第三十四話 モノクロ
「うげっ」
僕は地面に叩き付けられる。いつの間にか落下してて足で着地したんだけど、僕の身体能力では衝撃に耐えられず、なんとか前に転がって事なきを得た。多分僕の身長の倍くらい落ちたんじゃないか?
僕の隣には忍者が立っている。ここはなんなんだ? 忍者の体は白黒だ。床は黒と言うか濃い灰色で、辺りは全て薄い灰色だ。なんて言うか、モノクロの写真の中に入り込んだみたいだ。僕の目がおかしくなったのか?
「ついて来て」
歩き出す忍者についていく。
「ここはどこなんだ?」
「影の中」
「どゆこと?」
「私のスキル。影移動のアドバンスドスキル。『影世界』で作った世界。うー、難しいわ。影から入れる、庭? みたいなもので、決めた入り口から出入り出来てー。時間は普通に進んでくわ」
なんか分かったような分からないような?
「要は、あんたは、スキルで、異世界に行ったり来たりできるって事で、ここはその異世界って事か?」
「まあ、そう言う感じね」
忍者がスタスタ歩くのに僕は付いていく。
「で、どこに連れてくんだ? その前に、お前は敵なのか? なんでトイレで僕に攻撃してきた?」
「攻撃しようとしてた訳じゃないわ。あの時吹き矢に塗ってたのは痺れ薬。あなたをここに運ぼうと思ってただけよ」
「僕をここに運ぶ? なんでだ?」
「サクラがあなたに会いたいって。私たちがあっちで生きてくためには、あなたが必要なんだって」
サクラって、確か眼鏡の目立たない女の子だったよな?
「僕に会いたい? それならそう言えば良かったじゃないか?」
「私たちがあなたと接触するのを、聖女と拳聖と賢者が邪魔してたから。聖女パーティーと、私たちは明確な敵。光と闇が混じり合う事は永遠に無いのよ」
ん、なんか頭にむず痒いようによぎる。もしかして、ミコとネネが僕に付き纏ってるのは、他にも理由があるのか?
けど、僕には何も分からない。アイツらのような人外が何故僕程度にこだわるのか?
「ついたわよ。闇の世界にようこそ。ここから進むか進まないかはあなた次第よ。帰りたいなら強制はしないわ」
僕らは建物の前に居る。なんて言うか神社のような感じで木の扉がある。忍者は強制はしないとか言ってるけど、ここで帰ったらモヤモヤし過ぎるだろう。僕は扉を開く。
ギギギギーーッ。
軋む音を立てて扉が開く。
「…………」
僕は謎風景に言葉を失う。部屋は紛う事なき男子トイレ。左手には小便器がならんでいて、右手には個室がならんでいる。そこは広く中央には畳が敷いてありこたつがある。そこには左右には女の子が寝ていて、正面にはアイマスクをした女の子がいる。その目は見えないけど、顔がこっちを向いている。うん、間違いなくこの人たちは友達になってはいけない人達だ。僕は扉から出て、ゆっくりと扉を閉める。
「川、オークの群れ、顔を舐められる女の子」
部屋から声がする。え、ラグナフェンでの僕の最後のシチュエーション? なぜこいつが? 僕は扉を開ける。
「なんで知ってるんだ?」
起きてるのはアイマスクの人。喋ったのはコイツか?
「知りたいならそこにおかけなさい」
アイマスクは手前のこたつの空いたとこを指差す。
「嫌だよ。なんで便所でこたつに入らにゃあかんのだ」
「まずは、そこからですね。ここはトイレに見えますけど、私たちの秘密基地です。シノブのスキルは今、二つの部屋をここに持ってこられます。それでシノブが選んだのがこの部屋です」
二つのうち一つに男子トイレを選ぶって。イカれてるのか?
「理由を説明させて貰おう」
忍者が僕の肩に遠慮がちに触れる。忍者の名前が『シノブ』なのか。そのまんまじゃん。
「あちらのアジトはなにも考えてなかったから普通の小屋だ。それでこちらに
戻ってきて私はじっくり考えたわ。まず、水が欲しい、あとトイレが欲しいと。災害とかで逃げ込むならトイレがいいってよくいうじゃない。それとあとは資料としてよ」
なんか、微妙に説得力がある。けど、資料ってなんのだ?
「そっかー。水が欲しいからトイレにしたのかーって普通ならねーよ。お前らこんな金隠しに囲まれて、よく平然としてるな」
「それは違う」
アイマスクが答える。
「私たちの世界では男子トイレは神聖なリング。男と男が聖なる戦いを広げる聖地だ」
なんか背筋がぞわわっとする。トイレで行われる性なる戦い?
「それって、もしかしてBLってやつか?」
僕はつい後退る。
「まあ、そうとも言います。けど、あなただって、人知れず女性のエッチな動画を見ますよね。それと同様に女子はそう言う世界を嗜むものです。私のデータでは、約80%の女子が聖書を読んでます」
「聖書ってなんだ?」
「あなたも興味あるのですね。シノブ、見せて差し上げなさい」
「分かった」
忍者が音も無く滑るように動き、トイレの個室の一つを開ける。その中には便器の上に本棚があった。そこから忍者が一冊の薄い本をもってくる。表紙は面長の男2人が抱き合っている絵だ。そして僕は適当なページを開ける。
「ぶふっ!」
ついつい噴き出してしまう。僕に似た男の子が、上と下から馬面にブッ刺されてる無修正の漫画だった!
読んでいただいてありがとうございます。集英社さんで賞をとった、私の代表作『最強の荷物持ち』近々、全国書店で販売予定です。下に小説へのリンクをはってますので、よろしければ、お越しおまちしております。
https://book1.adouzi.eu.org/n8450gq/
読んでいただきありがとうございます。
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