第三十話 混沌
「目覚めたのか……秘めたる力に……」
つい考えが口から漏れる。
「僕はさっき確かに部屋に来たのがミコじゃなくてネネちゃんだったら良かったのにと思った。もしかしたら、僕の中にチート系のスキルの願いが叶う系が発生したのではないか?」
「何ブツブツ言ってるのー。発生してないよー」
あ、あんまり動転してブツブツ言ってたのか?
「おかしいだろ。たとえ三流の末端だとは言え、グループアイドルの一員が、男の部屋に寝袋敷いて寝てる訳無いだろ。事務所がそんな事許す訳が無い。もしスクープされたらアイドルとして死ぬ。だから、お前は多分僕のスキルで変化したミコだ。それか僕がラリって幻覚見てるかだ!」
「なんか君、びみょーにムカつく事言うね。ボクはボクだよ。ボクのファンが聞いたら君、抹殺されるよ。君がラリってるというのだけは合ってると思うよ。ボクはねー、ミコちゃんを守るために来たんだよ」
「ミコを誰から守るんだ?」
「君に決まってるじゃないか」
「はぁー。逆だろ。僕をミコから守ってくれよ。ていうかまだミコ居るのか? 何してるんだ?」
「ミコちゃんは今、下でお風呂入ってるよー。大丈夫、君の両親は黙らせたからお金で。ミコちゃん、今日はここで寝るって言って聞かないんだよ」
「なんだよ。お金で黙らせたって。僕は両親に売られたのか? アイドルがお金を払って僕の部屋に泊まる? 訳解んねーよ」
「そう言う訳だから、寝るよ。ボクの特技は寝袋でどこでも眠れる事なのだよ。あとね、スキルで『気配察知』っての持ってる。不意打ちは無理だよ。君が襲いかかって来ても、すぐ返り討ちできるから……」
えっ、もう寝てる。この娘、心臓に毛が生えてるのか? 他人の家、しかもあんまりお互い知らないような間柄の男の家でこんな無防備に寝顔を晒すなんて。やっぱコイツ普通じゃない。なんか可愛いなーとか思ってたのが、飛んでった。
ガチャリ。
「どうしたんだ、母さん」
扉を開けたのは、母さん。なんかネグリジェ的なだっさいやつに頭になんか被ってて顔にはパックしてる。仮にもお客さんが来てる時にウロつく格好じゃ無いだろう。
「ん、どうしたんだよ。あ、ミコかっ!」
まじか、母さん、パンツだけじゃなく、自分の服とパックまでミコに貸したのか?
「おー、そんなにタッキのお母さんに似てる? ママって呼んでいいわよ。タッキちゃーん。おっぱいの時間よー」
ミコが胸を下から持ち上げて、こっちに来る。ヤバいイカれてやがる。
「来んな! バカッ」
「ぐぅえーー!」
あ、ネネ踏まれれてる。
「ミコ、ボクを踏んでるよ」
「ゴメン」
「おい、ネネ、お前、気配察知とか何とか言ってたよな」
そのスキル、ポンコツなんじゃないか?
「敵意が無いと気付かない」
「そんな事より、何、ミコ、うちに馴染んでんだよ。何でうちに居るんだよ」
「そりゃ、協力するためよ。あたし達がタッキを守って、タッキがあたし達を守る。ウィンウィンの関係よ」
ジリジリとミコが近づいてくる。
「とうっ!」
ダイブしてきやがった。
「って、お前、ベッドに入ってくるなや。なんか変なのあたっとる」
ミコが怪力で僕の腕にしがみついてくる。
「当ててるのよ。好きなくせに。聞いたわよママさんから、タッキって小学3年生まで」
「止めろ止めろ! 言うな! 母さん何言ってんだよ」
「タッキちゃーん。ママとねんねするわよー」
ミコが更にしがみついてくる。苦しいー。
「なんか楽しそう。ボクも参加してもいいー?」
「いいもなんも、入ってくるなや。ベッドうち壊れるわ」
さすがに三人も乗るとベッドがミシミシ言ってる。
「ひっどーい。あたし達、そんなに重くないわよ」
しばらく、僕たちは騒いで、最終的にはミコとネネは僕が下からもって来たお客さん用の布団で寝る事になった。僕の部屋に女の子が寝てるなんて初めての事だけど、ミコとネネなので、何も気にならずすぐに寝ついた。
「うわ、コイツら寝相悪いって言うか、アホだろ」
つい言葉が漏れる。トイレに行きたくて起きたら、床の布団での彼女らの寝相は酷いものだった。ミコは頭と足が寝たときと逆方向になってて、2人は抱き合っていて、お互いの足で相手の頭を挟んでいる。わざとなのか? 体張って下ネタ披露してるのか?
まあ、けど、起きると厄介なので、踏まないようにしてトイレに向かう。
階段を降りるけど、比較的、月明かりで明るいので電気を点けずに行く。トイレも電気はつけない。トイレの便座を上げてガンを出す。僕の弾は百発百中だ。OBなどあり得ない。なんかここ最近の生活で普通におしっこを出すのが勿体ないと感じる自分が嫌だ。ん、少しトイレが暗くなる。月が雲に隠れたのか? 正面のトイレの窓を見ると、窓の外に人影が!
「に、忍者?」
頭にに忍者頭巾、目から下はヒラヒラした布で隠されている。
ダダダダダッ!
階段を何かが降りてくる。
忍者が筒のようなものを口に当てる。吹き矢?
「フッ」
強く息を吹く音。
「フォース!」
良かった。丁度出す間際だったので、反射的に撃てた。対人のクオーター弾だ。吹き矢を含めた忍者の顔にクリーンヒットだ。
「ウガッ! しょっぱ」
女の子の声、くノ一か。忍者の顔が窓から消える。どうやら、吹き矢の矢は弾でうち落とせたみたいだ。
バタン!
勢いよくトイレのドアが開けられる。そして電気が点く。
「大丈夫かっ! って君、トイレもまともにできないのか? 臭っ。水浸しじゃないか」
ネネが顔を顰めている。なんて言い訳しよう……
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