んでたら。
「ミコ、大丈夫かな」
「大丈夫だと思うよ。サクラもエマも1時間くらいトイレから出られなくなっただけだったから」
大丈夫じゃねーよ。それ脱水で動けなくなるパターンだよな。そして、ミコが歪めた扉をくぐると、そこにはミコが居た。
「お前、大丈夫か?」
「うん、あたし、いつも便秘だから、むしろ好調!」
無邪気と言うか、下品と言う火……
「ね、タッキさん。ああはなりたくないでしょ」
「そうだな」
「『ああ』って何よ。あたしみたく成りたくないって訳? 貧乳」
んー、確かにサリナの胸は大きくは無いが貧乳って程じゃないぞ。この中じゃ僕が一番貧乳だ。けど、僕は心は男とだ。
「タッキさんにモンキーが何か言ってますよ」
「モンキーってあたしの事か? おい、タッキはノーカンだ。貧乳って言うのはお前だよ。まあ、さっきは毒盛られたし、1回どっちが上か決めようか?」
ミコがファイティングポーズを取る。毒盛られたもなんも、自分から飲んでたよな。相変わらずめちゃくちゃだ。
ん、ラベンダーの香り。しかも強い。
あ、ミコが拳を降ろした。
「まあ、けど、そんな事してる場合じゃないわよね。多分、タッキがやられて戻ってくると思ったけど、早すぎるわ」
なんか、ミコが不憫だ。いいようにサリナに操られてるな。
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