第六十九話 修行
「どっせいやー!」
気合いと共に振るわれた僕の棍棒はゴブリンの頭を砕く。体重を乗せるだけでこんなにも違うとは。生きてるものを全力でぶん殴るのはまだ少し躊躇いが残るが、それを振り払う。やらないと。あっちでの窮地を脱するためには強くならないと。ライラ達を助けるために。
またゴブリンが二匹。さっき程は上手くいかなかったがなんとか倒せた。女の子になって力が落ちてるはずなのに、男だった時よりも明らかに強くなっている。コツって大事だな。
「次は急所だね」
少し休憩してると、また唐突にネネが話し始める。
「急所って、今、僕の急所はないよ」
チンコ消えちまってるからね。
「何いってんだよ。ばか」
ネネは顔を赤くしている。今までコイツの戦闘能力が恐ろしくてあんまりいじれなかったけど。ネネの弱点は多分、下ネタだ。下品な話に抵抗力がない。今は僕と腕力が互角に近いから問題ない。隙あらば攻めてやる。
「急所ってゴールデンボールの事だろ。ゴブリンの股間を狙えって事か?」
さすがにオブラートに包んでゴールデンボールってジャブを放つ。
「違う、違う。それは男の子の急所だよ。ボクが言いたいのは、人体の急所。殴られたりしたら良くダメージが入る所。あ、アイツらはゴブリンか。動物もあんま変わらないし」
明らかにゴールデンボールで顔が赤くなった。ザコだなザコ。古い言葉ジャかまととってやつだな。
「今、タッキ君は何も考えずに叩いてるけど、可能な時には出来るだけ急所を狙うと、より早く相手を倒せるよ。ちょっと来て」
今度は何を教えてくれるのか? 言われた通りに近づく。
「まずはみぞおち」
「ぐぼぉ」
いきなりボディブローを決めてきやがった。僕は足の力が抜けて膝をつく。これはヤバい。息出来ない。動けない。もどしそうになるのを必死で堪える。
「次は百会」
「うがっ」
顎が閉じて変な声がでる。頭の天辺に激痛が走ったと思ったら、僕は横に寝かされていた。ミコが膝枕してくれてる。少し嬉しい。けど、何が起こったんだ?
「ん、僕、どうしたんだ?」
ミコが僕の頭を撫で撫でしてる。
「ネネがやり過ぎて、タッキ一撃死したのよ。あ、また『アフターピル』使ったけど、これが今日最後だから危険な事はもうしないでね」
なんだそりゃ? 一撃死? 危険な事しないでねって、僕が悪いみたいだけどネネのせいじゃないか? まだ頭がクラクラする。
「ゴメンゴメン」
ネネが片手で謝ってくる。少し可愛い。
「君の頭の天辺。耳と耳を頭の上でつないで鼻からの線の交わる所に『百会』って急所があるんだけど、ここに思いっきり肘鉄を叩き込んだら、メリッといっちゃって肘が頭に埋まっちゃった」
なんじゃそりゃ。メリッ戸いっちゃったじゃねーだろ。じゃ、僕はさっきネネに脳ミソ潰されたって事か? 怖ぇ、怖すぎる。
「タッキ君、人の頭蓋骨って見た事あるかい?」
「有るわけねーだろ」
なんか頭蓋骨見た事あるような口ぶりだな。織田信長かよ。
「そっか、なら骨格標本くらいは見た事あるでしょ。人の頭蓋骨って頭の天辺から三つのひび割れが伸びてるよね。動物とかもだいたいそうなんだけど、アレって赤ちゃんの時は完全に割れてるんだよ。それで大っきくなったら繋がるんだけど、ヒビは残る。そのヒビの集まってる所が『百会』。だからさっきみたいに全力のが思いっきり入ると、爆ぜるんだよね頭蓋骨。話には聞いてたけど、マジで割れるんだねー。ゴメンゴメン」
「ゴメンじゃねーだろ。そんな危ないとこに思いっきりやるなよ」
「まあ、ミコの魔法があるからね。けど、分かったでしょ。同じ打撃でも急所に入るととても効く」
それから、ネネは僕に様々な急所を教えてくれた。急所ってチンコ以外にも色々あるんだな。勉強なるわ。もう魔法の残りが無いからネネが僕の体を指で押して教えてくれる。押されたら痛いけど、可愛い女の子に体をツンツンされるのは悪くなかった。最後にここも急所って言われてお尻の穴を押されるまでは。ネネは下品苦手でも戦いに関する事なら大丈夫みたいだ。美少女にお尻を攻められてちょっとドキドキした。
そしてゴブリン狩りを続ける。ネネに急所を教えて貰っただけでかなり効率が上がった。
そして、たまに退屈そうなミコとネネにゴブリンを譲りながら、ガツガツ狩りまくった。昼飯を食べてまた狩りまくる。最後らへんは、ミコとネネはずっと携帯を見てて、僕は延々と狩り続けた。ゴブリンは部屋にしか湧かないみたいで、部屋に入るなり突撃かましてたので、1回も不意打ちはくらってない。洞窟は意外に分かり易い形でぐねってるけど、樹形図みたいで迷わなかった。始めはゴブリンにやられる未来しか見えなかったのに、蓋を開けてみると、逆にゴブリンをやりまくる結果になった。夜まで戦い、風呂を借りて帰路につく。ネネには感謝だ。まさかレベルアップしなくても強くなれるとは。まあ付け焼き刃でしか無いから、鍛錬を続けていくとしよう。闇の住民たちとは誰とも会わず帰宅して飯くって風呂に入って寝た。
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