2020年5月18日 メン・イン・ブラックの日
2020年5月18日
美少女インブラック。それは未確認美少女の地球への影響を管理する秘密組織である。
あまりにも世間に信じがたい美少女というのは、よくも悪くも社会に影響を与える。未確認の美少女を回収したり、登録して行動を見守るというのがこの美少女インブラックの仕事なのだ。
エージェントK。彼女はこの組織の一番の腕利き。そして最近新しく入隊したのがエージェントA。どちらも一癖も二癖もある対未確認美少女のエキスパートである。
K「訓練終了、おめでとうアンジ……Aちゃん。これでチームになれたね」
A「ありがとう聖……あ、コードネームで呼ばないとね、K先輩っ。まさか世界の裏にこんなチームがあったなんて思わなかったよ」
美少女の力はあまりにも強大で世間への影響が大きすぎる。これによって世界が大きな混沌へ進まないようにするというのは、政治以上に大きな役割を持つことだった。
A「それにしても……ずっと一緒に遊んでいたK先輩が世界の裏でこんなにすごい仕事についていたなんて知らなかったよ……」
Aはファイルに入った資料を見る。たとえば目に止まった一つ、歩きスマホ帝国の瓦解について。
これはかつて一度ネットで話題にもなっている。歩きスマホが問題視された頃に突然姿を表した勢力の一つで、ここの所属だと思われる少女が歩きスマホをしながら素手でトラックを止める、分身して人混みを回避するなどした謎の映像がネットで出回っていたのだ。
これらは全て多くの人にはデマだと思われていた。ただのフェイクムービーであると。
しかしそうではなかったのだ。
K「うん。結構昔の話だね。私がまだ新人だった頃……大きな事件だったな。衣玖星人ちゃんだね」
A「衣玖星人……資料には超技術を持った宇宙人だって書いてあったね」
K「そう、地球の文化が好きだったから友好的美少女の枠ではあったんだけど、とにかく地球の歩きスマホについて革新を与えようとして……地球が持たざる技術を人々に授けてたんだ。それで私が出てったの」
A「今ではすっかり歩きスマホを技術化した帝国なんて影もないもんね……ねぇ、ここ、衣玖星人の総統と握手してるの、K先輩だよね……?」
Aは資料にある写真を指差して尋ねている。それをちらっと見たKは苦笑いだ。
K「あはは、恥ずかしいよ」
A「ボクにこんなの出来るかな……K先輩の相棒には役者不足なんじゃないかなって」
K「ううん、Aちゃんの美少女対抗力は一般の人の数倍をマークしてた。大丈夫、自信持って! それにこれほど大きな事件はそうそう起きないよ……あっ」
そこにちょうど鳴り響くアラート。どこかに美少女が出現したようだ。
A「うっ、初出動だ……っ!」
K「大丈夫、一緒にやってこ」
二人は特別な自動運転の車に乗り込み、現場へ急行する。そこでは西香星人が無闇矢鱈に友達を作ろうとしていた。たくさんの通行人、それも年代が同じくらいの女性に声をかけては無茶な要求をする。単に美少女が友達を作ろうとしているのなら被害ランクはおよそEやFとなるのだが、この西香星人の場合はわけが違う。
通常の思考では考えつかないようなことを言い出し、相手を大いに困惑させ恐怖を感じさせるのだ。まだ相手が女性のみということで被害は抑えられている。何故なら男性に同じことをした場合、西香星人の可愛さにときめき、しかし恋愛感情を感じてもATMどころかロボット以下の扱いをされるだけという悲惨さに心折れる紳士が大量に生まれてしまう。
だからこの被害ランクはおよそC~B-ランク、可及的速やかに対処する程度のレベルであった。
現場に到着し、Aはすぐにサーチアナライザーを起動した。これで美少女数値を調べ、未確認美少女の居場所を半径数キロの中から割り出すことが出来る。
しかし組織一番のエースは伊達ではない。匂いなど、ほぼ五感のみの感覚で美少女を見つけ出すことが出来るのだ。これもエージェントKがエースである所以だった。
西香星人「……だからこれにサインをするというのは非常に価値があることなんですの。おわかりですか、わたくしはあなたに声をかけたんです。その意味が」
K「はーいそこの西香星人ちゃん、ストーップ」
すぐに対象の未確認美少女を見つけ出したK。
西香星人「なん……げげ! エージェント!!」
西香星人は嫌な相手に見つかったと逃げ腰になっている。エージェントの二人は近づいていきながらKがAにアドバイスをした。「いい? 宇宙人さんには必勝法があるの。これを使うと大体の美少女は言うことを聞いてくれる。厄介度の特別高い西香星人ちゃんもね」
Kは西香星人に近づき、Aに背中で教えるかのように西香星人を御すること始めた。
K「西香星人ちゃん、言ったでしょー? 友だちになりたいなら私がいるって~。むやみに一般の人のところにいっちゃだめだよぉ」
西香星人「ぬぬぬ……だって、あなたはわたくしのお友達誓約書にサインしないじゃありませんか……」
K「するよぉ。するって言ったでしょぉ」
西香星人「い、いいましたけど、でも勝手に条項を追記しようと……それが嫌なんですの!」
K「えー。一つだけなのに。なんでだめなの~?」
西香星人「そりゃそうですわよ! なんですか『一日一回は私のお願いも聞くこと』って!」
K「でも、西香星人ちゃんのお願いもたくさん聞くよ? その中で一回だけ、例えば一緒にお布団に入ろうとか、一緒にお風呂で体洗いっこしようとか、してほしいのはそれだけなのにぃ」
西香星人「おぉぞぉましいぃ!」
そういって西香星人はどこぞへと姿を消してしまった。エージェントAは特別なフラッシュ装置を使って目撃者の記憶を消していく。ここには西香星人によるショッキングな勧友行為によるPTSD症状の治療の意味も込められている。
A「すごいね、K先輩……資料で西香星人さんはとっても対処に困るってあったのに、こんな短時間で片付けてしまうなんて……発見にサーチアナライザーも使わないし……」
K「うん。美少女は匂いが違うんだ、それでわかるの。対処法もごくごく簡単な心得……それは相手を超えることだけ……たった一つ、どこかで相手を上回ればいいの。私はね、相手の未確認美少女に対して常に下心を持って接してるんだ。そうすると相手は怖気づいて言うことを聞いてくれる。Aちゃん、Aちゃんもなにか自分の武器を見つけてね」
A「え、あ、うん……下心かぁ……」
美少女インブラックは今日も美少女による被害をどこかで食い止めているのだ。




