第七十一話 初戦
「おっ、重い」
扉のノブを回して押しても引いても動かない。軽く叩いてみるが、こりゃ分厚いわ。無理無理こんなん開けられない。
「何やってるんですか?」
サリナが来ると、軽々とドアを押し開ける。ギィーギィーガリガリ言ってるよ扉。多分、分かんないけど扉は百キロくらい有りそうだ。それを片手で軽々開けてるって事はコイツも人外だ。つい、距離を取る。
「酷いですね。何怯えてるんですか。クスリですよクスリ。飲みますか?」
サリナが小瓶を僕に差し出す。真っ赤な液体が入ってる。どこから出した? コイツもアイテムボックス持ちか。そう言えば、ゲームとかでも錬金術師ってだいたいそういう能力持ってるしな。
「飲む訳ないだろ。また毒だろ」
「失礼ですね。これはただの力が強くなるクスリ。副作用は少しお腹が痛くなってお通じが良くなるくらいですよ」
それって下剤なんじゃないか?
「面白そうね」
ミコがひょいっと小瓶を取ってためらいなくコルクを開けて飲む。マジ怖いもの無しだな。
「うっ、かっらー」
ミコが舌を突き出す。
「うわ、やっばー力が漲ってくるわ」
ミコは扉のふちを握る。やべーぐにょんと扉が歪んだぞ。分厚い鉄板なのに。
「うっ……」
ミコがお腹を押さえる。
「ヤバいかも」
言うなりミコは魔法陣の中に入って消えてった。何しに来たんだアイツは。まあ、『アフターピル』の魔法は僕とサリナにかけてあるから、まあ居なくて良いって言えばそうなんだけど。けど、なんか嫌だ。この毒ばっかり使う不気味な女の子とこれから2人っきりだと思うと。
「さぁ、邪魔者は居なくなったから行きましょうか」
もしかして、計算づくで、ミコに飲ませたのか? まあ、あっちに帰ったら便器には困らないだろう。
「おい、お前もその薬飲んでるんだろ。大丈夫なのか?」
「私が作った薬ですよ。もう沢山飲んでるから耐性がついてますよ。こう見えても私、お腹強いんですよ」
まじか。僕と一緒だな。僕もその薬、副作用効かないんじゃないか?
「お一つどうぞ」
心を読まれたのか、サリナが薬を差し出す。僕は受け取ってポケットに入れる。あとで試してみよ。
そして僕らは探索する。出ると通路が左右に伸びていて、一定間隔おきに壁の両側に鉄の扉がある。まあ、ここの扉はミコが曲げて目印になってるから迷いはしないだろう。
「ここは構造が簡単です。東西に一本の通路が伸びていて、扉の奥には部屋が一つづつあります。そこにオークが居たり居なかったりで、扉からは出て来ないようになってます」
サリナが説明してくれる。多分何度かここでレベルアップしてたんだろう。
順番に扉を開いていくと、一匹オークが居る。2メートルくらいあり、上半身裸で腰巻きみたいなのを装備している。僕は棍棒片手に突撃する。相手も棍棒を手にしている。まずはダッシュからの一本足打法。それをオークは棍棒で受け止める。それは織り込み済みだ弾かれた棍棒を引き寄せ、下からオークの喉に突き出す。昨日教えてもらったきたえられない急所だ。オークの頭が上がる。僕は見えないはず。横に移動して、膝の後ろを叩く。面白いようにバランスを崩して倒れそうになるオークの顔面に一撃入れて、下がる。ん、目の前になんか飛んできた?
ガシャン。
ガラスが割れる音がしたかと思うと。そこから白い煙が立ち上がる。急いで下がるが、少し煙を吸い込んでしまった……
「起きてください」
僕の肩を誰かが乱暴に揺すっている。眼鏡にポニテ。サリナだ。
「何が起こったんだ?」
「ぐがー。ごがー」
少し離れた所にデカい豚が寝ている。
ぱちん。
僕の頭にサリナがデコピンしてくる。地味に痛い。
「何が起こったじゃないでしょ。タッキさん。どうやってオークを倒すつもりだったんですか?」
「棍棒でぶん殴って」
「何をいってるんですか。オークですよ。オーク。あなたが棍棒で何発殴っても倒せませんよ。はいどうぞ。口から脳ミソ突き刺すか、目から脳ミソ突き刺すか好きな方を。一撃で仕留めないと起きますからね」
サリナが細長い包丁の柄を差し出してくる。
「ああ、ありがとう」
僕は素直に受け取る。なんか頭がボーッとしてるんだよね。要はサリナが薬で僕とオークを眠らせたって事か。ぐがーぐがー言ってるオークに近づく。え、今からこれブッ刺すの? 口オア目?
「急いでください。起きますよ」
じゃ、目だ。包丁を突き刺す。なんか思ったより手に抵抗がない。オークは光って消えて魔石が残る。
「この包丁、すごいな」
「和包丁ですから。刺身用なので良く切れますよ。けど、柔らかいとこ狙わないとすぐに折れますので。それに貸すだけですよ。高いですから」
「けど、僕ごと眠らせるのは酷くないか?」
「タッキさんが悪いんですよ。すぐに突っ込むから。オークは出て来ないって言ったじゃないですか。まずは、相手と自分の戦力を分析しないと勝てるものも勝てないですよ」
いかん、言う通りだ。ネネやミコとか脳筋と過ごす時間が長かったから毒されている。反省せねば。
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