帰路
いつになく豪勢な夕食を終えたなら、食器を片付け……後のことはスタッフがやってくれるとのことだったが、ハクト達なりに出来る限りのことをし、それからは風呂にまた入るなり、テレビを見るなり、好きなことをして時間を過ごした。
そうして時間が来たならそれぞれの部屋で眠り……翌朝。
今日の午後に宿をチェックアウトし、帰宅するとあってか、早朝からユウカ達は海へと遊びに出かけていた。
サーフィンにダイビング、ビーチバレー、やれることは全てやってやろうと道具を全て持ち出していて……まぁ、ユウカならば特に問題ないだろうと、ハクトは荷物の片付けなどを進めていた。
洗濯できる服を洗濯し、車の中の掃除もし……水の補充など出来る範囲のメンテナンスも行う。
朝食の準備はスタッフがしてくれるそうなので任せることにし……大体の作業が終わったなら、車体そのものの洗車も行っていく。
海水に浸かった様々な道具を洗う関係でホースなどなど、必要な道具と設備が揃っている上に、使い方は自由……洗車などに使っても良いと事前に言われているので、何の遠慮もなくガンガン使って洗い上げていく。
洗車が終わる頃にスタッフがやってきて、昨夜の食事の片付けや簡単な清掃などを行ってくれて……清掃の後の換気作業が終わったなら、朝食が運ばれてくる。
サンドイッチにフルーツ、そしてフルーツサラダ。
昨夜とはまた違ったフルーツが使われているのが驚きで……かなり気を使ってくれた献立となっているようだ。
「ありがとうございます」
そうハクトが声をかけると、スタッフは笑顔で会釈をしてから去っていき……それを見送ってからハクトは、海に向かって大きな声を張り上げる。
「グリ子さーーん! ご飯だよーー!」
瞬間、ビーチの海水が噴水のように吹き上がる。
そして海水の頂点にはダイビングをしていたらしいグリ子さんの姿があり、吹き上がる海水に、噴水の上のゴムボールのように回されたり跳ね上げられたりと弄ばれたグリ子さんは、その勢いでもって空へと舞い上がり……小さな翼をパタパタと動かしながらホバリングをし、ハクトの下へとやってくる。
同じように吹き上がったフォスもそれを追いかけてきて……ユウカとフェーは、砂浜を走っているとは思えない速度でハクトの方へと駆けてくる。
「……皆、シャワーで砂と海水を落としてから中に入るんだよ」
と、ハクトはそう言って室内に入り……海で遊んでいた一同は海側にある外シャワーでもって全身を洗い流し……これでもかと洗い流し、それから室内に入り、風呂場に直行。
簡単な入浴と手入れ、着替えを済ませてからリビングへとやってくる。
その頃にはハクトが食器やクッションを並べ終えていて……それぞれ自分の席について食事を始める。
朝から遊んで空腹だったのだろう、凄い勢いで用意された朝食を平らげたユウカは、ハクトが淹れたコーヒーで口を落ち着かせてから、ハクトに言葉を投げかける。
「今日から帰るそうですけど、どういうルートで帰るんですか? 来た時と同じ感じですか?」
「来た時よりは早いかな、帰りは疲れも溜まっているだろうと考えて高速道路で一気に帰るルートにしたからね、宿も高速道路沿いの宿に泊まることになるよ」
と、ハクトが返すとユウカは「はーい!」と返してから、旅行用に用意した地図を開き、帰りのルートにペン入れをしていく。
それから寄り道で行けそうな場所、面白そうな場所をチェックし始め……グリ子さん達もそれに合流し始める。
そこまで空腹ではなかったハクトはゆっくりと食べ進め……食べ終わったなら片付けをし、それから洗面台へ向かい、歯磨きなどを済ませていく。
それが終わったなら荷物の積み込み、簡単な掃除と片付けをし……忘れ物がないかのチェックをし、幻獣達がちゃんと車内にいるかを確認してから施錠、車で入口ゲートへと向かい、チェックアウト手続きを行う。
ハクトが散々チェックした宿の室内だったが、実はリビングの棚に一つの忘れ物があった。
忘れ物と言うか、意図的に置いていったものと言うか……それは貝殻やスノードームなどが飾られていた棚に置かれたグリ子さんの羽根で、快適な時間を過ごせたことに対するグリ子さんなりのお礼だった。
更にチェックアウトの手続きの際に、職員にも羽根を渡していて……先日の事件の報道でグリ子さんの力を見ていた職員達は、素直にそれを受け取り、思い出の品として大切にしていくことになる。
結果、その部屋や、この施設を利用した人々や職員にちょっとした幸運が訪れることになったりもした。
そんな宿を後にしたハクトは、高速道路に乗ってただ帰るだけを目的とした運転でもって車を進ませ……その間も地図を見続けていたユウカは、あれやこれやと行きたい場所を列挙していく。
「えっと、このラーメン屋さんとかどうですか? あとここ釜飯屋さんがあるそうですよ。
このよく分からない鍋屋さんもよさそうですねぇ……いやぁ、全部のホテルで観光ガイドもらってきておいてよかったです。
あ、そうめん屋さんなんてありますよ、めずらしっ」
「……飲食店だけなのかい?
いやまぁ……お昼にどこか寄るくらいは良いけど、それでもどこか一店だけになるよ?
昨日も散々食べて、正直そこまでお腹は空いていないからねぇ」
と、運転しながらのハクトが応えると「燃費いいですねー」なんてことを言ったユウカは、グリ子さん達が休んでいる幻獣用ソファへと向かい、そこに体を預けながらどこが良いか、行ってみたいかと話し合いを始める。
それを聞きながらもハクトは運転に意識を向けて高速道路を進んでいく。
……するとドアが誰かにノックされたかのような音が響く。
コンコンコンと、車のエンジン音や走行音もあって聞き間違いかと思ってしまうが、再度コンコンコンとノックされたことで、確かにドアが叩かれていると一同は確信してしまう。
「……誰ですか?」
と、糸を展開しながらハクトが問いかけると、ロックしてあったはずのドアが開き、
「おーう、仕事の話をしにきたぞ」
と、そう言って金太郎が、まるで停車している車に乗るかのような態度で車内に入ってくる。
そんなとんでもない光景を直接、またはバックミラー越しに見ることになったハクト達は……唖然としながらも、まぁ神様だからなと無理矢理に納得し、そんな展開をどうにかこうにか受け入れることに成功するのだった。
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