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第三十八話 ローション


「よいしょ」


「よいしょ」


 サクラとシノブはこたつを畳の上からどかして、そこで寝てた2人の少女を積み上げる。アイツら大丈夫なのか? 全く起きないぞ。


「フッ、私はお前との戦いを予知していた」


 サクラはそう言うとバッとシャツとスカートを脱ぐ。どこに売ってるんだ? その割れてすぐ脱げる服? 自作か? その下にはスクール水着。くそっ、騙された。さっきパンツを脱ごうとしてたのは演技だったのか? やっぱコイツは色物だな。つい、目が引き寄せられる。胸がパツパツだ。水着で押さえられてたのか。意外にデカくないか? サクラは行儀よく脱いだ服を畳んで個室の1つにしまってくる。髪を後ろに1つに纏めて手に液体が入った透明な瓶を持ってくる。んー、地味眼鏡っ子が隠れ巨乳で眼鏡外したら美少女。エロ漫画のテンプレだな。けど、なんとも思わない。こいつは残念な事に変態のプロフェッショナルだ。


「モンゴル相撲と言えばこれだっ!」


 瓶を開けて、その中の液体を手に取り体に塗り始める。シノブがジト目でサクラを見る。


「サクラちゃん、それは誤った知識よ。モンゴル相撲では体に油を塗るって言われてるけど、本当は塗るのはトルコ相撲よ。それにそれは油じゃなくてローションよ」


「えっ、そうなの? まあ、けど、大した問題じゃない。シノブ、背中に塗ってくれ」


「はいはい」


 シノブがサクラの背中やお尻にローションを塗る。忍者娘がスク水娘にローションを塗っている。なんて素晴らしい光景なんだろう。けど、僕は何を見せられてるんだ? なんか怒りが薄れてきた。


「よしっ! 準備完了。あと、ルールを1つ追加よ。畳から出ても負けよ」


 サクラはテラテラ光りながら準備期間体操してる。胸に腕を当ててもう片方の腕で伸ばすやつ。あれって間違いなくただの巨乳アピールだよな。潰れた胸につい目がいく。よし、事故に見せかけて思う存分触ってやる!


「ああいいだろう。ぶっ倒してやる」


 僕も畳に上がる。ふと気になった事を口にする。


「畳に垂れてるけど、それ、掃除大変なんじゃないか?」


「うっ、そうね。しっかり拭かないとカビるわね。私とした事がうかつだったわ」


「それに、戦いを予知してたって言ったよな? それなら回避する方法は無かったのかよ?」


「そうね。けど、力をぶつけ合わないと分からない事もあるわ。私とあなたが戦うのは運命なのよ。ロミオとジュリエットのようなものよ」


 また、シノブが即ツッコむ。


「ロミオとジュリエットで争ってるのは回りの人達よ。本人たちはバトってないわ」


「そこは雰囲気よ。愛し合う2人が戦う。ロマンチックでしょ?」


「僕は微塵もサクラを愛して無いんだが?」


「私は、私が書いたあなたのキャラを愛してるから問題ないわ」


「そうか、お前なのか? お前がアレを書いたのか……お仕置き。お仕置きだな」


「フフフッ。十の世界線の中で九つはあなたが畳を舐めてるわ。私、強いですわよ」


 モノクロの世界線の中で、サクラが手の甲を口に当てる。今流行りの悪役令嬢ポーズだな。


 シノブが僕たち2人の間に手を差し出す。


「気合い十分みたいね。では、はっけよい、のこった!」


 シノブが手を振り上げ畳から出る。


「さあ、お仕置きの時間だあっ!」


 僕はサクラに低いタックルを仕掛ける。この角度からお尻を掴んで胸に顔を埋めながら一撃で倒す。


「甘い。見えてるわ」


 サクラが消えた?


「うがっ」


 頭に衝撃、飛び上がって頭を踏みつけられたのか? そう言えば昔の格闘ゲームに軍服でそういう技するやついたな。実際にやられるとかなりヤバい。首の骨折れるかと思った。なんとかたたらを踏みながらも堪え、振り返る。


 サクラが腕を組んで口を開く。


「魔法職だから弱いと思った? そりゃ物理も鍛えてるわよ。今のが私の必殺技。ブレインプレスよ」


 ムカつくドヤ顔してやがる。けど、いや、まじ強いわ。ふと思う。転移してから、スライムの次に一番戦ってるものは女の子じゃないか? ウルル、ミコ、シノブ、そして今はサクラ。なんでだろう。しかもみんな反則に強い。女は魔物って事だろう。

 それよりもどうする? 今の動きを見るに、何をやってもアイツに触れる自信が無い。それに、アイツが言ってる事が確かなら、常に僕の未来の動きを見ている事になる。


「あなたに私のスキルを納得して貰うにはこれしかないのよ。いきなり親しくない者が未来が見えるって言っても信用しないでしょ」


「いや、親しくても信用しないと思うぞ」


 考える時間を稼ごう。会話から突破口を見いだせるかも。


「なんでよ!」


「そりゃ、スク水でローションまみれの人間が何言っても信用しないだろ」


「それはあなたのせいよ。水着だけでもローションだけでもあなたは戦わないのよ。あなたに戦わせるためにどれだけの事を試したと思ってるのよ」


 まじか。そうなのか。でも確かに、水着だけなら燃えないし、ローションだけでもやる気は出ないだろう。露出過多でヌルヌルなサクラを見て、倒してやる! って気分になったのは確かだ。


「じゃあ、こっちからいくわよ」


 サクラが突進してくる。右手で掴みかかってくるのを避ける。


「うぼっ」


 お腹にサクラの手のひらがのめり込む。フェイントだったのか。体がくの字に折れ曲がる。


「とどめよ」


 背中に柔らかいものがと思ったらふわっと体が浮き上がる。これはパワーボム。ジタバタしてたら、顔がヌルヌルスベスベなものに挟まれる。太股っ! まずい、これは男として生まれて一度は女子にかけられたい技『パイルドライバー』だ!!



 読んでいただきありがとうございます。


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