第六十五話 穴倉
「良かったわ。これで安心してタッキんちで生活出来るわ。寝る時には女の子にしとけば安全よね。たまになんかエッチな目で見られてる事あるのよねー」
ミコが体をくねらせながら妙な事を言ってやがる。
「おい、いつ僕がそんな目で見た? 僕の目にはお前は凶暴な熊かなんかにしか見えない。多分それは僕が怯えている目だ」
「まあ、そういう事にしておいてあげるわ。それより、あんた両親どうするのよ?」
「それは任せた。お前、母さんと仲良くなっただろ」
面倒くさい事は丸投げに限る。なんか押しかけて来てるから少しは役立て。
「ええーっ」
まあ、死ぬ訳じゃないし、そのアーティファクトをあっちで手に入れればなんとかなるだろう。
家に帰って、両親への説明はミコがなんとかしてくれた。母さんが裸になれとか、一緒に風呂に入ろうとかほざいてたがガン無視した。あとしっかり口止めした。こんなんが世間に知れ渡ったら、僕はどっかの研究所とかに拉致られるんじゃないか? まあ、変身してる時は目立たないようにしよう。なんか無駄に可愛いから、マスクだ、マスク。そして、晩飯。いつの間にかネネも来てて賑やかな食卓だ。女体化してる僕を見てネネが死ぬほど笑っていた。コイツこんなに笑うんだ。ツボは不幸系みたいだ。今日の御飯がいつもよりすこし豪華なのはネネから金銭支援があったからだろう。けど、父さんは男1人ですこし居心地悪そうだ。ネネはガードが固いが、僕もミコも人の目を気にしないから目のやり場に困ってるみたいだ。そして僕はベッド、ミコとネネは床に布団で寝た。疲れてたから、すぐに眠りに落ちだ。けど、起きたら三人仲良くベッドで寝てた。くそ、体が男だったなら。
そして迷宮2日目。今日はゴブリンゾーンに行く訳だけど、エマは送迎だけで行かないそうだ。ゴブリンは苦手らしい。メンバーは、僕、ミコ、それにバーサーカーのネネだ。正直ゴブリンはガン無しでは倒せる自信が無いから少し心強い。けど、なんか嫌な予感がする。だってミコとネネだ。絶対になんかしでかす。けど、ここの迷宮では死骸が残らないのがいい。スプラッター路線は無さそうだ。まあ、スライム汁はドロップアイテムだったんだろう。
魔法陣でダンジョンに移動する。出たとこは土壁の小部屋。あとでここに戻ってくれば帰れる。僕は今日もセーラー服に棍棒。ミコとネネはブレザーでミコは棍棒、エマは素手だ。ふと気付く。エマとの絡みは送るだけだから、僕が女の子になる意味無かったんじゃ?
「基本的にボクは危なくなるまで手はださないから、好きに戦ってよ」
ネネはそう言うが、多分ゴブリンより危険なのはお前だよ。
「あたしも基本的には見てるから。まあゴブリンなんかあたしでも秒殺だから」
ミコがドヤってる。まあレベル17だもんな。僕はレベル2なので何も言えない。けど、棍棒を手にしただけで、ゴブリンを僕は倒せるのか? 女体化っていうデバフもくらってるし。しかもガンが使えない。けど、ミコの『アフターピル』の魔法をかけて貰ってるから、死んでも蘇れる。出来ればお世話になりたくないが。正直、ネネの蘇生はトラウマものだった。
辺りを見渡してみる。ここは昨日とは違ってかなり暗い。壁、床、天井ともに土で、棍棒でこさいだら抉れる。僕たちがいる周り壁と床が仄かに光っていて、一つ通路が伸びてるが先は見通せない。なんかゴブリンの巣穴って感じだな。ある程度どんな感じかあらかじめエマに聞いてはいたが、これは厄介そうだ。ゴブリンは闇でも目が見えるけど、僕らはそうじゃない。僕らを中心に半径10メートルくらいはずっとぼんやり明るくなるそうだけど、これって自分たちの居場所を教えてるようなものなんじゃないか? 弓や投石をする奴も居るそうだから、一方的に攻撃される事もありそうだ。
「なあ、ミコ、もっと明るくする魔法とか使えないのか?」
「ん、使えるよ」
「暗いのやだから、頼む」
「嫌よ」
「なんでだよ」
「面白くないじゃない。タッキ、あんたお化け屋敷って入った事無いの?」
「無いよ。暗いのなんかやだろ」
「ほら、お化け屋敷って暗いからどきどきして楽しいんじゃないの。明るいと、どっからお化けが出てくるかすぐに分かりそうじゃない? 今日は、タッキにはそのどきどきを楽しんでもらいましょう」
「やだよ。そんなどきどきいらねーよ。だって、戦いは命がけだろ」
それにそういえばコイツらは高レベル。もしかして。
「あっ、ミコ、もしかしてお前見えるのか?」
「うん、少しはね」
「ミコは暗視スキル、ボクは気配察知を持ってるよ」
ネネが答えを言う。なんだそりゃずるいな。この暗がりが不利なのは僕だけかよ。更にネネが喋る。
「ボクたちはね、もっと危険な森でずっと戦ってたんだよ。そしてあっちで努力して手に入れれたスキルだよ。タッキ君も頑張ったら覚えるかもね。だから光は無しね。修行に来てるんでしょ?」
まあ、確かにそうだけど、努力で闇を見通せるようになったり気配が分かるようになるものなのか?
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