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2020年7月8日 七転び八起きの日

2020年7月8日


 お昼を過ぎた時間。イリスが一人で歩いていると、公園で大柄な男の子が小柄な男の子を投げ飛ばしているのが見えた。どうやらいじめっ子が弱そうな子を投げ飛ばして遊んでいる、というような光景らしい。


 いじめっ子は小さい子が涙を流したのを見て満足したのだろう、ガッハッハと取り巻きと一緒にどこかへ去っていく。イリスはそれを遠くから見ていた。着ている学校の制服のカラーが同じことを見ると、背丈は違うが同じ学年なのだろう。


 だがイリスは特に声をかけたりしなかった。小さい子は涙を拭うと強い足取りでどこかに行ってしまったし、声をかけるほど緊急でもなさそうだったからだ。


 それから数日後、何度か同じような事があった。やっているのはまた同じ子達だ。ただ、小さい子は投げ飛ばされないように組み付いて、その日はなんとか踏ん張っている。


 とはいえ体格差から負けるのは当然だし、大柄な子は少し苦労しながらもやはり投げ飛ばしてしまう。倒れた小さな子に、苦戦させられた分なのか砂を蹴って仕返ししたりして、また満足そうに帰っていった。


 小さな子は口に砂が入ったのだろう、ぺっぺとツバを吐いて口の中のジャリジャリした感覚をなんとか拭おうとしている。


 砂まみれになった男の子を見かねて、流石にイリスも声をかけた。


イリス「平気?」


 イリスは自分の体の後ろに組んだ手の指を振ると、男の子の体の砂がパラパラと風に舞って離れていく。


「平気です」


 男の子は声変わりがしかかっているくらいの小生意気な声でツンと言う。目線をイリスに向けなかったのは、涙で潤んでいる顔を見られたくなかったからだろう。


イリス「勝てないわね」


「……」


 実は男の子もなんとなくイリスを視界に何度か入れていた。キレイな金髪のツインテールは目に付きやすいのだろう。


 男の子は立ち上がると、無言で走って去っていった。イリスはフフンと軽く笑ってその背中を見送る。


 また別の日。男の子は大柄な子を怒らせていた。「お前いいかげんにしろよ!」と怒声がイリスの耳に入ってくる。どうやら大柄な子も余裕がなくなってきているようだ。


 でも結局負けていた。一人になった小柄な子の元に近づいていくイリス。


イリス「随分頑張るわね」


「止めんなよな……っ」


 男の子はグスッと鼻を鳴らしながら、今日はイリスと話すつもりがあるのか、疲れたように座ってそう言った。


イリス「止めないわよ。あんた悪い子じゃなさそうだし」


「……どうやったら勝てんだ……こんなにやってんのに……やっぱ俺じゃ勝てないのかな……」


イリス「そんな事ないわよ。いい線行ってたし」


「ホント?」


イリス「あんたがなんで戦ってるかわからないけど、でも自分より強い相手に向かっていくのは良いと思うわよ」


「でもやっぱ勝てねぇしっ……何度やったって俺じゃあいつには勝てないんだ……」


イリス「ふーん。まぁそう思ってるんじゃそうかもね」


「だって……」


イリス「本当に勝ちたいならいつか勝てると思って続けなさいよ。もったいないでしょ」


「知ったように言ってさ!」


イリス「わからなくはないわよ、あたしも負け続きだし。でも挑むことはやめてない」


「負け続き……?」


イリス「そ。七転八起という言葉が日本にはあるの。知ってる?」


「聞いたことはあるよ、よく知らないけど」


イリス「何度転んでも立ち上がる意味の言葉よ。いい、失敗は諦めた時に初めて発生するのよ。大きな壁の前では七回でも七十回でも転ぶでしょう。でもそれを失敗にするのはいつでも自分なのよ。だから何度でも転んで、また立ち上がればいい。いつか何かが変わって、失敗じゃなかったと言える日が来るまでね」


「それはいつ来るんだよぉ……」


イリス「そんなのわかる人いないわよ。でもあたしも諦めない。あんたも勝ちたいなら頑張りなさい」


「……そんなこと言ったって」


イリス「おっと、丁度いいところにあたしの宿敵が来た。見てなさい、これがあたしの生き様よ」


 公園に留音(るね)が入ってきて、早足で突っ切っていくのが見えた。イリスは駆け寄りながらいつものように。


イリス「おらー! 覚悟しろ留音(るね)ー!」


 魔法弾の準備をしながらのイリスに、留音(るね)はとんでもない速さで近づき、そのまま掌底でホームラン。


留音(るね)「しつけぇぞ!! おらー!!! ……あっ!? イリス!? ごめーーーん!!」


イリス「あーーーーれーーーーー!!!」


 くるくる回りながら遠くに飛ばされて星になるイリスの敗北を見ながら少年はつぶやく。


「……諦めなきゃ負けじゃない、か……」


 いつか良いことあるかもしれないし、ないかもしれない。そういうものだ。


――――――――――


 怒ってた留音(るね)の話。今日は暑くて、若干体のラインが出る軽装で街を歩いていた留音(るね)に男たちは視線を注いでいたのだが、その中で一人、無謀でチャラい男が留音(るね)に話かけていた。


チャラ「ぇぃおにぇせぁーん! ちょいちょいちょいッ、ぼくとお茶しぬぁ―い?」


留音(るね)「……あ?」


チャラ「今日がなんの日知ってるぅ~? チーのチャイで中国茶の日なんだよおにぇせぁーん! すぐそこに美味しいお店あるんだょぉ~っ、飲もっ、ねっ、一緒に!」


留音(るね)「お前何言ってんの? ちゃんと喋れ?」


チャラ「ぅゎっつれな~~~いっ、でもおにぇせぁん! ちょっ~~きゃわいいから(指パチ)一緒にお茶したぁぁ~んいっ」


留音(るね)「知らねぇあっち行け。シッシッ」


チャラ「いいじゃぁーん! おにぇせぁーん!」


留音(るね)「うるせぇっ! しつけぇ!(アッパーカット)」


チャラ「あーーーーれーーーー!!


 この状況を「7月8日」、「中国茶の日」、「ナイスバディの日」、「ナンパの日」の単語を使って説明しましょう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 見守って生き様を見せるイリスちゃんがいいです。 今回は留音ちゃんのパンチ二連発でしたね。
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