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毛玉幻獣グリ子さん  作者: ふーろう/風楼
第三章

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先生のお願い


 

 サクラ先生が指定した店は蕎麦屋だった。


 蕎麦屋とはまた普通な店を指定したものだなと、ハクトは最初驚いていたが……店に言ってみると納得。


 玄関に文字のない暖簾を下げただけの大きな平屋が待ち構えていて、その風体はさながら料亭のようだった。


 中に入れば玄関まで飛び石が続いていて、その左右は竹の衝立、衝立の隙間からは豪華な庭園が垣間見えて……玄関に入ると着物姿の女性がお出迎え。


「……吉龍先生の連れの者です」


 と、声をかけるとすぐさま庭園に面した個室へと案内されて、待っているのはこれまた豪華な和室。


 生け花、壺、掛け軸、どれも一級品で座卓や座布団さえも一級品、特に座布団に金銀刺繍がされているのはハクトでも驚いてしまった。


 案内を終えたら注文を聞いたりはなし、すぐさま茶が用意されて……あとはサクラ先生の到着を待つのみ。


 グリ子さん達は幻獣用にと用意されたクッションを窓際へと引っ張っていって、そこに座り……不思議な光景なのか、他では中々見かけないような立派な庭園の光景に夢中となる。


 ただ静かな光景というだけでなく、流れる滝があり鹿威しがあり、果物の破片を乗せた木の台があって、そこには様々な鳥が集まっていて……見ているだけで楽しめるのは確かだった。


 他に着ていくものがないからとスーツ姿のハクトと、紺色パーティドレスに美容院で髪を整えたユウカと、モーニングスーツ姿のブキャナンもまた庭を見て時を過ごす。


「……ちゃんと美容院いっておいて良かったです。

 ドレスもいらないかなーと思ってたんですけど、お母さんに言われて買っておいて良かったってほんとに思います」


「……うん、まぁ、こういう店なら普段着でも問題はなかっただろうけどね。

 だけどその格好ならこの店にも負けないだろうから、良い選択だったと思うよ。

 それに相応しい格好をしようとする経験を積んでおくのも悪くないことだ、また何かの機会があった時には今日のことを思い出すと良い」


 と、ハクトが返すとユウカは頷き……手帳をカバンから取り出しメモしていく。


「おお、メモですか、社会人らしくなってきやしたねぇ」


 と、ブキャナン。


 一体いつの間にそんなものを使うようになったのか……良い判断だと感心したハクトが静かに見守っていると、玄関の方がざわついて……そして案内の女性と共に着物姿のサクラ先生と金羊毛羊がやってくる。


 部屋に入ってきた金羊毛羊は、グリ子さん達を見てそちらに合流……難しい話には関わらないという態度を示してきて、それからサクラ先生は自分の席へ……並んで座っているハクト達の対面の席へと腰を下ろす。


「……改めて申し訳ありませんでした。

 色々と焦ってしまったようです……まだまだ未熟者ですね」


 そして挨拶もなく謝罪から入ってきて、ハクトもユウカも軽く頭を下げてそれに応える。


 特に必要もないのだがブキャナンもまたそれに続く。


「老いてくるとおせっかいになっちゃうし焦っちゃうし……ボケているのか同じ失敗を繰り返しちゃうの。

 分かって欲しいとは言わないけども、許してもらえたら嬉しいわ。

 ……四聖獣の器となれる若い子がもっと増えてくれると良いのだけど」


 するとサクラ先生がそう続けてきて、ハクトがやれやれと言葉を返す。


「毎年学院の卒業生は出ている訳ですし、活躍している若者もいるはずです。

 全くいないという訳ではないでしょう? 

 ……サクラ先生ならそういった方を更に育てることも出来るはず。

 ……焦る必要はないのでは?」


「確かに若い子はどんどん出てきているわね。

 そして上に上がろうと必死に努力している子もいる……でもそれだけじゃ駄目なのよ。

 テレビなどでもてはやされたせいで、四聖獣になれば夢が叶うと……お金もちになれたり、権力者になれたりすると思い込んでいる子が多すぎるの。

 そういった子についていける幻獣は少ないし、問題を起こしてしまう確率も上がってくる。

 ……仮に四聖獣になった子が欲に負けて騒動を起こしたとなったら、四聖獣そのものが軽く見られてしまう。

 国防の要がそれではいけないのよ」


「……いや、その理屈で言うと俺や風切君もそこまでの器では……。

 騒動は起こさないかもしれませんが、四聖獣を軽く見られる要因になる可能性は十分あります。

 やはり他の方を育てる方が良いでしょう。

 国防の要にはなれなくても、できる限りのことはしますよ、今回の件でもそうしたように、手の届く範囲での協力ならしますから」


「……ハクトちゃんとユウカちゃんならもっともっと活躍出来ると思うのだけど、残念ね」


 と、サクラ先生がそう言ったきり会話が止まる。


 平行線と言ったら良いのか、お互いの主張が出切った所で、お互いにどう話せば良いか迷ってしまっていた。


 そこに料理が運ばれてくる。


 蕎麦屋だと言うのにまるで懐石料理かのような豪華さで、一目見ただけではどんな食材が使われているか分からない料理も多かった。


 ただしメインは蕎麦で、蕎麦がきや蕎麦団子など、麺料理としての蕎麦以外の品々も並んでいる。


「とりあえずいただきましょうか」


 と、サクラ先生がそう言って、ハクト達は「いただきます」と応え、箸を手にとって食事を進めていく。


 もちろんグリ子さん達の分も、気を利かせてか窓際に用意され、グリ子さん達はその場での食事をし……一同は素直に食事を楽しむ。


 高級店だけあって全てが美味しい。


 蕎麦が美味しいのはもちろんだが、めんつゆや薬味だけでも一級品。

 

 ちょっとした添え物まで美味しく……特に天ぷらが極上だった。


 藻塩も用意してあるが、ハクト達は容赦なくめんつゆで楽しむ。


 市販のそれとは全く別物の美味しさのつゆだからこそ、天ぷらもそちらで楽しみたくなったのだ。


 そして食事が一通りに終わると蕎麦湯が運ばれてくる。


 こういう店でも来るんだなぁと驚きながらハクトもユウカもブキャナンもサクラ先生も、グリ子さん達も蕎麦湯を楽しむ。


 そうやって食事を終えたタイミングで、サクラ先生が声を上げる。


「……もう四聖獣になれとは言いません。

 ただ一つお願いをして良いかしら?

 候補となり得る器の子達を鍛えてあげてやってほしいの、先輩として。

 あなた達とぶつかったなら若い子には良い刺激になるはずよ」


 その言葉にハクトが返事をしようとすると、それよりも早くブキャナンが声を上げる。


「鍛えてやるとは、鍛え上げるまでですか? それとも一度だけでございやすか?

 その辺り細かくお決めになられると良いでしょうなぁ。

 特にハクトさんは社会人、お勤めでございやすから、あまり無理を求められても困りやす。

 まずはその辺りはっきりしておきやしょう」


 それは条件をまず決めろとの、ある種当然の要求で……それを受けてサクラ先生は静かに頷いて、その条件を口にし始めるのだった。


お読み頂きありがとうございました。

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舐めてるやつらをわからせ回がくる、のか
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