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 第五話 邂逅


「僕の名前は『二ノ宮達樹』。タッキと呼んでよ」


「言いにくいよー。『木に届く』って長いわよ」


「だからタッキだって」


「木に届く?」


「タッキ」


「きにとど?」


 変な略しかただなー。


「タッキ」


「トド?」


 トドは嫌だ動物だもんな。


「だからタッキって言ってるでしょ!」


「分かったわ「タッキ」ね「タッキ」」


 くそぅ。からかわれてたのか?


「分かったならいいや。で、聞きたいけど、魔法って何だ?」


「魔法は魔法よ」


 んー、魔法は魔法か。当たり前な質問なんだろう。呼吸って何かって聞かれてるようなものか。じゃ、そうだな。


「んー、で、君が使った魔法ってどういうものなんだ?」


「君じゃないわ『ライラ』よ。私が使ったのは『動物や魔物と意思疎通する魔法』よ」


 え、なんだそりゃ? 僕は動物とおなじ扱いって訳か? ひでぇ。


「ライラ、ウゴールウレ」


 剣の少女が口を開く。何言ってるのか分かんないや。


「ウルルが、どこから来たのかって」


「日本、日本から来た」


「えっ、日の(いず)る国? 遥か東方の黄金の国ジパング?」


 黄金の国ジパング。なんか歴史で聞いた事あるな。


「そうだな。多分そこだよ」


「えっ、タッキ、ちょんまげしてないじゃないの」


「なんか誤解が有るようだね。今では日本人でちょんまげしてるのは力士くらいなもんだよ」


 それから、部屋に入ってテーブルについて、ライラに通訳して貰ったりしながら、2人としっかり話をした。

 僕が話したのは、記憶が無く、いきなりここに居た事と、ここでスライム狩りをしてた事となんとかゴブリンを倒した事。ガンの事は濁しておいた。さすがに可愛らしい女の子2人に下ネタぶっ込む勇気は無い。


 ライラとウルルの職業は冒険者。いつもは町に住んでいて、冒険者ギルドで様々な依頼を受けて成功報酬を貰いそれで生活してる。まだ、初めて1年経たない駆け出しだそうだ。

 ライラは神官でウルルは戦士。今回受けた依頼は森の中の状態確認。ここの森は『恵みの森』と呼ばれていて、かなり奥地にならない限り強力な魔物は居ない。定期的にギルドから偵察の依頼が出るが、今までは危険はほぼ無いものだったそうだ。2人で、いつも通り浅い森の中を探索していたら、なんと森の遺跡にゴブリンの集団が住んでいた。見張りに気付かれ、逃げながら戦うを繰り返していたのだが、魔法は尽き、ライラが足を挫き、もうダメだと思ったとこで僕が現れたそうだ。


 ヒーローみたいだ。格好いいな。


 そして、その現れた奇妙な民族衣装のようなものを着た貧弱な少年は、知らない言葉を使ってたが、彼女たちに去れというジェスチャーをしたから、『ここは、自分に任せてにげろ』って言ってるんだろうとウルルが判断して逃げたそうだ。ちなみに、手のひらを下にしてコイコイってするのは彼女達の国では、あっち行けって意味だそうだ。アメリカかよ。


「で、タッキはどうやってゴブリンを倒したの?」


 ライラが尋ねてくる。彼女達には僕が実力でゴブリンを倒したって考えられないのか?


「おいおい、ほら、ぶん殴って倒したって」


 ゴブリンからの戦利品は部屋の床に持ってきて置いてある。それを指差す。


「…………」


「…………」


 ウルルとライラはしばらく僕には分からない言葉で話し合う。


「ウルルがタッキ程度の実力じゃゴブリン一匹が限界って言ってるわ」


 ユラリとウルルが椅子から立ち上がり、なんか指をポキポキ言わせ始める。そして僕の横にくる。


「タッキー、ウルルが少し調べたいから相手してって」


「いや、僕は女性と戦う趣味は無いよ。アウチッ!」


 クソッ、この女、いきなり僕の背中に蹴りくれやがった。指ポキポキしてから蹴るって何のためにポキポキしたんだよ。ウルルは右手を前に出してクイクイする。来いって事か。舐めやがって。椅子を蹴って立ち上がる。


「やんのか! コラァ!」


 スライムをぶち抜いたスーパーパンチを食らわせてやる。まあ、当たった瞬間に力を抜けば、間違って大怪我させたりはしないだろう。


 ボスッ。


 殴ろうとした僕の腹にウルルの足が刺さる。ぐぉ、動けない。めっさ痛ぇ。体が折れる。舐めんじゃねー! 気力を振り絞ってアッパー。蛙跳びアッパーってやつだ。足の力をアッパーカットに込めるがスカる。


「おぶぅ」


 更に腹にパンチが……

 

「げっはー」


 目の前に拳が迫ったと思ったら、天井が見えて吹っ飛ばされている。体が浮いた。


「ガッ!」


 頭に激痛、壁か? くそっ、体が動かない。不意に視界が暗くなる。僕を見下げてるウルル。


「がぁ、ががががっ」


 容赦なく僕の顔を踏んでグリグリしてくる。ドSかよ。口の中に鉄のような血の味と土の味が広がる。


「ライラ、アン、シュル、シュル」


 ウルルが僕をグリグリしながら、ライラに何か言ってる。


「ウルルッ!」


 ライラがウルルを強い口調で呼ぶ。ウルルが足をどける。


「ごめんなさいね」


 ライラが駆け寄って来て、濡らした布で顔を拭ってくれる。ライラとウルルは僕の分かんない言葉で口論始める。僕はなんとか体を起こし這って壁にもたれる.マジでなんなんだよ。アイツは狂犬なのか?

 腸が煮えくりかえってる僕をライラが見下ろして口を開く。


「ねぇ、ウルがあなたは私よりも弱いって。多分そうね。不様。で、あなた何者なの、ゴブリンの手先?」


 なんか、ライラの態度がさっきまでと違う。その後ろでウルルが剣を抜く。

 


 読んでいただきありがとうございます。


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