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第五十二話 陰陽


「居るんでしょ。出てきなよ」


 ネネが明後日の方に話しかける。もしかして、コイツはヤバいとは思ってたけど、なんか電波的なものを受信してる系なのか? 当然ネネに答える者は居ない。コンクリートの地下駐車場は物音一つしない。


「あんた達のレベルアップ手伝うって言ってるのよ」


 ミコも虚空に話しかける。今、女子高生の間でそういうのが流行ってるのか? それとも僕が知らないドラマの有名なワンシーンなのか?


「それは本当?」


 うげっ、また僕の影から忍者が顔を出している。もう3度目くらいだから、そんなにはビビらない。強いて言えば僕はトランクスだけだからガンが下から見えてないかが心配だ。いうても、なんかこの姿だと足を閉じてしまうから問題ないと思うが。

 忍者はシュパッと影から飛び出して来て、片膝をついて無音で着地する。かっけー。


「その話詳しく聞かせて」


 僕の影から目を瞑った少女の顔。


「うおっ」


 サクラは怖い。顔真っ白だし目を瞑ってるしデスマスクみたいだ。つい僕は股間を隠す。この変態からはパンツの上からでも、あいつの目が開いてなくても見られてるようで嫌だ。


「で、明日、何時からするの?」


 ミコが僕に問いかける。


「あのー、するとき見ててもいいですか?」


 サクラがおずおずと手を上げる。いつの間にか僕の影から出てきてる。やっぱりサクラや忍者は陰の者。陽の者は苦手なんだろうか? けど、相変わらずのゲスっぷりだ。


「ちょっ、アンタ勘違いしてるでしょ。やるのは迷宮よ」


「迷宮の中でやるんですか?」


「アンタ、わかっててからかってるでしょ。ぶつわよ」


 おずおずしてたサクラの雰囲気が変わる。


「ふーん、ぶちたいの? ぶちたいのですかぁ? ぶちたいって事はぶたれてもいいって事よね。あなた程度の攻撃は全て見切れるわ。その整った顔をパンパンに腫らしてあげるわ。私、残酷ですわよ」


 サクラが目を開ける。カラーの世界では初めてだ。その瞳は右は赤、左は青。まるで宝石のような、心が吸い込まれてしまいそうな澄んだ瞳だ。ゲスなのに。カラコンなのか?

 それにしてもコイツらはバトらないといけない呪いかなんかにかかってるのだろうか? 狂犬かよ。


「2人とも止めろ止めろ。僕のために争うな」


「「お前のためじゃない!」」


 仲良しかよ。寸分の狂いなくハモりやがったぞ。サクラの方が高音だな。


「まあ、なんだ、言ってみたかっただけだ。お前ら噛み合ってないから、まとめると、さっきの召喚士に迷宮に送ってもらってレベルアップする。それで、ミコは回復役で手伝ってくれて、あと迷宮に送ってもらう見返りに、サクラたちのレベルアップを手伝ってくれるって事でいいのか?」


 ミコもサクラも首を縦に振る。


「ねぇ、ねぇ、ボクもそれ参加したいなー。召喚士の娘、もっと難易度高いとこに送れないの?」


 ネネが割り込んでくる。こいつ自由だよな。それにサクラが答える。


「こっちじゃレベルアップできなくて、あっちに戻った時にまとめて上がるみたいだから、今のサリナじゃ三層が限界。でもあなたたちのマナを借りて送還の魔法をブーストしたらもっと下層もいけるかも」


「そっかーいいね。楽しそうだね。じゃボクもそれ協力するよ」


 ネネに手伝って貰えるなら安心だ。こいつは強力なサイコバーサーカーだからな。けど、僕には一つ懸念が。


「ちょっといいか? なんか色々手伝って貰えるようだけど。僕はあんた達に何も出来ないよ」


 そうだ。僕は何も持ってない。力もないし、お金もないし、スキルもなんも無いの無い無い尽くしだ。自分で顧みて悲しくなる。


「あたしは、協力したいからするだけ。なんかしてもらいたかったらお願いするかもね」


 まじか、ミコはそんなんでいいのか?  って多分お金取られるんだろな。魔法使って貰ったら。


「ボクは、さっきも言ったけど、ボクも強くなれるし、楽しそうだからね」


 三流アイドルは暇なんだろうか?


 そして、サクラが口を開く。


「そうね、私たちは、幾つかは譲れないわ。まずは、タッキは私たちと一緒に居る時は、必ず女装する事。これは私たちは男の子が苦手だから、妥協出来ないわ。エマとか全く話せないし。あと、もう一つは1回の探索毎に三十分のデッサンタイムを設ける事と、迷宮内での動画撮影を許可する事。これで私たちの作品がより素晴らしいものになるわ」


 おっ、思ったより良心的だ。最初はチンコ見せろとか言ったわりには。もしかして、これを見越して最初に無理難題をふっ掛けたのか?


「ああ、それくらいなら、問題ない」


 格好つけて答えたつもりだけど、メイクしてパンイチだと締まらないな。て言うか、しばらく女装がマストなのか……


 なんかサクラたちと、ミコたち、今までは、スクールカースト上位と最下位で接点がこの2グループには無かったみたいだけど。なんか意気投合してる。それから錬金術師のサリナと、召喚士のエマも出てきて色々話して詳細を決めた。そして何故かサリナが持って来たメイド服を僕は着させられている。まあ、パンイチよりはマシなのか?

 そして、無事に? ハウスして、もう一度シャワーを浴びてメイクを落としてやっと休む事が出来た。起きたらベッドにはミコとネネが転がり込んできててメッチャビビった。



 読んでいただきありがとうございます。


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