2020年6月28日 ハピカジの日
2020年6月28日
真凛「もう何もやる気が出ません……」
真凛が珍しくソファに転がって腕を放り出し、背もたれに片足を乗せてだらけきっていた。
真凛「あ~~~……もうダメです……何もかも終わり……意欲の一つも湧いてこない……世界崩壊待ったなし……」
留音「どうしたんだ真凛は」
ありえないほどにだらしない真凛の様子に留音は小声で、近くの西香と衣玖に尋ねた。
西香「何がですの?」
留音「何がって、いつもと全然違うじゃんか」
西香「はぁ……えっ? あぁ……ちょっと静かでしょうか……?」
多分……と西香。他人の疲れや気持ちなどに全く興味がないのである。
留音「お前は普段一体何を見て生きてるの?」
衣玖「……気力ゼロ状態ね。料理もしないし、好きな掃除だってしていない。何に対してもやる気が持てないって感じ」
留音「まぁ毎日やってきたことだしな……レパートリー切れやらマンネリやら、色々あるだろうし……」
西香「やる気なしって……じゃあわたくしのご飯はどうなるんですの?」
衣玖「仕方がない……たまには私達が手伝いましょう。今日はハッピーな家事労働の記念日。思想がやや古めで既に無くなった記念日だけど、私達が代わりに家事をやることで真凛がハッピーになれるならそれはそれでいいでしょう」
西香「それでわたくしのご飯は?」
留音「どうするか。晩ごはん、あたし担当しようか? 卵かけご飯くらいなら任せてもらっていいぞ」
西香「わたくし外食してきます、さようなら」
西香はとっとと家から出ていってしまった。
衣玖「うーん、それよりもハッピーな食べ物を作りましょう。やっぱり甘いものよね。そろそろおやつタイムだし。それに今日はパフェの日とくれば、フルーツパフェでも作って真凛に食べてもらいましょう」
留音「おぉっ、美少女っぽい。それで行こう、パフェなんて初めて作るぞ!」
衣玖「私もよ。それじゃあまずは材料を買いに行かないとね。ちなみにレシピや作り方は既に知っているわ。パフェはかなり自由度が高い、私向けの料理よ」
留音「そいつは心強いなー!」
そう言って買い出しに出ていった二人をソファに横たわる真凛は止めなかった。止める気力もない。やる気なし。
しばらくすると二人が帰り、ソファで昼寝をする真凛を起こさないようにパフェを作り始めた。
何かの果物を切っている音なのだろうが、響く音は妙に物騒である。包丁を天空から振り下ろすようなガシュガシュという音、まさか果物を握りつぶしているのか、ぶっちゃあという破裂音。その他様々な料理らしからぬ音をさせるので、真凛もうっすら目を覚まして聞いている。
すると小声でこんな会話が聞こえてくる。
留音「パフェってのはこういうもんじゃないのか……?」
衣玖「違うわよ! パフェっていうのはアイスを乗せたり乗せなかったり、クリームを乗せたり乗せなかったり……」
留音「だからってこれは……」
ボソボソ。なにやら不安を覚える声音ではあったのだが、今のやる気を失った真凛にはどうでもいいというものだ。
真凛はソファの上にあるクッションに顔をうずめ、気だるそうに足を放り出している。
そこにようやく衣玖と留音が色々と皿を持ち出し、真凛のクッションをどけて「じゃじゃーん!」と机の上に置いたものを見せた。
真凛「……なんですかこれ」
衣玖「もちろんパフェよ!」
留音「あたしは認めない」
真凛が目にしたのはりんごのピューレに見える握りつぶされたりんご、切られたメロンやバナナ、それからプリンにアイスクリーム、ケーキ用スポンジに適当に塗りたくられたクリームとチョコレートソース……パフェにしたらなんとなく良さそうな甘いものたちが、それぞれの別の更に盛り付けられていた。
真凛「ケーキらしきものと、プリンと、アイスと、フルーツの盛り合わせですよね……?」
留音「そうだよなぁ?!」
衣玖「違うわ。これらは全て一つ一つパフェよ。私はちゃんとパフェの作り方を勉強した上でこれを作ったの」
留音「お前パフェ食べたことある……?」
衣玖「あるわよ。でもね、パフェっていうものは自由なスイーツの一つ」
真凛「どうしてこうなったんですかぁ……?」
衣玖「いい? パフェというのはフルーツを盛り付けたり盛り付けなかったり、アイスやケーキみたいなのを入れたり入れなかったりする。それでも出来上がったものはなんとなくパフェになるの。ということはつまり盛り付けは自由でパフェと言ったものがパフェになるという事。これはパフェ」
真凛「うーん……冒涜気味です……」
留音「単品のものはただの単品だろ……」
衣玖「じゃあはい」
衣玖はアイスの上にバナナの切ったものを乗っけて真凛に差し出した。どうだパフェだという表情だ。
真凛「そういうのじゃなくて……もっと長細い……コップでいいや……こういうのにですねぇ……」
真凛は渋々、まずはケーキっぽいスポンジをしきつめ、次にプリン、それから上にアイスを乗せて、更にその周りには別添えのクリーム。そこに切られたフルーツを乗せる。
留音「そう! これがパフェだよ! パーフェクトにパフェ!」
衣玖「確かにそうね。さすが真凛だわ、美味しそう。みんなで食べましょう」
真凛「んもぉー……仕方ないなぁ……」
ほんの少しだけ意欲が回復した真凛。衣玖もどこか満足そうだ。
何かの意欲が低下したり、停滞したりする時というのは不幸があったときだそうだ。そんな時には褒めてあげたり認めてあげたりすると意欲を取り戻せるらしい。
衣玖は涼しそうにしながら、出来上がったパフェをニコニコとスプーンに乗せて食べる真凛を横目に、自分も幸せの味に舌鼓をうつのだった。




