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毛玉幻獣グリ子さん  作者: ふーろう/風楼
第三章

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梅の力?



「……つまり俺の魔力から梅の香りがすると?」


「えっと、はい、香りと言って良いのかは分からないですけど、そんな感じです。

 鼻で匂いを感じる訳じゃなくて、魔力を感知すると途端に梅の香りが漂ってくるっていうか……そんな感じです」


 出会い頭に妙な顔をされた理由をハクトが尋ねると、ユウカはそんな答えを返してきた。


 鼻でその香りを感じるのではなく、魔力で魔力を感じ取ると脳に直接匂いが漂ってくるようなそんな感覚になるようだ。


 ハクトが特にその香りが強く、グリ子さんが次に、フォスからは僅かにしか漂っていないとか。


「……飛梅の化身? がやってきたことにも驚かされたが、それで与えられたものが魔力の香りとはなぁ。

 ……どう受け止めたら良いのやら、何か他の力もあるのかもしれないが……」


 と、ハクトがそう言うとユウカはどういうこと? という顔をしてきて、ハクトは昨日あったことをユウカに説明をする。


 するとユウカは、


「えっと、とりあえずその辺りの確認しませんか?

 魔力を使ってみたり、先輩の糸を展開してみたりして、変化がないかーとか。

 話聞いてみた感じ、悪い影響はなさそうですけど、良い影響だとしても効果不明のままじゃいつ何が起きるか分かりませんし……やるだけやっておきましょう」


 と、そう返してきて、ハクト達はそれもそうかと納得して、確認のための場を確保してもらえるよう、役所に電話をする。


 すると課長さんが対応してくれて、運動場の確保が完了し、それを受けてハクト達は役所へと移動する。


 移動したならそれぞれジャージに着替えて、運動場に移動し……まずはそれぞれ瞑想を始めて魔力を練り上げていく。


「……ほ、本当に梅の香りが」


 と、作業服姿の課長。


「うぅん、しっかり練り込むと香りが強くなりますねぇ」


 と、ジャージ姿のユウカとその腕の中で居眠りをするフェー。


「せんぱーい! その香りって消そうと思ったら消せるもんですかー?

 魔力練ったら香っちゃうって、奇襲とか出来なくなっちゃうと思うんですけどー!」


 と、更にユウカが言葉を続けると、屋外運動場の中央に立って瞑想していたハクトの魔力がゆらぎ、その香りが一段と強くなったかと思った次の瞬間にすっと香りが消える。


「お、おお! 先輩いけてますよ! コントロール出来てます!

 ……改めてこの香り何なんですかね!?」


 今更であり身も蓋もない疑問をぶつけてくるユウカにハクトは何も返さず瞑想を続ける。


 そんな中、グリ子さんが、


「クッキュン!」


 と、声を上げフォスがそれに「プッキュン!」と続く。


 するとハクトの側で瞑想していたグリ子さんとフォスから漂っていた梅の香りが綺麗に消え去る。


 じんわりとしたハクトの消え方とはまた違う、一瞬ですっきりとしたその消え方はグリ子さん達が完璧にコントロールしていることを証明していて、ハクトはグリ子さんの言葉に従おうと決める。


「クッキュン、キュン、キュキュン、クッキュン!!

 クキュ~ンキュン!!」


 グリ子さんなりの指導を受けてハクトがその通りにしていると、ハクトの魔力に明確な変化がある。


「あれ!?」


「んえ!?」


 ユウカがまず声を上げて、手元の計器の乱れを受けて課長も声を上げる。


 その計器は運動場を破壊から防ぐためのもので、異常な魔力を感知した際に針が激しく動くものだった。


 それが動いたなら直ちに注意を発し、それ以上の魔力の練り上げを注視させるためのもので、すぐさま声を上げようとする課長だったが、特に破壊などは起きておらず、ハクトもグリ子さん達もそういった魔力の使い方はしていない。


 ただただ練り上げているだけ。


 ハクトの体内で異様な魔力の膨れ上がりが起きていて、ハクト達もそれには気付いているようだが、いまいち自覚は薄いらしく驚いたような様子はない。


「え、あれ、えっと、なんか凄くないですか?」


「……凄いですね、計器の針が振り切れていますから……。

 こんなの初めてのことで、世界を見てもないことなんじゃないですかね……。

 えぇっと、これでも自分、魔力を見る目だけはそこそこという自負があるのですが、どうやら幻獣さんの魔力が矢縫さんに流れ込んでいるように見えていますね……」


 ユウカの声に課長がそう返してきて、ユウカはどうにか自分も見てやろうと目を細めながら言葉を返す。


「えぇっとつまり、グリ子さんの魔力が先輩に合流しているんですか? だから大きくなってる?

 ってことは合流が梅の力? 先輩から聞いた感じだとそういうのとはまた違いそうな感じでしたけど……」


「んー……飛梅ですか、その使い。

 学問の神を追う梅の使い……そうすると学問の加護なんかがありそうなものですが、実際には梅の香りで、今は魔力の合流が起きていると。

 しかし飛梅の使いは学問に関するようなことを言っていたのですよね。

 ……そうなると……あぁ、なるほど、教えの際に魔力を分け与えられると、そういう加護なのかもしれませんね。

 今は幻獣さんが矢縫さんに教えていたので、ああいう形になったのでしょう」


「教える……なるほどぉ、教える時に魔力を貸してあげて、より強い力を出させてあげる?

 それか教え子をそうやって守る力ですかね?

 まぁ、たしかに凄い力を貸してもらって実際に使ってみれば、覚えるのも早いのかも?

 ……教え子が暴走しないよう気をつける必要はありそうですねぇ」


「恐らくですが、そういった心配はいらないでしょう。

 教え子が教え子から逸脱した瞬間に、加護の力は消えるはずです。

 神々の加護とはそういうものですから」


 と、課長にそう言われてユウカは少しだけ疑問に思いながらも、ハクトに向けて大声を張り上げる。


「先輩! 今湧き出てる魔力をこっちにぶつけてみてください!

 特に意味もなく、練習とかお試しとか全然関係なく、ただただ私にぶつけてください!


 それなら自分で試してみよう、ユウカのシンプルな思考で導き出されたその答えに、ハクトは首を傾げながらも素直に従うという答えを返す。


 右手に魔力を溜め込んで、それでもって糸を編み込んで塊とし、ユウカにぶつけようと放つ……が、その瞬間、溜め込んだ魔力が雲散霧消し、魔力で操っていた糸がぱさりと地面に落ちる。


「んん?」


 と、声を上げたハクトが改めて自分の魔力でもって糸を操作しようとするとしっかり操作出来て……どうやら課長の仮説は正解だったようだ。


 そしてその確認が出来たことでユウカは興味津々といった顔になり、これは面白いことになってきたとハクトの下へと駆け寄って、加護の力をあれこれと試してみるのだった。



お読みいただきありがとうございました。

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