第十三話 ガールズトーク
【ガールズトーク】
「翻訳の魔法は切ったわ。これでタッキには言葉は分からないはずよ」
マリンはウルルとライラを順番に眺める。タッキは冒険者って言ってたけど、冒険者にしては小綺麗だ。化粧はしてないけど、身なりに気をつけている。マリンは自分の可愛さは自覚してるけど、2人とも可愛い。特にライラは自分より魅力的に見える。
「私の名前はマリン。王国の英雄補助機関の者よ」
「英雄補助機関って、今話題のアレだよな」
ウルルは機関の事を知ってるらしい。隠されてる情報という訳ではないが、世情にアンテナを張って無い限り、まだ発足して間もない機関だから知らない者の方が多いはずだ。だが、英雄の名前がこれから世界を席巻するのはウルルの中では確定事項だ。
「そう、その英雄補助機関よ。1週間程前に、王城の宣託の間に30人の英雄が現れた話は知ってるかしら?」
ウルルとライラは首肯する。この事はまだあまり知れ渡ってない。マリンは2人を王族関係者か高位貴族に縁がある者と推測する。そうでなければ今の段階では知り得ない。
「英雄は神器による鑑定でスキルをもってる事が確認されたわ。けど、その言葉が我々が使ってるものとは一線を画していた。学院の者も関わって、その言葉はジパング語に似たものだって事が分かったわ」
マリンの言葉にウルルとライラはタッキを見る。能天気そうな笑顔をタッキは2人に向ける。
もしかして、タッキも英雄?
2人は同じような事を考える。再びマリンに目を向けると、マリンは首肯する。
「タッキの服はくたびれてはいるけど、英雄たちと同じ服よ」
ウルルとライラは顔を見合わせる。王都の英雄はチートと言われる規格外の力を持ってると言われている。ゴブリン三匹を倒した事。マリンの言では、彼女をゴブリンの元から救い出して来た事。ただの幸運だとウルルは断じていたが、その考えに影がさす。
「もしかして、そのアホ、強いのか?」
サーッとウルルの顔から血の気が引く。
「私はアレをタコ殴りしまくったぞ」
「えっ、マジ!?」
マリンの顔が歪む。
「マジだ。あのアホ、避難小屋の保存食を食い荒らしやがったんだ」
「あっちゃー。それはまずいわね」
マリンは額を押さえる。何やってるのよ。英雄をタコ殴りって。
「話を戻すけど、英雄たちには言葉が通じないから、急遽学院から翻訳の魔法を使える者を集めたわ。翻訳の魔法なんか使える者は一握りだから、その時王都にはあたしも含め5人しか居なかったんだけど、英雄を6人づつのグループ分けして1人づつ翻訳担当者がつく事になったわ。それであたしも6人の英雄を担当する事になったんだけど、そのスキルは凄まじいの一言だったわ」
ウルルがごくり唾を飲む。
「特に凄かったのはカズマという名の英雄。スキルの内容は詳しくは分からなかったけど、出会った魔物をことごとく従わせる能力を持ってたわ」
「なによそれ、そんな人が居たら、国のバランスが崩れるわ」
ライラが声を荒げる。魔物の軍、そんなものが作れるのなら、兵士というものの概念が変わる。
「おいっ、もしかしてここら辺にゴブリンがウヨウヨ居るのってそいつの能力のせいか?」
「そうよ。そのカズマが従わせてるわ」
「魔王、伝説の魔王なんじゃそれ」
ライラの顔からも血の気が失せていく。
「かもしれないわね。けど、そのカズマは森で不審死してるゴブリンを見つけて、どっかいってしまったわ。もう1人の英雄を連れて」
「えっ、じゃ、その魔物使いは近くに居ないのか?」
「王国を出るって言ってたわ」
「ん、それなら、なんでお前はゴブリンに捕まってたんだ?」
ウルルが尋ねる。
「カズマが翻訳能力がある何かを手に入れたらしくて、あたしはもう用済みになったからよ。そしてゴブリンの巣に捨てられたわ」
「え、なんでなの? 道具より、人間の方が便利じゃない?」
ライラが尋ねる。ライラは思う。魔法の道具は考えたりしないから、同じ能力だったらそれを使える人の方が優れている事が多い。
「あたし、カズマの不興を買ってたのよ」
マリンの悲しそうな態度に2人は聞かない方がいい事だと思う。
「ま、でも、助かったからいいじゃねーか? で、大丈夫だったのか?」
「服を破り取られたとこで、タッキに助けて貰ったわ。危なかったわ。あと十分遅れてたらと思ったらゾッとするわ」
ゴブリンは好んで人間の女に乱暴する。生き地獄を味わった事だろう。
「お前、タッキに助けてくれた貰ったんだろ。で、タッキのスキルってどんなものなのか?」
「あ、ウサギの頭には何かが貫通した傷があったわ」
ライラが口を挟む。
「倒されたゴブリンはお腹が破裂してたわ。多分、何かをぶつける能力。しかも強弱が自在って事ね。けど、タッキはそれを隠してるみたいなの。推測出来るのは4つ。一つは英雄たちに見つかりたくないから能力を隠している。もう一つは、人間に見られていたら発動出来ないスキルを持ってる。それか回数制限があるスキルか。そして、一番困るのが、回数制限があるスキルで、それをもう使ってしまって、能力はもう無い。多分、こんな感じじゃないかと思うわ」
「そうだな。私に殴られても大人しかったのは回数制限があるスキル持ちなのかもしれないな」
「それと、あたしを助けてくれたときに思ったんだけど、タッキってめっちゃ女性慣れしてないわ」
「それがどうしたんだ?」
「あたしも、あなた達も自慢じゃないけど可愛いわ」
「何処がだよ」
ウルルは自分の魅力を自覚してない。
「あっ、分かったわ」
ライラが口を挟んでくる。
「年頃の男の子に、年頃の女の子3人。女の子に優しくされたら、タッキは悪い人じゃ無さそうだから、ポロッとスキルの事を漏らすかもしれないわね。今日はもう遅いけど、ゴブリンの数が減ってるなら明日には町に向かえるわよね」
「そうそう。だから、タッキには優しくしてあげて、町まで護衛して貰うわ。最悪、タッキが強く無かったとしても、好感度上げとけば、盾になってくれると思うしね」
マリンはそう言うと微笑む。
「わかったー。じゃ、私は美味しいご飯、急いで作るわね」
ライラは調理するためにかまどに向かう。
「優しくか。善処する」
ウルルは腕を組んで渋面を作る。
「じゃ、あたしたちは一蓮托生って事で、頑張ってタッキを盛り上げるわよー」
そして、ご飯の準備を手伝いながら、3人はお互いの事を話し合った。いつの間にか、タッキは寝息を立てていた。
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