第十八話 アルガニア王国
「僕は、気付いたら草原にいた。何もラグナフェンについては分からない。けど、カズマたちは色々あったんだろ? 何があったか聞かせてくれないか?」
「他の奴に聞けよ」
僕は財布から一万円出してカズマに差し出す。うう、貯金がどんどん無くなる。カズマは口の端を軽く歪める。
「俺たちは、白い教室から出て、船にのって進んだ。その時にお前は事故で船から落ちたんだ」
ほう、あれが事故ね……
それから、カズマはみんなに何が起こったのかつぶさに語り始めた。一万円は偉大だ。僕はスマホで、カズマの話を録音する。
暗い海を船は進み、止まる。止まった瞬間に辺りが光り、クラス全員、神殿のような所にいた。ドタドタと、鎧を着た騎士みたいな連中に遠巻きに囲まれる。お互い声を掛け合うが言葉が通じない。しばらく経って、じいさんが現れた。
「私の名前は、オーファン。宮廷魔術長だ。私は今、翻訳の魔法を使っている。君たちはどこから現れんだ?」
カズマと西園寺が魔術長にあらましを話す。魔術長が騎士の一人に話をして、1つのオーブをもってくる。スキルを持つ者が触ると光るそうだ。おお、異世界転移のテンプレだ。魔術長に頼まれてみんなで順番にそれに触れる。全員当然オーブが光り、特にカズマと西園寺の光りは激しく、魔術長や騎士たちから感嘆の声が漏れたそうだ。そして、魔術長からラグナフェンについての話があった。
ここの世界はラグナフェンと言うそうだ。今、カズマたちが居るのはアルガニアと言う王国。その王城の中の礼拝堂に今は居る。王国は、四方を他の国に囲まれていて争っている。その中には魔物の国という魔王が収める国もあり、人類は常に滅亡の危機に晒されている。数百年に1度、カズマたちのような異世界の英雄が現れ人類の先鋒として戦ってくれると言う。ここで、豪華な服装の若い男女が現れて、魔術長と騎士たちは平伏する。魔術長が立ち上がり、この国の第一王子と、第二王女だと説明する。二人の格好はキラキラで、ディズ〇ーアニメの王子様、王女様のようだったそうだ。金髪碧眼で見目麗しく、クラスメート全員、1発で魅力されてしまったそうだ。
なんかいいなー。普通に異世界転移って感じだよな。チートスキルで、驚いて貰ったりとか、美人局の王族出てきたりとか。まあ、もし、僕がそこに居たとしても、テンプレ通り、スキルが無くて追放されてたんだろな。
「アルガニア王国、いや、世界のために、英雄たちよ。力を貸してくれ」
翻訳の魔道具を使って自己紹介した後。王子王女は土下座する。美男美女にそこまでされてクラスは一致団結。王国のために力を貸す事になる。そして、豪華絢爛なディナーパーティー。まるで、ベルサイユ宮殿のような所で歓待を受けながら高級ホテルのビュッフェのような料理を楽しんだ。言葉は通じないけど、イケメンと美少女にみんなチヤホヤされたそうだ。そして、歓談中に、神託の巫女という者が現れる。王女に勝るとも劣らない美少女。女神から英雄たちに伝言があると言って話し始めた。
1週間おきに帰りたいと思ったら元の世界に帰れること。帰った時に時間は進まない。
元の世界で1週間たって、転移した場所に戻って来て、そこで寝たらラグナフェンに戻れること。戻ってくる場所は帰った場所で、時間は進まない。
ラグナフェンで死んでも、元の世界に帰るだけだということ。
ラグナフェンを救う事が出来たら、女神が出来る事の範囲で望みを叶えてくれること。
それを聞いて、クラス全員のテンションが上がる。死ぬ危険も無く、チート持ちで、美男美女にチヤホヤされる。まるでゲームのようなものだ。
なんか無性に腹が立つ。僕はスライムをオシッコかけて倒しながら、臭い飯食ってたのに。なんなんだよ、この待遇の差は……
そして、飯の後は男女別に大浴場で温泉に入り、城のそばの迎賓館でふっかふかの布団で寝たという。
次の日、6人グループに分かれて、1グループに一人、翻訳の魔法が使える魔道士があてがわれて、グループ毎に自由行動し始めた。戦闘訓練するグループ、情報収集するグループも居たが、カズマと西園寺のグループは魔物退治に繰り出した。そして、それから数日は問題なくレベルアップにみんな励んだそうだ。
問題があったのは二日前。いきなり西園寺のグループがカズマのグループに襲いかかって来たそうだ。なんとか逃げたが、コウタ以外とははぐれてしまったそうだ。
そして、カズマとコウタはラグナフェンでは、今は川の近くでキャンプしてるそうだ。そこでカズマの話は終わる。
カズマの話を頭の中で吟味してみる。序盤はともかくとして、終盤は嘘ないし言ってない事が多いだろう。けど、所在地は嘘じゃないだろう。嘘つくメリットがない。という事はもしかして僕が帰ってきたポイントのそばに居るのか? カズマは魔物を使役出来る。あのゴブリン共はカズマの手下の可能性もある。
「おいおい、考え込むのはいいが、お前はどんな感じなんだよ。俺だけ話すのは不公平だろ」
「色々情報が多くて頭が痛いよ。僕はあっちではかなりのピンチなんだ。たくさんの魔物に襲われそうな所なんだ」
そして、スキル抜きであっちでの僕の生活を話す。マリンの事は言わない方がよさそうなので伏せておいた。
「そっか、そりゃ大変だな。じゃ、そろそろ帰るわ。腹減ったからな」
カズマは一万円札をヒラヒラしながら帰っていく。相変わらず自由な奴だな。まあ、あっちでの僕はカズマにとってはどうでもいいと思ったんだろう。
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