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毛玉幻獣グリ子さん  作者: ふーろう/風楼
第三章

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 核のような石にヒビが入り、そのまま壊れて決着……かと一瞬思ったハクト達だったが、次の瞬間予想もしていなかったことが起こる。


 石が震え始めて魔力を弾けさせ……自ら砕けることで周辺に飛び散っての攻撃を仕掛けてきた。


 ユウカの拳でも砕け散らない強度を持った石の破片が、魔力でもって飛んでくるというのは、下手な銃器よりも威力のある攻撃と言えて、それを受けてハクト達はすぐさま防御行動を取る。


 金太郎は熊に隠れ、熊はその毛皮を輝かせ逆立たせ防具とし、ハクトは糸でもって己と側にいたフォスとフェーを包み込み、そしてユウカは……その身体能力でもって自らに向かってくる全ての破片を砕いていく。


 拳を放って砕き、膝や肘、頭突きでも砕き、回し蹴りで砕くついでに、全身に魔力を漲らせ、それを回転させることで衝撃波を放って砕き……散弾銃で銃撃されたとしても防げてしまうのではないかと思ってしまう程の俊敏さを、これでもかと見せつける。


 更にはハニワ達もそれぞれ動いて破片を受け止めるなり、吸い込むなりして周囲への被害を防ぐ……が、周囲一帯に飛び散った破片全てに対処することは出来ず、一部が極彩色の世界へと迫っていく。


 綺麗で平和で、実りに溢れたその世界に迫る破片を見て、ハクトもユウカもすぐさま対処しようとする……が、つい先程自分達を守るために魔力を使い切ったせいで間に合わない。


 と、そこに飛び出てきたのはグリ子さんだった。


 いつの間にそうしていたのか、周囲に生えていた木の桃をクチバシに咥えてパクンッと飲み込み、そこから得たらしい魔力でもって、ぐんぐんと巨大化していく。


 大きく丸く、先程まであった巣よりも大きくなり……そのもふっとした羽毛で全ての破片を受け止める。


 受け止められた破片は羽毛の中で蠢いてなんとか逃げ出そうとするが、グリ子さんはそうはさせまいと、羽毛に絡め取られた破片をそのクチバシでもって突くことで砕いていく。


 一つ一つ丁寧に、毛繕いでもしているかの様子でガスゴスと砕き……全て砕き終えたなら満足そうにため息を吐き出す。


「……勝手に仙桃と思われるものを食べてしまったのは……うん、後で注意しておくとしよう」


 と、大きくなったグリ子さんを見上げながらハクト。


「さっすがグリ子さん!」


 と、ユウカはそう声を上げながらグリ子さんに抱きつくべく、駆け寄っていく。


「わふー!」

「プッキュン!!」


 フェーとフォスも同様で……そして金太郎は「わっはっは!」と一頻りに笑ってから、ハクトの側へとやってきて、


「仙桃の一つや二つ、気にすんな、安いもんだ」


 と、そう声をかける。


 それを受けてハクトが安堵していると……まずグリ子さんの体が縮んでいく。


 そして周囲の魔力が薄れていって……同時に極彩色の世界が色を失い、見えているのかいないのか、霞んでいってしまって……ふと気付けば当たり前の街中の光景が周辺に広がっていた。


 そこには桃の木もなくハニワの姿もなく……ハクト達にとって日常の光景のはずが、つい先程までいた世界とはあまりに違いすぎる光景に違和感を覚えてしまう。


「あー……ハニワさんとも挨拶したかったですねぇ」


 そんな中、ユウカだけが呑気なことを言いながら運動後のストレッチをしていて……それを見たハクトは、自分も見習わなければとため息を吐き出しながらストレッチを開始する。


 特に意味はないのだけどもグリ子さん達も真似をし始め……そこに金太郎がやってきて声をかけてくる。


「いや、恥ずかしいとこ見せちまったなぁ。

 神様としての力を見せるはずが、助けられるばっかりで参っちまうね、まったく。

 ……ともあれ、終わりよければ全て良しってなもんでな、周囲に大した被害なく終わらせられたのは良かったよ。

 という訳で、今回の仕事の特別報酬だ、行政からちゃんとした報酬は出るだろうから、これはまぁ記念品みたいなもんだな」


 と、そう言って金太郎はいつの間にか両手に抱えていた桃を一人一つずつ配っていく。


 ハクトに、ユウカに、グリ子さん達にも一つずつ。


 それは極彩色の世界……神々の世界で育てられた仙桃で、ハクトは冷や汗を流しながら受け取ったそれをどうするべきかと頭を悩ませる。


 伝説通りならばそれは、食べれば不老不死になれるとか、千年を生きられるとも言われている。


「ああ、安心してくれ、そこまでの力はねぇよ。

 っていうかそんなもん、迂闊に下界の人間に渡せねぇだろうよ。

 仙桃と呼ぶしかねぇからそう呼んでいるが、どちらかと言うと特別なのは桃の木の方だ。

 破邪の力を持った木、その木で破邪の弓を作る程の代物……それの実。

 つまりは破邪の実だな、食べれば当分……数十年は病気知らず呪い知らずでいられるだろうよ。

 そういう意味ではある意味不老不死とも言える……のか?

 ま、寿命そのものは変わらねぇから、気にせず食べると良い」


 冷や汗を流しているハクトを見てか、金太郎がそう補足をしてくれて……それを受けてまずグリ子さんが何の躊躇もなくパクリと食べる。


 それに続いてフォスもクチバシを大きく開けて、顎を外したのではないかと思う程に大きく開けて……うぐうぐと言いながら桃の実を丸のまま飲み込む。

 

 そこまで体の大きくないフォスではまず飲み込めないはずなのだけども、しっかり飲み込んで……飲み込んだ分なのか一回り大きくなる。


 フェーには流石にそんなマネは出来ないようで、皮を器用に爪で向いて、爪や口の周りを桃の果汁でベトベトにしながら実を齧っていく。


 ユウカもそれにならってか、丸かじりを始めて……ハクトは流石に丸かじりをする勇気はないなと、糸を使って皮を剥き切り分けて……ゆっくりじっくり味わいながら食べていく。


 一生に一度しか食べられないことは間違いなく、一口一口味わいながら。


「……うん、味は普通の桃なんですね」


 と、ハクト。


「いや、違うよ? 普通じゃないからね? 極上の味なんだよ?

 極上なんだけど下界が品種改良しすぎた結果、極上に並んじゃっただけなんだからね? 君達の舌が肥えすぎているだけでさ、むかーしの桃に比べたらそれ、すっげぇ美味いんだからね??」


 と、金太郎。


 そんなやり取りがありながらも、普通に美味しい桃には間違いなく、ユウカとグリ子さん達はなんとも満足そうな様子で、仙桃を堪能するのだった。


 


お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
お坊ちゃんだから、特に極上よな
金太郎、現代の桃にジェラる 『ウチの桃は絶品で美味いんだからね!』
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