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毛玉幻獣グリ子さん  作者: ふーろう/風楼
第三章

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出撃



 準備を整え、外に出ると、鎧武者姿の男性と似たような鎧を身にまとった大熊が待ち構えていた。


 四足で堂々と立つ姿は凛々しく、その顔は優しく……愛嬌のある犬のような顔でハクト達に鼻を近付け、すんすんと鳴らしての挨拶をしてくる。


「今日はよろしくお願いします」


「お願いします!!」


「クッキュン!」

「ぷっきゅん!」

「わふー!」


 ハクト達がそう返すと、大熊は目を細め……馬車や牛車のように引いている、黒漆塗りの荷車を鼻で指し示す。


 どうやらその上に乗れということらしいと、ハクト達が乗り込むと、男性は大熊の背に跨がり……肩に担いだまさかりを振り上げて、


「いざ、出陣!!」


 と、声を張り上げる。


 すると大熊が駆け出し……道路を車以上の速度で駆けていき、途中からどんな力か、空中を駆け始めて、空の道を突き進んでいく。


 そんな様子を客観視したユウカは、形だけはサンタクロースとトナカイみたいだな……なんてことを思いつつ、荷車から身を乗り出して下を覗き込み、空の旅を存分に楽しむ。


 一方ハクトは、前側に身を乗り出し……神と成った男性へと声をかける。


「……えっと、金太郎さんとでも呼ぶべきですかね?

 金太郎さんは何故俺達を? あなただけでも十分勝てる相手ですよね?」


「おう、疑問は尤もだが、聞かずとも分かっているはずだろう?

 戦う姿を見せてやりてぇ、いずれ神に成るかもしれない連中を導きてぇ。

 ……いつまでもいると思うな、幻獣と神々ってな。

 古のように強制的にこの世界から退去させられるかもしれねぇってのは、神々にとってもちょっとした恐怖でな、もちろんそうならないように動いてはいるが、そうなっても良いようにとも動く必要がある……動いておきたい気持ちがあるんだよ。

 だから見ておけ、神となった男の戦う様を! その力を!」


「……神に成りたいだなんて、全く思っていないのですが……」


「安心しろ、オレだって思ってなかったよ。

 だがこうして敬われる立場になってみて、初めて見える景色ってのもあるもんだ。

 生前も色々なことを経験してきたが、金太郎飴を美味しそうに食べている子供達の笑顔を見ることに勝る幸福はなし、神に成って始めて味わえたものの一つって訳よ。

 だからまぁ、無理に成れとは言わないが、その可能性があるかもっていう心構えはしておくと良い」


「……平凡な一市民で居続けたいものですけど……。

 あとはまぁ、相応に鍛練を積んできたという自負はありますが、神々に到れるなんて、そんなレベルでは全然ないと思うのですけども?」


「坊っちゃんはまぁ、そうだろうな。

 ただ嬢ちゃんの才覚は、言っちまうと武神級だと思うぞ。

 まだまだ未熟で、相応の鍛練が必要ではあるが……将来性は抜群、現時点でも人間としちゃぁ化け物級だからなぁ。

 ま、強制されるようなものじゃぁないから安心しておけ。

 強制はしないしされないが……いざ、決断の時のために色々経験しておくことは悪くないだろう?

 適切な経験がなきゃ決断も出来ないってもんだ、決断のための材料は多ければ多い程良いだろうしな」


「……なるほど、そういうことならまぁ、納得出来る気がしますね」


「……坊っちゃんの場合は実力どうこうの前に、その性格がなぁ。

 ……まぁ、良いか、よし、そろそろ準備の時間だ、よく見ていると良い」


 と、そう言って金太郎は、大熊の背の上で仁王立ちになる。


 もう幻獣災害の現場かとハクトは驚き、下へと視線を向けるが……ニュースで見た現場にはまだまだ到着していないようだ。


 現場はまだまだだが、真下には神社から伸びる大通りと、その左右に並ぶ商店の姿があり……そこで買い物をしていたのだろう、大勢の客が何事だろうかと見上げる中、金太郎が大熊の背から飛び降りて……大通りへと着地し、担いでいたまさかりを大きく振るう。


「おうおう! 日の本一の力持ち、金太郎が幻獣退治に参上だ!

 これから力いっぱい暴れて大活躍してやるから、応援してくれよな!」


 そして声を上げ、まさかりを高く持ち上げ……歌舞伎の見得を切るようなポーズを取ってみせる。


 すると大通りは大盛りあがり、拍手喝采の大歓声で金太郎を応援する声が広がり……それを受けてなのか、金太郎の周囲にぶわりと光が広がり、どこから現れたのか紙吹雪のようなものが舞い散り……そんな現象が何度も何度も繰り返され、その度に金太郎がどんどん派手になっていく。


 まず、大きいだけのまさかりに金銀の装飾がついていく。


 元々のまさかりが隠れるくらいに熊の顔やら鬼の顔やら、ゴテゴテとした飾りがついて……柄や石突にもかなりの装飾が出来上がる。


 次に甲冑や兜も派手になっていく。


 元々派手ではあったが、金銀に彩られ……金銀が限界となると、今度は金銀が赤く染まっていく。


 金色は金色のままなのだけど赤身を帯びて……まるで炎かと思うくらいに赤く染まる。


「ようっし、力いっぱい、元気いっぱいだ! そんじゃぁ行ってくらぁ!!」


 そんな変化が落ち着いたのを見てか、そんな声を上げた金太郎は、ありえない跳躍力でもって飛び上がり、空中で待機していた大熊の背に戻る。


「これが信仰の力ってもんよ!!」


 そしてハクト達に向けてなのか決め台詞を口にして……ユウカとグリ子さん達が凄い凄いとはしゃぐ中、移動を再開させる。


 するとすぐに上がる黒煙が見えてきて、避難している人々のものか悲鳴のような声も聞こえてきて……すぐにユウカははしゃぐのを止めて、スーツ姿でしっかりと拳を構える。


 狩衣姿のハクトも糸を展開し始めるが、それを止めるかのように金太郎がド派手なまさかりを振るう。


「おうおう、オレに任せておけって!

 そこで見ていな、金太郎様の大活躍!! どんな幻獣が相手だって、力いっぱいの相撲でもって倒してやらぁ!!」


 そしてまたも決め台詞。


 そうこうしているうちに荷車が現場に到着し……災害を起こしている幻獣が姿を見せる。


「うわぁ……」


 そう声を上げたのはハクトだった。


 今回の幻獣は群体らしい、高層ビルを覆う大きく丸い巣も見えている。


「……スズメバチの幻獣っているんですね?」


 そしてユウカ、そこら中を飛び交うのは、大熊にも負けない大きさのスズメバチによく似た幻獣だった。


「や、やってやらぁよ!!!」


 数え切れない数、100や200では済まないだろう……圧倒的な数を前に少しだけ怯んだ金太郎だったが、それでもどうにか勇気を奮い立たせ……そうして大熊の背から飛び降りて、スズメバチへの巣へと突っ込んでいくのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
アナフィラキシーショック! それは症状の名前で、吃驚の台詞ではないですよ? し、知ってらァ!やったらァ!見とけやァ!
まあ、タイマン勝負かと思ったら「戦いは数だよ」だったら面喰いますよね。
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