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第十四話 汁


「うまいぞーーーーっ!」


 僕は口から金色の光を放ってるんじゃないとかと思われるほど、激しく叫ぶ。味は薄く、なんか草臭い汁だけど、暖かくて肉の味がする。

 スープはいい。身も心も温まる。久しぶりの暖かい食事に不覚にも僕は涙ぐむ。この感動を伝えたい。けど、今かかってる翻訳の魔法はポンコツだから、分かりやすい言葉を使わないと。


「美味しいよ。ライラ。ライラ、ライラの汁美味しいよ」


 僕は涙ぐんでるのを悟られ無いように、出来うる最高の笑顔をライラに向ける。


「なっ、ななっ……」


 ん、なんかライラが赤くなってる。僕のストレートな賛辞に照れてるのか?


「ライラ、ライラの汁、塩の加減もよくて、とっても美味しいよ」


「し、しおの加減……」 


 ライラが耳まであかくして、プイッと顔を背ける。え、何がしたか?


 ボクッ!


 いってー。誰かが僕の後頭部を殴りやがった。振り返るとウルル。


「何すんだよー」


「何すんだじゃねーだろ。やらしー事、バカスカ言うんじゃねーよ!」


「ん、なんかやらしい事いったか? 僕は汁が美味しいって言ってるだけだ」


 もしかして、彼女たちの文化では汁って言葉に違う意味でもあるのだろうか?


「だから、言うのをやめろって!」


 さらにウルルが放つビンタを避ける。やられるままだとは思うなよ。


「なにがやらしいんだ? ライラの汁の「汁」って言葉になんか違う意味でもあるのか? ウルル、教えてくれよ」


「なっ、それは、そのう……」


 ウルルも赤くなる。コイツがこういう態度を取るのは初めてだ。弱点見つけた。今までの恨みをはらすチャンス!


「なぁ、僕は決してウルルに不愉快な思いをさせたいって思ってる訳じゃないんだ。君たちの事を僕はもっと知りたいから、教えてくれないかなー。「汁」ってどういう意味なの? なんかの例えなのかなー? 教えてくれよー」


 僕は真顔でウルルに尋ねる。


「なっ、ななっ……」


 ウルルは真っ赤になってどもる。ライラとリアクションが一緒だ。仲良しさんなんだな。


「そんなの知るかっ!」


 ウルルが怒鳴る。


「汁かっ?」


「黙れ!」


「しーる。しるしるしるしる。教えてくれるまで言うよ。しーる、しるしるしる」


「あああああーっ!」


 ウルルが絶叫する。もしかしてやり過ぎたか?


「タッキ、ぶっ殺す!」


 ヤバい、ウルルが剣に手を伸ばす。


「ごめん、ごめん、ごめん、言い過ぎた。けど、悪意は無いんだ」


「はいはい、2人とも下らない事で争わないの。ウルル、さっきの話を忘れたの?」


 マリンが仲裁に入ってくれる。良かった。やっぱマリンは僕の味方だ。助けた甲斐があるってもんだ。これからも、僕を助けてくれるだろう。


「ウルル、多分、タッキは何も分からず言ってるだけよ。多分タッキは間違い無くDTだから」


「余計なお世話だっ!」


 確かにそうだけど、可愛い女の子に言われるとダメージでかいな。けど、僕はここにきて大事なことに思い当たる。おしっこであの勢いなら、勢い良く飛び出るアレはどんな威力なのだろうか? もしかしたら、僕は一生女の子とはイチャイチャ出来ない体になってしまったんじゃないだろうか? イった瞬間に女の子を爆散させたりしたらシャレにならない。もしかして、僕のこのスキルは呪いなのか?


『解、その通りです。スキルの制御が完璧になるまで、1人で致して下さい』


 キョロキョロと見渡してみる。誰も口を開いて無い。って事は久々の世界の言葉的なやつか? それにしても、この人、僕の心を抉るような事しか言いやがらないな。悪魔かなんかじゃないのか? けど、救いはあった。スキルの制御が完璧になったらって言ってたな。脱DTのためには、ウォーターガンのスキルを上げるしか無いのか。人知れず、ガンで魔物を狩るしかないか。


「タッキ、なにボーッとしてるのよ」


 マリンの言葉で我に帰る。


「タッキ、マリンに言われた事がショックなのかもしれないけど、暖かいうちにスープ食べてね」


 ライラが上目づかいに僕を見ている。やっぱ僕のエンジェルはライラだ。清楚っぽいのに、胸がデカいというのが、僕のドストライクだ。しかも料理が上手くて恥じらいがあって。


「ああ、いただくよ」


 僕はスープを口に運ぶ。短時間でどうやったのか分かんないけど、トロットロの肉が入っている。しかもその肉の味はしっかりしている。みんな先ほどの争いは忘れて、蕩けた顔でスープを口に運んでいる。


「ライラは料理が上手いんだ。なんか材料を入れる順番とか温度で、変わるらしいんだよ」


 ウルルが食べ上げて、小骨を口に加えている。それをガリガリ言って飲み込む。まじか? 野生児かよ。


「なに見てんだよ」


 ウルルが睨んでくる。まじ、残念だ。凶暴じゃなくて、もっとお淑やかだったらコイツも可愛いのに。勿体ないな。


「骨を食いたいのか? やらんぞ」


「いらんわ。それに食えんわ」


「お前は軟弱だなー」


 ウルルは席を立つと、僕の碗の中の骨を指で取り口に含む。


「ボリボリボリ」


 無いわー。


「人の器に直に指突っ込むなや」


「うるせーな。ぶん殴るぞ」


 なんか、奴にスープも奪われそうなんで、急いで飲み干す。


「まあまあ、落ち着いて食べて。まだおかわりあるから」


 僕らはライラにおかわりを貰う。みんなから骨を貰って食べてるウルルを見て、ここは異世界なんだなって実感する。




 読んでいただきありがとうございます。


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