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毛玉幻獣グリ子さん  作者: ふーろう/風楼
第三章

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 色々とあった日から数日後、祝日ということで仕事が休みとなって、ハクトとグリ子さんとフォスは、何をする訳でもなくゆったりとした時間を過ごしていた。


「キュン」


 いつものベッドに転がってそんな声を上げるグリ子さん。


「んん? 才能ある子がアレで将来大丈夫か?

 ……どうだろうねぇ……アレで上限は少しまずい気もするけどねぇ」


「クッキュン」


「……俺が誰かを教える? 弟子かな?

 うーん、そういう柄でも立場でもないしなぁ、サクラ先生程の覚悟もなく他人の子を預かって失敗しましたっていうのは、無責任にも程があるからね、迂闊にやろうとは言えないかな」


「キュ~~ン」


「うーん……まぁ、力を持つ者の義務っていうのはわかるけどねぇ、俺はそこまでの力はないしなぁ。

 グリ子さんは……そうか、クイーンだったからそういう立場だったのか。

 いっそグリ子さんが育てたら良かったのかもねぇ、大僧正が育てて良いなら、グリ子さんもまぁ、良いんだろうし」


「キュン!」


 任せて、ってそう言ってゴロゴロ転がるグリ子さん、それを真似してフォスもゴロゴロと転がって……やる気満々、実際やれば上手く育てはするのだろうなぁと、頷くハクト。


 と、その時だった。


 凄まじい力を感じてハクトとグリ子さんは同時に飛び上がる。


 ハクトはソファから、グリ子さんはベッドから。


 そして力の気配が庭から来ていることに気付くと、庭に面した窓へと慌てて駆け寄って、外にいるその気配の主の姿を探す。


 ……と、そこにいたのは一人の女性だった。


 白無垢のような神職の服のような、巫女服のようにも思える服を来て静かに立っている梅色の髪の女性。


 長く真っ直ぐなその髪は足元にまで伸びていて……風に柔らかく揺れている。


 梅の花の髪飾り、丸く短く整えた眉、鋭くつり上がった目。


 そして放つ力は魔力とはまた違う、特別なもので……慌ててハクトは窓を開けて庭に出て、その前に跪く。


 グリ子さんもそれに続く、跪いてはいないがハクトに並んで頭を下げる。


 すると事情を理解していないながらもフォスもそれに続いて……それを受けて女性は静かに微笑み、頷き……それから凛と響く声を上げる。


『面を上げよ』


 そう言われてハクト達が顔を上げると女性は、仕草で立ち上がるように促してきて、それから口を開く。


『この島を守るために幾度功績を上げただけでなく若人を導こうとするその意気は良し。

 しかし実力伴わず未熟であり、修練が足りぬ。

 よってこの梅が教えを下賜してやろう、受け取るように』


 と、そう言って女性が手を振ると次の瞬間、ハクト達の目の前それぞれに桃色の和紙が現れてその上に梅の実と思われる果物がポンと乗る。


 ただしそれは色が梅の実ではなかった。色は梅の花の色で、しかし形は梅そのもので、すんっと鼻を鳴らして感じるのは梅の香り。


 ただしこの場合、その実から漂ってきているのか女性から漂ってきているのかは何とも言えない。

 

 あるいはどちらからも漂っているのか……そしてこの実をどうしろと言うのか、ハクト達が迷っていると女性はにこりと微笑み、そして飛び上がるようにしてどこかへと去ってしまう。


 あっという間の出来事でハクト達に何かを言ったり行動したりすることは出来なかった。


 ただ和紙の上に置かれた果物だけがその場に残されて……とりあえずハクトは3人分の三つの実を丁寧に拾い上げて、家の中へと運び込む。


 グリ子さん達はその間にベッドに戻り……そして窓を締めたハクトは、グリ子さんの前、フォスの前、それぞれに和紙と実を置いてから、テーブルの椅子に腰掛け、自分の前にも和紙と実を置く。


 そしてそれをじぃっと見て……この実が何なのか、先程の女性が誰なのかを改めて考える。


 女性の年齢は……正直何歳とも言えなかった、20代のようであり40代のようでもあり、しっかりと化粧をしていたのもあって判別がつけられない。


 そして人間なのか幻獣なのか……これも判断がつかないが、魔力ではない力をまとっていたことから、神様の可能性もあるとハクトはそんなことを考える。


「梅……梅の神様? 女神? いや、神様なら性別は問題じゃないのか……。

 梅、梅ねぇ……そして喋っていた内容は若人と教えか。

 ……んん? まさか飛梅かな?」


 飛梅、学問の神様の神社の御神木。


 それの実ということは、確かに教育者向けの力が込められていて……ハクトは意を決して実を掴んで口へと運んでいく。


 普通の梅の実であれば生で食べることはあまり良くないのだが、青梅という訳ではないし、特別な実でもある、問題ないだろうと考えて齧る。


 齧って食べてみると梅の香りが一気に広がって爽やかな甘さが広がって、梅の実とは全く違った味が口の中に広がる。


 桃に似ているようなスモモに似ているような、しかし香りは梅で梅らしい味もあって……間違いなく美味しいその実をハクトはするすると食べきってしまう。


 それを見てグリ子さんもフォスも続いて実を食べる。


 グリ子さん達は丸ごと丸呑みで……んぐんぐ喉を鳴らしながら飲み下し、それでも美味しかったのだろう、目を見開いて小さな翼をパタパタと振る。


 そして……何かあるかと身構えていたのだけども、特に何もない。


 何か加護のような力が湧いて出るとか、急に賢くなるとか、誰かを教える力に目覚めるとか……そう言うのは一切ない。


 特に変化なし、グリ子さん達の様子を見ても変化なし。


「えぇ……」


 ハクトの口から思わずそんな声が出てしまうくらいには変化なし。


 どーしたもんかな、これ……。


 これなら食べないでものを保存しておいた方が良かったかもしれない、その実を研究機関で調べたなら色々と分かったはずなのだが、今ハクトの手元に残っているのは、一つの種のみ。


「うーん……」


 更にそんな声を上げたハクトは、とりあえず気にしないことにして、それからは普通の一日を送ることにした。


 せっかくの祝日、心と体を休めなければ損だと休むことにした。


 そこからは本当に普通に何事もなく過ごし……そして翌日。


 朝目覚めて出社の準備を終えたハクト達が外に出ると、ちょうどランニングに出ていたユウカと出くわし、お互いに挨拶をする。


「おはよう」

「クッキュン!」

「ぷっきゅん~」


「おはようございます!」

「わふー!」


 その直後ユウカが鋭く何かに気付いたらしく、表情を変えて……そうしてハクト達におずおずと声をかけてくるのだった。


 

お読みいただきありがとうございました。

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