第六十六話 探索
「なんか、体調悪いし帰ろっか」
僕は帰りの魔法陣に向かおうとする。やってられっかよ。何が悲しくて、暗がりの中でゴブリンに不意打ちされまくらにゃあかんのだ。間違いなく、石ぶつけられたり、矢ーブッ刺されたり、棍棒で殴られたりでしまいには、剣で頭かち割られたりする。間違いなくこの2人はそんな僕を見て指差して笑う事だろう。なんもいい事ねーよ。
ガシッ。
僕の袖が掴まれる。ネネだ。まじでガシッと音がした。危ねー、腕掴まれたら潰れてたぞ。ワニの口かよ。見た目は可憐な少女なのに。
「ダメだよ。タッキ君。せっかく来たんだから楽しんでかないと。大丈夫。ボクらがついてるから」
何を言ってるんだろう。せめて僕だけなら、慎重に進んで、ゴブリンを少数ずつ撃破する事が出来るだろう。けどコイツらは多分何も考えて無い。スーパー脳筋スタイルで突っ込むだけだろう。
「お前らが居るからやなんだよ。ネネ、僕がやられて瀕死になったらどうする?」
「それは、速やかに止め刺して、『アフターピル』を発動させる」
「さすなや! 止め! あれって痛いんだろ。しこたましこたま痛いんだろ」
もうネネは言うも憚られるようになってたもんな。僕だったら気絶してる。
「そりゃそうだよ。とても痛いよ。けど、慣れないとね」
という事は、コイツら慣れるくらい瀕死になったのか?
「ん、それならあたしが協力しようか?」
ミコまで絡んできたらもうお手上げだ。
「協力せんでええわ」
「タッキ、痛いの苦手なんでしょ? だからゴブリンとの本番の前に、あたしたちが何度か『アフターピル』してあげるわよ」
「なんか汚い言葉だな。なんだよ『ゴブリンと本番』って。もしかして、僕をゴブリンの群れに放り込むつもりか?」
「それも楽しそうだけど、ここでトレーニングして何度か瀕死の練習するのよ」
「なんだよ瀕死の練習って? そんな言葉生まれて初めて聞いたぞ。馬鹿なのか? なんで好き好んで痛い目にあわにゃならんのだ」
「だって、タッキ、痛いのがやだから、ゴブリンと戦いたくないんでしょ? だから先に慣れてたらなんとも無いわよ」
なんて酷い二択だ。ミコとエマにボコられるか、ゴブリンにタコ殴りにされるかしか無いのか。よくよく考える。ゴブリンの方がこの2人よりまだマシだ。やられる前にやればいいだけだ。
「よしっ、冗談はこれくらいにして行くぞ。よーし、ゴブリン、狩りまくるぞーっ!」
僕はテンションを無理矢理上げて、棍棒を振り回しながら通路に向かう。まあ、元々少しでもレベルアップするために戦う予定だったからいっか。
「冗談だったのか。つまんないなー。せっかく手加減無しで殴れると思ったのに」
危ねー。多分こいつに全力で殴られたら弾けるわ。オークナイトの分厚い鎧を凹ませるくらいの化け物だからな。見た目は鈍くさそうなのにギャップがすごい。三流アイドル辞めてレスラーにでもなればいいのに。
「大丈夫、あと三発は魔法使えるから」
なんと、ミコ、あと三発もいけるのか。ちなみにこの魔法は効果時間は二十四時間で、効果があるかどうかは左手の小指の爪にサインが出ている。ピンクのハートだ。僕らの爪には可愛らしいハートマークが受かんでいる。という事は今のミコで1日6回はその魔法が使えるって事か。まあ他の魔法を使うと回数は減ると思うが。それにしても聖女ってつくづく規格外だな。
通路に入り、僕を先頭にネネ、ミコが続く。うえも下も土で、なんか蟻やモグラになった気分だ。この柔らかい土がまた厄介だ。歩いても音がしにくい。たまに立ち止まって耳を澄ましても何も聞こえない。ぐねぐねした通路を通って分岐に突き当たる。これ、ヤバくないか? 適当に進んでたら迷ってしまうんじゃないか? 僕は立ち止まる。
「早く進みなよ」
ネネが催促する。
「なぁ、道ウネウネだったけど、今、部屋から出てどっち向いてるかわかる?」
まあ、答えは分かってるが一応聞く。なんかマッピングとかのスキルとか持ってるかもしれないし。
「さぁ?」
ネネはどうでも良さそうだ。
「分かんない」
ミコの答えは予定調和。ネネが退屈そうだから即断。これからずっと左に進む。理由は簡単。待ち伏せされたりしても、左折の方が攻撃しやすい。まあ、定番の棒倒しで行く先を決めようかとも思ったが、ネネが退屈で暴走すると厄介だもんな。
しばらく進むと小部屋に出た。
「ギャーギャギャギャギャ」
こっちに向かってゴブリンが二匹走ってくる。有難い不意打ちは避けられた。相手の武器は二匹とも棍棒。リーチは手の分こっちが長い。少しびっくりしたけど、棍棒を少し突き出し気味にして構える。ゴブリン達も僕の間合いの外で立ち止まり、棍棒を振り上げている。そして僕らは睨み合う。
「何びびってるんだよ」
ネネの声、僕は後ろから強い力で押される。ひでぇ、やっぱり一番の敵はコイツだった。なんとか転ばなかったけど、ゴブリン達が嬉々として棍棒を振り下ろしてくる。せっかくのリーチのアドバンテージが台無しだよ。
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