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毛玉幻獣グリ子さん  作者: ふーろう/風楼
第三章

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三人で



「んー、なるほどー、お詫びですか。

 私も行った方が良い感じですか?」


 予約した魚料理の店の予約個室にて、並ぶサンマ料理を前に一同が舌鼓を打っていると、サクラ先生に関する話を聞いたユウカが、そんな声を上げる。


「それはまぁ、来て頂けるとありがたいでございやすねぇ。

 風切さんも色々と迷惑をかけられた訳でやすから、ご足労お願いしやす」


 そうブキャナンが返すとユウカは、少しだけ面倒くさそうにし……サンマの刺し身を口に運ぶ。


 刻みネギとショウガをたっぷり挟んで、少しの醤油につけて……サンマの味を堪能し、ご飯を口に運ぶ。


 それから咀嚼するとなんとも言えない旨味が口の中を支配して……同じようにサンマを食べていたハクトは、黙ってユウカ達の会話の成り行きを見守ることにする。


「それじゃぁまぁー、行きますかー。

 ぶっちゃけ行かなくてもどっちでも良い気もするんですけども……。

 その、昨日銀行いって通帳確認したんですけど、正直四聖獣とかならなくても、暮らしていけますよね?」


 それを受けてハクトとブキャナンは、それはその通りだと、そんな顔になる。


 ユウカは積極的に役所の仕事を受けていて、結構な大任も何度かこなしている。


 災害救助対応、災害鎮圧、特に被害も出さず経費もかけずにその結果は、役所としてもありがたいばかりで……報酬もそれ相応のものとなっている。


 幻獣によっては炎を吐き出すために燃料となる鉱石が必要だとか、放電後の鱗の研磨が必要だとか、大量の氷を吐き出した後の温泉療養が必要など、様々な事情があってかなりの高額の経費がかかってくる。


 ……が、ユウカは全くの0。


 一応、仕事中の食事代などは経費として申請が出来たのだが、ユウカはその性格から忘れていたり面倒くさがったりで、申請をしておらず……役所としては本当に都合の良い存在となっていた。


 ……だが役所も馬鹿ではなく、都合が良いからと使い倒す気はなく、気を使って報酬を上げることで対価の支払いを行おうとしていた。


 結果……ユウカの報酬は既に、一流召喚者に迫るものとなっている。


 一般のサラリーマンなどでは追いつくのは難しく、普通の召喚者の三倍以上。


 当然その分だけ、翌年の税金などが増えていくのだが……実家暮らしで生活コストがほぼ0のユウカにとっては、それも特に問題なく支払えるものとなっていた。


 結果、ユウカはそのほとんど貯金している。


 一応季節ごとの服を買ったり、可愛い靴や帽子を買ったり、カバンを何種類か持ってみたりと、贅沢もしているのだが、年相応……報酬を使い切るような贅沢ではない。


 戦闘用スーツなどは高額な買い物だったが、そちらはしっかりと経費申請しているので、浪費とは言えない。


「ん~~~、お詫びの会席で高級店かぁ、いいとこなら美容院とか行っておいた方が良いんですかね?」


 と、ユウカ。


 ハクトがあれこれと考えているうちにも話が進んでいたようだ。


「さ、さて……アタクシはそういったことは詳しくないんでなんとも……。

 えっと、ハクトさん??」


 ブキャナンはそう言って話をハクトに振ってきて、ハクトは口の中のサンマを飲み下してから言葉を返す。


「行くか行かないかは風切君の判断だが、かかった費用は経費になるから領収書をもらっておくと良い。

 今回の相手はサクラ先生、同業者であり先立……メディアにも登場している超有名人だ。

 そんな人物との会食となれば、かかる必要は交際費の範疇で、ドレスコードのあるような場所となったら、服にかかるお金も経費になるよ。

 服、靴、カバン、化粧品……全て領収書を揃えて税理士さんに相談すると良い。

 ……本当にどんな格好をするかは自由だが、ドレスコードに引っかかった場合は自業自得だよ」


「え、あ、うわ、そのレベルのお店ですか。

 ……えぇっと、どんな服装が良いか、教えてもらったりは……?」


「……正気で言っているのかい? 俺に女性の服をどうこう言える訳ないだろうに……。

 どうしてもと言うのなら、マナー教室を開いてらっしゃる、信頼出来る人を紹介するが……」


「あ、そういう感じになるんですね、えっと、分かりました。

 とりあえずお母さんに相談してみます」


「それが良い」


 と、返してハクトは料理に意識を戻し、ユウカも料理に箸を伸ばす。


 ブキャナンは少しだけ呆れて……そして幻獣用の皿に用意された料理のすべてを綺麗に食べ上げたグリ子さんが、体をくねらせながら声を上げる。


「クッキュン!」


 私のドレスコードは?


 とでも問いかけているようだ。


「グリ子さんは、その日の朝にたっぷりブラッシングしてあげるから、それで大丈夫だよ。

 鈎爪とクチバシカバーもあるし、既に必要なものは揃っているかな」


 と、返すとグリ子さんは満足したようで、満足げなため息を吐き出してから、食後の休憩モードに入る。


 フォスもフェーもそれを真似して休憩モードに入り……それを見やりながらハクト達は、ゆっくりと箸を進めていく。


「……アタクシはどうしたもんでしょうねぇ。

 当世風にスーツ……いや、モーニングスーツですかねぇ、ハクトさんはどう思いやす?」


 するとその途中でブキャナンがそんなことを言い出し、ハクトは呆れの半目になりながら言葉を返す。


「いや、大僧正はそのままで良いんじゃないですか?

 その天狗姿ではスーツは似合わないでしょう」


「ん? そうでやすか? そういうことなら……」


 と、ブキャナンがそう言った瞬間、ハクト達の視界がゆらぎ……次の瞬間、ハクトが初めて見る顔が姿を現す。


 七三に分けた長い灰髪、細い目に金色の瞳。


 50代男性を思わせる痩せ型の顔には相応にシワが寄っていて……茶色の着物に、焦げ茶の肩掛け、赤色マフラーに箱帽子。


 そして何故か手に、天狗に似ていなくもない、ペストマスクを思わせる仮面を持っている。


「……また新しい姿ですか? 魔力を浪費するだけでしょうに。

 まぁ、その姿ならスーツで良いと思いますよ」


 と、ハクト。


「おぉー……全然天狗じゃない。

 けど、なんかうっすら以前の姿も見えますね? ぼやけてちょっと見にくいです」


 と、ユウカ。


「おや、ユウカさんには正体を見抜かれてしまっているようで……本当に良い目をしておりますねぇ。

 まぁ、普通の人には変化後の姿しか見えてないはずなんで、問題はねぇでしょう。

 今回はアタクシも、お二方の保護者としてこの姿で同行しやすので、よろしくお願いいたしやす」


 何を思ったか、そんなことを言い出したブキャナンにハクトは何も言わず頷き……ユウカは目を細め、どうにかぼやけるのを止められないものかと苦心しながらも頷き、そうして三人での出席が、決定となるのだった。



お読み頂きありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
グリ子さんのドレスコード! グリ子さんって本当にかわいい(≧▽≦)
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