PS5買う前の話
前回からあれからしばらくの間、世界は静寂に包まれていた。
なぜなら世界は滅びの中にあったからである。説明出来ないほど色々あった。メンバーの全員が何かしら絶望、挫折、転落人生を経験し、それはもう文字に起こせないほどにひどい状況から、誰もが何かしら理由をつけて世界を灰にしたり砕きつくしたり、再生をしなかったり。
そんな状態だったために長い時間、世界は停滞していたのだ。
だが、とても共感性を欠き、他人を可哀想だとか悲しいだとかで想うことがないウザい美少女、西香だけは通常の世界を行き来していた。ご飯のときだけ真凛の作るものを食べに帰ってくるのだが、多くの時間をパラレル世界線の「滅ばなかった地球」で過ごしていた。
そんなワガママで過ごせたのも、西香嬢による周りへの日頃のだる絡みのおかげである。
そして今日、その真価がまた発揮されるのだった。
西香「でですね、すごいんですのよ、PS5。これがもうキレイでキレイで。あ、画面がですわよ。でもそれだけじゃ無いんですの。……聞いてます? 衣玖さん」
よりにもよって現在でも抽選販売が続いている上に渇望する衣玖が買えていないPS5を西香が手に入れてしまったのだ。
そこで一番欲しがっている衣玖に懇切丁寧にその性能を教えようとしている。
西香「コントローラーがね、振動するんですのよ、変な振動っ。こう、ジャリジャリ、みたいな。ぽにょんぽにょんみたいな。あれはなんなんでしょうね。音も出ますの、すごくリアルなんですのよ。こう、金属の上を歩いているときは手から金属感が伝わるというのか……聞いてます?」
衣玖「ゔぇー」
言葉にならないうめき声を上げる衣玖に、西香は続ける。
西香「あれはゲームを触ったことがある人なら一回は体験すべきですわよ。聞いてます? 衣玖さんはあれ触ったんですの? 水の中だとぽちゃぽちゃする感じが手から伝わるんですのよね~、聞いてます?」
衣玖「ゔぉあー」
西香「えっ、まさかとは思いますけど、ゲーム好きにも関わらず触ったこと無いんですの? 未だに触ってないなんて事ないと思いますけど。なんとかって言うんですのよ。そのシステム的なやつ」
衣玖「ハプティックフィードバックね……」
西香「そう! そのなんたらがすごいんですのよね~。で、衣玖さん触りました? 触ってない?? どっちですの?」
衣玖「ぅご…」
西香「あ、そうですわ! あのコントローラー、後ろの人差し指のところもすごいですわよね~、あのなんとかって……」
衣玖「アダプティブトリガーね……」
西香「それですわ! こう、押し込んだときの反応がぐぐっと変わるんですのよね~。あれだけで面白いですもの、あれを触ったことがない人はわたくし可哀想で可哀想で……衣玖さん触りました?」
衣玖「ぼ…」
そんなやり取りを聞いていた留音も話に混ざってきた。
留音「ロードもめちゃくちゃ早いんだってなー。あんなグラフィック綺麗なのに」
西香「そうなんですのよ~、ロード時間がほんの2,3秒で終わるなんて。ゲームはこういう進化をするんですのね……わたくし、久しぶりに感動しました」
衣玖「12チャンネル対応でシーケンシャルアクセス速度がPS4HDDの比較で理論値100倍以上を実現したカスタムSSDだからね……」
西香「わたくしあんまりゲームしてきませんでしたけど、これは本当にすごいと思いますわ。衣玖さんは触りました?」
衣玖「……触ってない……」
西香「わああああ可哀想ですわ!!! ゲームが好きなのに触ったこと無いなんて! PS5発売前からずっと欲しがってたのに未だに! 未だに触れないなんて可哀想すぎますわ!」
留音「やめたれよもう……衣玖本当にくじ運なくて買えないんだから……」
衣玖「……うわああああああああああああああああああああああ」
だがこれから数日後、衣玖のためにと自身も抽選に参加していたあの子がまさかの購入権を当選、衣玖は無事にPS5を手に入れたようだ。




