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第十五話 行水


「ごちそうさま、ありがとう」


 僕は手を合わせる。単純だけど、暖かい飯、これだけで僕はライラに何でもしてあげたいような気持ちになる。一宿一飯の恩って言葉は大袈裟でもなんでもないな。


「どういたしまして」


 ライラは食器を集め、僕とマリンの手伝いをやんわりと断って、食器を濡れた布で拭いてしまう。そっか、水が限らレてるとこでは洗えないんだな。そして僕らは食事の余韻にひたってぐたーっと座ってる。天窓からは赤い光が差している。もうすく日が暮れるな。


「ねぇ、今日はこのまま寝るんでしょ?」


 マリンが口を開く。


「なんか色々あったから、水浴びしたいなー」


 マリンが僕をチラチラ見る。なんなんだ? 一緒に水浴びしたいのか?


「おいおい、そりゃ危険だろ」


 ウルルが不機嫌そうに言う。


「じゃ、ウルルは来なけりゃいいわよ」


「まってよ」


 ライラが口を挟んでくる。


「まだゴブリンがいるかもしれないんでしょ? あなた水浴びのために命かけるの?」


「ゴブリンはゴブリンでも残ってるのはゴブリンリーダーよ。かなり強いわ。けど、今日は戻ってこないわ。カズマが出てく時に街を攻める命令してたから」


 ガタンと椅子を蹴ってウルルが立ち上がる。


「おい、なんだそりゃ、その話、もっと聞かせろ。リーダーだって? それでその配下は何匹いるんだ?」


「50匹くらいよ。けど、それくらいじゃ街は落ちないでしょ?」


「おいおい、なんだそりゃ、なんでそんなにゴブリンがいるんだ? おかしいだろ」


「英雄の1人に魔物を召喚するスキルをもってる人がいたの。誰かは分からなかったけど」


 まじか。コウタも居たからもしかしてコウタのスキルか? なんか好き放題やってやがるな。僕を貶めただけじゃなく、たくさんの人に迷惑かけやがって。


「なんで、お前はそんなにのんびりしてるんだ?」


「のんびりはしてないわよ。けど、良く考えてよ。あたしたちが街に行ったとこで何も変わんないわ。無力よ」


「まあ、そうだな。メルキシュの街の騎士団がゴブリンに遅れを取る事は無いか」


 ウルルは椅子を戻して座る。


「その事は今は忘れて、それより水浴びよ。あたしは昨日から移動移動でベッタベタなの。それになんか男臭いし」


「不満があるなら、服、返してもらおうか?」


「冗談よ。お願いがあるんだけど、ウルルの服貸してくれない? さすがにタッキには服を洗って返したいから」


 まあ、サイズ的にはライラよりウルルの方がマリンに近いな。


「ああいいが」


「じゃ、決定ね。すぐ近くに川あるんでしょ。タッキ、守ってね」


 という事は、今から僕はマリンと一緒に水浴びするって事か? ゴブリンが居るのは危険かもしれないけど、女の子と水浴び。命をかける価値がある。まあ、大丈夫だろう。ガンの弾は6発はいける。それに夢だしね。





「振り返ったらコロス。念入りにコロスぞ」


 ウルルの脅しを背に僕は三角座りしている。ウルルが脱ぐ衣擦れの音がする。

 やっぱそんなうまい話が有るわけ無いか。みんなで裸でキャッキャウフフってワクワクして川に行ったら当然僕は荷物番。しかも見たらコロスと、ウルルさんがおっしゃっている。これって逆に見て良いっていう前フリなのか?

 けど、こういう時の定番は、女の子たちがキャッキャ水浴びしてるとこに、何らかの魔物が来て、「きゃー」 とか言ってるのを主人公が倒して、ラッキースケベをゲットするものだよな。これは僕の夢だから、多分そうなる。そうなるに違い無い!


「キャーーーーッ!」


 ライラの声がする。


 キターーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!


「どうしたっ。いいよね、振り返っていいよね!」


 ウルルにぶん殴られるのは嫌だから一応確認とってるが、既に振り返っている。


「あっ、あ、あ……」


 女の子たちどころじゃない。僕は文字通り言葉を失う。ジリジリとウルルが下がってくる。そして、低い声を出す。


「やられた。多分、認識阻害の魔法だ。全く気付かなかった。急に現れた。逃げろ。お前は小屋に逃げろ」


 10メートル無い川の向こう岸に数えられないくらいの数のゴブリン。奴らは暴れたり口を動かしたりしてるが、全く音がしない。その前に僕に背中を向けて川に入っている女の子2人。月明かりに白く照らされている。ゴブリンをかけ分けの一際デカい奴が出てきて川に入ると、頭を突っ込み水を飲み始める。それを皮切りにゴブリン共は川に入ってくる。辺りは水のせせらぎしか聞こえない。僕は目の前で何が起こってるのか理解出来ない。


「キャーーーーッ!」


 見えなかった、水飛沫が上がったと思ったら、デカいゴブリンがマリンの右手を吊り上げ持ち上げている。一糸纏わぬマリンは足を交差させて閉じて、左手で胸を覆っている。デカいゴブリンはマリンの顔を長い舌で舐める。どうする? 無理だ。何も思い浮かばない。逃げたい。けど、女の子たちを見捨てたくは無い……




 キーンコーンカーンコーン。


 レトロな鐘の音。学校のチャイムだ。


「起立、礼」


 なんだ? なんだ? 反射で立ち上がって頭を下げる。国語教師の中島がトボトボと教室から出て行く。


「中島の声って、催眠効果高すぎだよな。授業中みんな寝てたぞ」


 隣からカズマが話しかけてくる。あれ? ゴブリン? やっぱ夢だったんだな。


 読んでいただきありがとうございます。


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