第三十三話 ナイトオーク
グロ有りです。苦手な方は「油断した」まで、読み飛ばしてください。
「うぎょええええええええーーーーっ!」
僕はつい手にしたものを放り捨てる。
な、何が起こった?
目の前で膝から砕け落ちる首が無いネネの体をデカオークが斧でなぎ払う。血を撒き散らしながら、二つに分かれて飛んでいく。
し、死んだのか……
ネネ……
ムッツリスケベで、戦闘狂で、決していい奴とは言えなかった。けど、クラスメートが目の前で惨殺された……
オークが斧を構えて近付いてくる。その斧はさっきみたいに光ってはない。僕は身が竦んでヨロヨロと後退る。
次は僕の番だ。僕の手にはべったりと生暖かいものが……
これは夢じゃない。勇気を出せ。出さないと死ぬ。体に力が入らない。
え……
僕は堪えられず、その場に崩れる。
ジリジリと近付くオーク。大きな斧を振り上げる。けど、僕はそれを視界の端に捉える。
それよりも恐ろしいものが……
ネネの千切れた上半身がグチャグチャしたものを引きずりながら下半身のとこにたどり着く。ゆらりと、ネネの死体が起きあがる。前ははだけて胸の谷間が見えてるがそれどころじゃない。お腹からこぼれている内臓みたいなものが、動画を逆再生してるかのようにネネの腹に戻っていく。こぼれている血液がまるで生き物のように流れてネネの方に行き、その傷口に吸い込まれていく。フラフラと歩いて頭を拾うと、それを首に乗せる。恐ろし過ぎる、ネネのスキルなのか? ヤバい何かが口から溢れそうだ。
ここで、オークも異常に気付く。ネネの方を見る。小さな目を見開いて、後退る。
「油断した。クリティカルくらうとはねー。おおおおーーっ!」
拳を腰だめに騎馬立ちしたネネの体が金色に光る。ネネは光の残滓を残しながら、オークに突進し拳を突き出す。
ドゴン!
轟音を立ててオークは吹っ飛ぶ。そして前が空いて、千切れたパジャマを靡かせてネネが僕の方に歩いてくる。体から金色の光がこぼれている。僕は完全に腰が抜けた。もしかしたら、少し弾を失ったかもしれない。
「どうしたんだい? 化け物でも見てるようだよ」
「ばっ、化け物だろ。大丈夫なのか?」
「ああ、今のね。今のはミコの『アフターピル』だよ。一回死んでも全快で復活する聖女の特殊魔法だよ」
「魔法?」
え、アフターピルって避妊の魔法じゃないのか?
「そうだよ。プラナリアじゃあるまいし、人間がぶった切られて生きてる訳無いじゃん。元々は『アフターヒール』って名前らしいけど、ミコは名前を勘違いして覚えてる」
なんだそれ、チート過ぎるだろ。けど、ゲームとかでそんな魔法あったりするけど、実際に存在するとこんな感じになるのか。気持ち悪いし、心臓に悪すぎる。けど、何でミコが態度がデカいのか分かった。絶対に仲間にしたい魔法だもんな。
「話はここまで。まだだ。強いなー。あれ、多分、ボクよりレベルが上だ。ミコ、居ないから次やられたら終わりだよ」
オークが頭を振って立ち上がる。
「ナイトオークだね。確かレベルは20。君を守りながら戦える自信は無い」
「おい、大丈夫かよ。またやられるんじゃないか?」
「大丈夫だと思う。さっきのスキルは多分『大切断』。オークはマナが少ないからもう使えない。それにボクは本気出してるからね。『拳王化』。スピードが落ちる変わりに力も防御力も上がってるからね。君は下がってて」
「ああ」
僕は起き上がれなく、這いながらネネと距離を取る。なんか女の子に守って貰ってるみたいで情けない。けど、ナイトオークはレベル20。僕の十倍だよ。秒殺される自信がある。
「死んでもらうよ」
ネネは一直線にオークに駆け出す。相手の方が強いかもしれないのに一切躊躇いが無い。オークは斧を横薙ぎしてネネを迎えうつ。ネネはそれを頭を下げてギリギリでかわして蹴りを出す。けど、それはオークの盾に阻まれる。
そして、それから、激しい戦いが始まった。
お互いにほぼ互角。ネネはオークの攻撃をかわし、受け流し、時にはその体で受け止める。オークはネネの打撃を盾や鎧で受け止める。けど、双方ともに少しづつダメージを負っていっている。永遠に続きそうだけど、ダメージが疲労が蓄積してスタミナが切れた方が負けるだろう。ネネはこっちに背を向けてるけど、激しい動きで見えそうだ。アイドルの肌を見られるかもしれないのに全くそそらない。むしろ怖い。
「タッキくん」
誰かが僕を呼んでいる。ビクッと体が跳ねる。幻聴か? それとももしかして、ここの駐車場の地縛霊?
「タッキくん」
明らかに声がした。僕は足を投げ出して後ろに手を付いてる。辺りをみわたすがやはり誰も居ない。
「タッキくん、こっちこっち」
「うおっ」
何かが手首を掴んだ!
えっ? 僕の背中の影に顔が浮かんでいる。あ、悪霊!
「死にたくないなら、叫ばないで」
なんとか叫びそうになるのを飲み込む。あ、悪霊じゃない。見た顔だ。頭に忍者頭巾、クラスメートの……
「レジストしないなら逃げられるわ。あの雌ゴリラから逃げたくないの?」
とにかくここから逃げたい。雌ゴリラってネネの事だとおもう。彼女が忍者? 僕は一瞬迷う。忍者は僕を狙っていた。けど、忍者よりあそこで戦っている拳聖の方が遥かに危険に思える。
「そのレジストってやつはしないから助けてくれ」
「じゃ、リラックスして私をうけいれて」
なんか、ぞわりと悪寒がしたと思ったら、僕は地面に吸い込まれた。
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