2020年5月19日 ボクシングの日
2020年5月19日
留音「じゃあ今日が本当の、あたしの想像するボクシングの日なんだな?」
衣玖「そういうこと。前にあった日とは違ってちゃんとスポーツのボクシングの日」
腕にテーピングをしながら留音はうなずく。以前にもあった「ボクシング・デー」、あの時、留音はボクシングの日だと勘違いして数ある猛者をなぎ倒していった。だが実際には箱を開けるデーだと、ようやく知ったのである。
留音「で、今日は普通にボクシングをすればいいんだな……」
衣玖「まぁ若干のネタ被りになるけど……チャンピオンとして頑張ってね」
留音「……言ってほしかったなぁ、そのときに……完全にスポーツの方だって思ってたし……恥ず」
衣玖「でもすごく楽しそうだったから……ほら、今日は思う存分暴れてきなさい」
留音はグローブを付け、観客の集まるリングに向かう。
チャンピオン・留音。格闘界のトップに君臨する彼女に、今日はボクシングで挑戦する者がいた。
挑戦者、イリス。留音と正々堂々戦えると知り、今日に備えてボクシングを練習してきたのだ。
イリス「ふっ、留音……あたしの特訓の成果を見るが良いわ!」
イリスはシャドーボクシングをかましながら留音の前に立つ。試合開始のゴングが鳴ると、イリスはしっかり留音の拳を見据えながら留音に迫り、渾身の一撃を放った。留音はそれをちょんとブロックしてカウンター気味に繰り出したストレートでイリスをふっ飛ばしてリングアウト。
留音「あ、ごめん、なんだかんだでテンション上がってたのかも……」
イリス「きゅう……」
この日のために特訓したイリスを数秒でノックアウトした留音。留音の勝利は当然である。だが今日の試合はここで終わりではない。
次の挑戦者は聖美。ボクシングらしくない構えで静かに留音の前に立った。
留音「(なんだ……? 聖美のやつ、気配が妙に静かだ……)」
第二戦開始。ゴングと共に、聖美の気配が狼のように変化し、素早く留音に迫った。一瞬の危機感に、留音は少しの焦りからジャブを繰り出す。しかしそれを避けられ、聖美はゆらりと留音の懐に入り込んだのである。
留音「何っ!?」
大きな隙に潜り込まれた留音。カバーするために即座に距離を取る。
留音「なんだ、聖美のやつ……いつもと全然動きが違う……」
聖美「むふ、むふふふ……」
再び攻め入る留音だが、鋭いパンチをぬるりと躱す聖美。そして留音の腕から伸びたストレートの合間に入り込むと、そのまま留音の胸部にジャブを打ち込んだのだ。威力はまったくなかったが、差し込まれたという感覚は留音の精神に確実にダメージを与えた。
留音「くっ、まさか聖美にこんなポテンシャルがあったとは……!」
聖美「(グローブが……邪魔!!)」
仕切り直し、再び距離をとった留音。今度は聖美から攻める。
留音「(どう来る!?)」
留音は聖美の拳をしっかりと視界に捉えブロッキングの構えを取る。だが聖美は通常とは異なる軌道で腕を動かした。それはまるで蛇のように留音に向かう。
聖美「むぎゅうう!!!」
絡みつく聖美の腕。留音は上半身をガッチリとホールドされた。
審判「反則!」
聖美「えぇ!?」
留音「(捉えられなかった……このあたしが……)」
審判によって引き剥がされた聖美。一度中断された試合が再開する。
すると聖美はまたも留音のパンチをくぐり抜け、再び留音の上半身に組み付いた。
審判「反則! ホールド行為は反則です!」
聖美「もういいの! わかってるの!」
留音「(一体何だ! こいつの動きが予測できない!)」
聖美はそうして、退場となるまで留音の攻撃を躱して留音の腕だとか腰だとかに組付き、クラッチして留音の動きを何度も封じたのである。
だが当然、ルール違反により聖美は敗北。しかし留音は精神にダメージを追った。まさか一般人だと思っていた聖美にこれほどまでに懐に入られるとは。ただ抱きつかれた程度だったから良い。しかしこれで本当に聖美にボクシングをする気があったのなら、何発か良いのをもらっていたかもしれない。
両者傷こそなかったが、聖美は鼻血を流した程度。留音は試合に勝って勝負に負けたという気分で、トレーニングプランの強度を高めることに決めたのだった。




