第二十八話 生還
「せっかく探しに来たのに、ネネおじゃま虫みたいねー」
清純派で売ってるはずなのに、彼女の視線はずっと僕のガンだ。ヤバいアイドルに見られてる。
「ごめんねー。消えるわー」
ネネは僕らに背を向けて鈍くさく走り出す。
「待ってくれー!」
「ネネ、待ってー!」
ネネはオドオドしながらも戻って来た。
「本当に本当に何もなかったのー」
ネネちゃんが顔を真っ赤にしてミコに聞く。なんて言うか、船の事があるからわだかまりはあるが、ネネちゃんは可愛い。
僕らは資材置き場のボロ小屋でタクシーを待っている。ネネちゃんはミコを心配して携帯のGPSで探しに来たそうだ。縄は簡単にネネちゃんが千切ってくれて、ミコがいきさつを軽く話した。そのあとミコがエリカさんに電話して、着替えを持ってタクシーで迎えに来てくれる事になった。
「だから、何もなかったんだって」
「ボク聞いちゃったよー。ミコちゃんが、『下手ね、動かないで』とか『太くて入らない』とか言ってるのをー。キャッ」
ネネちゃんが顔を覆う。
「だから、誤解だって、タッキが下手なのは縄を解くの。太かったのも縄」
「けど、ミコちゃんは下着だしー、タッキ君、何も穿いて無いよー。状況から見ても、そういう事してたとしか思えないよー」
「ちょっと、ネネさん、よーく考えてくれよ。僕がコイツとそんな事する訳ないでしょ」
「けど、今朝、ラブラブ歩きしてたんでしょー」
今朝の事なのに広まってるなー。
「それに、見たでしょ、僕のアレ、全く反応して無かったでしょ」
「うん、ボク見た。普通だった。キャッ」
「て言うか、ネネ、キャラ作り止めなよ。なんか腹立つ」
「しょうが無いでしょー。いつも練習しとかないと、ポロッと出るんだからー。ポロッと出る……キャッ」
また、ガンを見やがった。開きなおって隠してないけど、なんかなんとも言えない気分だ。
それはそうと、ネネちゃんの一人称と間延びした話し方ってもしかして作ってるのか。
「それに、タッキ、あたしを良ーく見て。ほらほら興奮しないの?」
ミコが僕の前に来て、下着姿の胸を揺する。うん、凄いバカっぽい。パンツ脱がされそうになって泣いてた人は何処に行ったんでしょう? けど、オッサンの尻でも見てしまったようで、なんか、嫌な気しかしない。
「うわ、何、その死んだ目。ムカつくわー。やっぱ男の方が好きなのね。で、誰とヤッたの?」
「なんだそりゃ?」
「だって、タッキ、下穿いてないじゃない。あたしが寝てるときに脱がされて、誰かにやられたんじゃないの?」
「ちげーわ。やられとらんわ。事故だ事故」
「そう言えば、そうよね。あたしが気を失ってる時、2回もおしっこかけられた訳だし。もしかして、寝てる女の子にしか興奮しないの?」
「え、なになに、詳しく教えて」
あ、ネネちゃんの口調が早くなった。キャラ捨ててる。
「昨日、タッキをからかったら、お腹殴られて、気絶してる時におしっこかけられたのよ。あと、さっき魔法で眠らされた時もかけられたの」
「何それ、と言う事は鬼畜で変態で露出狂でホモって事なのー?」
ネネちゃんが眉をひそめる。
「鬼畜でもホモでもないわ!」
「あ、変態と露出狂は否定しなかったー」
ネネちゃんがツッコんでくる。
「否定はしてないけど、事故なんだ事故」
ミコが僕の肩を掴んでじっと目を見る。
「事故でおしっこかけるってどういう意味? あと、事故で脱ぐってどういう事? それに、タッキ、海に投げ込まれたんでしょ。どうやって助かったの?」
なんか和んでるけど、ミコとはあくまでも一時的な協力関係だ。スキルの詳細は教えたくない。ネネちゃんも居るし。
「お前だって、僕に言えない事があるだろ。僕にだってお前に言えない事もある」
ミコはなんか悲しそうな顔をして隣に座る。
「タッキ君は、ボクたちが見殺しにした事を恨んでるんだねー」
ネネちゃんの声はテンション低めだ。
「そりゃそうだろ。しばらく協力はするが、デカい借りは絶対返す」
「デカいカリ? っキャッ」
だからネネちゃん、ガンを見るなよ。つい睨む。
「恐いなー。そんな目しないでよ。ボクらだって」
車の音がしてネネちゃんは小屋から飛び出す。そして、やって来たエリカさんに服を借りて、僕とミコは着替えてタクシーで家まで送って貰った。別れ際に、ミコが僕にタケシから貰ったお金の半分、五万をくれたので有難くいただいた。それから風呂に入って、家を出て、中古の携帯と財布を買った。学校に行く気にはなれなかったから、帰って家でゆっくりする事にした。
そして、夕飯、風呂入った後、ミコが家にやって来た。制服のままだ。まだ家に帰ってないのか? 父さん母さんがキョドってるなか、二階の僕の部屋に連れて行く。何もしないって。
「うわ、タッキのベッドー」
部屋に入るなり、奴は僕のベッドに飛び込みやがった。
「かむ、かむー」
「誘うなや。かむかむじゃねーよ」
僕はなんか引きずり込まれそうなんで、距離を取って椅子に座る。当女の子が僕のベッドに座ってるなんて初めてだ。これがネネちゃんだったらドキドキなのに……
「タッキの匂いー、タッキの匂いー」
ミコは布団をめくって嗅ぎはじめる。
「嗅ぐなや。何しに来たんだよ。帰ってくれよ」
「つまんね。臭くないわ。あ、口紅ついてる」
「口紅ついてるじゃねーよ。お前がつけたんだろ」
あー、母さんになんて言おう。そこ丁度寝たときお尻くらいの場所だよ。僕が頭を抱えてると、ミコはベッドの端に座ってこっちを見る。
「そうそう、タケシたち、しばいて来たよ。もう手を出してこないよ」
「ん、どゆこと?」
「うちのチームと、タケシのチームで正面から戦ってボッコボコにしてきた。誰も殺してはないよ」
「まじか。タケシ、強かったんじゃないのか?」
「あいつら、まだレベル10前後だからら、普通に戦ったら楽勝。タケシはネネと相性悪いから」
「ネネちゃん、強いのか?」
「ネネは拳聖ってクラス。拳はこぶしの拳。ソードじゃない方ね。素手じゃクラスで一番強い」
「まじか……」
あんなに清楚なのに……
アイドルでボクっ娘でムッツリスケベで、格闘家なのか。属性詰め込み過ぎだろ。
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