第六十八話 指導
「ボクと君は今はあんまり力が変わんないんだよ」
ネネはそう言ってるけど、僕の腕は全く動かない。力云々より、入んないんだ力が。せめてパンツの色でも拝んでやろうと思うけど、さすがアイドル。上手く隠してやがる。その前にスパッツ穿いてそうだけど。掴まれてる腕から手が離れて、サッとネネが立ち上がる。
「今みたいに、相手の力を利用したら、簡単に転ばせられるんだよ。力無くても。次、打撃。ボクが殴るから。こういう風に手を前に出して」
ネネは手を突き出して、自分の前で重ねる。さっきまでめっちゃ痛かった腕だけど、ネネが離れたとたん何事も無かったかのように痛く無い。なんか釈然としないけど、立ち上がって言われた通りにする。
「これ、君の攻撃」
バシッ!
ネネは僕の重ねた手を殴る。一瞬、手が爆砕される未来を予想したが、軽く手が痛いなくらいで済んだ。
「また構えて」
なんかネネは僕に教えてくれてるみたいだ。重要な事のような気がするので、言われた通りにする。
「そして、これが体重を乗せた打撃」
ドゴッ!
「うわっ!」
軽く重ねてた手が弾かれて、僕は尻もちをつく。さっきと同じに見えたけど、何が違うんだ? ジンジンする手を押さえながら立ち上がる。
「分かったかな。どんなに力が強くても攻撃に体重乗せないと、手の力だけに
なるから対して攻撃力は上がんないんだよ。見てて」
ネネはその場でシャドーボクシングみたいに空を殴る。
「今のが手だけ。体重を乗せるのは後ろ足から前足に重心移動しながら殴る」
ゆっくりネネが殴る。体が後ろから前に動きながら腕もそれにリンクしながら殴ってる。
「チョップはこう」
ネネがチョップする。体が沈み込むのに手が連動している。なんか頭の中がむず痒いような気分だ。なんか少し分かったような気がする。さっき僕がゴブリンを棍棒で殴った時はただぶん回して叩いていた。それに今のネネみたいに重心移動を組み合わせたら威力は増すはずだ。棍棒を拾って素振りする。振り下ろしに伸びてしゃがむ重心移動を加えたり、前に踏み込みながらの突進力を加えようとする。あと、野球のスイングみたいに棍棒を振る。一本足打法を真似て踏み込みの力をスイングに乗せる。おお、振った時の音が全然違う。
「なんか、漫画やラノベとかじゃ、スキルを手にしただけでいきなり強くなったりするけど、それはファンタジー。こういう当たり前の技術をちゃんと鍛えとかないと、力が強くなっても生かせない」
なんかネネがずっとまともな事言ってる。もしかして僕の修行をかき混ぜに来たんじゃなくて、ちゃんと教えようと思ってたのか? けど、なんでネネはこんな事知ってるんだ? もしかして格闘マニアなのか? ちなみにミコは大人しいと思ったらスマホを見ている。もしかしてここ繋がるのか?
僕は棍棒を振る。教えて貰ったのは大した事では無いのかもしれない。けど、まだ数回に1回しか上手くいかないけど、良い感じに棍棒に力が乗る。正直、レベルアップしない中でのゴブリンとの戦いで僕は強くなれるのか疑問だったけど、これは大収穫だ。
「良くなってきたね。あとは実戦だよ。じゃ行こうか」
「ああ、ありがとう」
一応ネネに礼を言う。なんか腕を痛めつけられてありがとうっておかしい気もするけど、今のトレーニングは素直にびっくりだった。そんな事考えた事も無かった。テレビや携帯でそんなのを見た事もあったような気もしたけど、興味が無い事ってすり抜けていく。今、僕は痛烈に強く成りたいと思っている。ネネの言葉がスンと頭に入ってきた。そうだよ。なんで強く成りたいなら強い人に話を聞かなかったんだろうか? こんな近くに答えのヒントはあったのに。
ゴブリンの魔石を拾って僕たちは次の部屋へと進む。なんかウキウキする。早くゴブリンを殴って試したい。なんか危ない感情だけど、明らかに僕の攻撃は強くなったはずだ。新しい技術を手に入れら使いたくなる。今は体は女の子だけど、心は男だからね。
「ウギャギャ」
おっと、またゴブリンが二匹。部屋に入るなり襲いかかってくる。アイツら馬鹿なのか? せっかくの暗闇のアドバンテージを捨ててるな。ま、有り難いけど。僕も駆け寄りながらゴブリン向かってフルスイング。さっき覚えた一本足打法だ。これはスイングに体重を乗せやすい。一匹目が僕に向かって棍棒を振り下ろす前にヒット。
「ホームラン!」
ゴブリンの頭に命中して後ろに吹っ飛んでいく。まあ、そりゃそうだな。女の子とは言え、ダッシュの体重が乗ったフルスイングを食らったらああなるよな。そして二匹目にそのまま一回転してその遠心力を乗せた打撃を叩き込む。棍棒で受けられるけど、ゴブリンは受けきれず弾かれ転倒する。その起き上がってくるのに合わせてジャンプしてからの振り下ろし。こういう体重の乗せ方もあるだろうと思って試したけど、良い感じにいった。ゴブリンの頭に命中して棍棒が振り抜ける。ゴブリンは首を変な方向に曲げると光になって消え去る。もう一匹をみると、そっちも魔石になっている。
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