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毛玉幻獣グリ子さん  作者: ふーろう/風楼
第三章

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まさかの来訪


 バーベキューをたっぷりと楽しんで、片付けを終えたなら宿に戻っての休憩タイム。

 

 歯を磨き、シャワーを浴びて着替えを済ませて、強めに効かせたクーラーの冷気をリビングで浴びる。


「……クーラー効いている部屋にいると眠くなるの、何なんでしょうね……」


 室内着なのかジャージ姿となってソファの背もたれに全身を預けたユウカがそんな声を上げる。


「単純に適温が気持ちいいというのもあるのだけど、クーラーを使うと空気が乾燥して、乾燥した空気が目に悪影響を与えて、目を閉じていたい、目を休めたいという状況を眠気と勘違いしてしまうらしいよ。

 夏の熱気で体が疲れているというのもあるだろうし……これはこれで夏にしか味わえない心地よさだねぇ」


 ハクトは窓際に椅子を置いて波を眺めながら微睡んでいて……グリ子さん達幻獣達は、部屋の中央に置かれたベッドサイズのクッションの上で寝転がっている。

 

 フォスとフェーに至っては既に寝息を立てていて……更にはユウカとはまた別のソファで休憩するブキャナンと小僧天狗の姿もある。


 ブキャナンはブキャナンで別に宿を取っているようだが、休憩したいとのことでやってきていて……どうやらそれなりに疲れることをしてきたようだ。


 それが何なのかは分からなかったが、ハクトもユウカも特に質問したりはせずに放置を決め込んでいる。


 わざわざブキャナンがそうやって動いているのだから、面倒なことに違いなく、そこに下手に関わるとひどく面倒なことになることは請け合いで……せっかくの旅行中にそんな目には遭いたくないというのは、ハクトとユウカの間で無言ながらに共通した考え方だった。


 そんなブキャナン達は勝手に備え付けのドリンクを飲んでいたりもするが、それでもハクト達は構わず放置している。


 そうやって涼やかな風が流れる中、誰もが無言でウトウトとしていると……コンコンとドアがノックされる。


 それを受けて真っ先に覚醒したハクトは、まずグリ子さん達の方を見やる。


 不審な来訪者だった場合はグリ子さん達がまず警戒するはずだが……警戒した様子はなく、天井を見上げながらゴロゴロとしている。

 

 ならば管理人さんでも来ただろうかと立ち上がり、簡単に居住まいを整えたハクトはドアへと向かい……念の為にのぞき窓から確認をしてからドアを開けようとする。


 そして度肝を抜かれる……まさかこの人がやってくるなんて……。


 そんなことを考えながら失礼にならないよう、手早くドアを開ける。


「いらっしゃいませ……今日はどのような?」


 かしこまった挨拶をすべきか悩みに悩んで、当たり障りのない言葉を口にすると、ドアの向こうにいた人物……ユウカと手合わせをしたまさかりの似合う藍色の浴衣姿の好漢だった。


「おお、忙しい所に邪魔して悪いな。

 アンタとはあんまり話が出来なかったと思ってな……少し良いか?」


 そう言われてハクトはこくりと頷き……男性を室内に招き入れ、キッチン側のカウンターへと案内する。


 そこにはまさにバーといった様子のカウンターがあり……とりあえずハクトは、言葉を返す。


「コーヒーかお茶、各種ドリンクがありますけどどれが良いですか?」


「んー……ここはコーヒーにしておくかな、こういうとこのって良い豆なんだろ?」


 お茶の準備を仕掛けていたハクトはその言葉に驚きながらも頷き、かなり出来の良いコーヒーメーカーの準備を進める。


 その間、彼は無言のままで……コーヒーを出し終えると一口飲み、それから口を開く。


「まぁ、今回の狙いは顔合わせだな。

 アンタ四聖獣にはならないつもりなんだろ? だがそれ相応の力と才能がある。

 つまりはそれなりの大物になる可能性を秘めている訳だ。

 それなら顔合わせは大事だろう? アンタとしてもコネは作っておいた方が良いぞ。

 サクラちゃんと距離を取っているのなら尚更だな」


「……それはわざわざありがとうございます。

 距離を取っているつもりは全然ないんですけどね……サクラ先生は俺なんかに期待しすぎなんですよ。

 無茶ぶりが過ぎるというか……俺なんかよりももっとやる気のある人を育てたら良いのにと思うばかりです」

 

「静かに暮らしたいですーって感じか?

 そういうことなら尚更コネは大事にしときな、いざと言う時に何も頼るものがねぇってのも困ったもんだ。

 あとはアレだ、サクラちゃんにもう少しだけ優しくしてやんな、たとえばこの旅行での土産を送ってやるとかよ。

 この辺りは海鮮も牛肉も美味くて最高だぞ? 特に牛肉だな……サクラちゃんなら食べ慣れているかもしれねぇが、それでも気持ちは伝わるだろうよ」


「……分かりました、特に良さそうなのを探してみます。

 助言いただきありがとうございます」


 とてつもない年長者からの金言だ、素直に受け止めておくべきだろうと、そう考えてハクトが頭を下げると、男性はにんまりと笑い……まだまだ熱いはずのコーヒーをがぶりと一口で飲み干す。


「あっつくて苦くて美味いが、もっと甘い方が俺好みだな。

 抹茶もなんでもかんでも甘さが足りねぇと思うんだよ、甘さが。

 ……甘いってのは大事なことだと思わねぇか?」


 それからそんなことを言ってくる男性にハクトは、まさかの甘党なのかと驚きながら振り返り、冷蔵庫のドアを開けて……中にあった缶ドリンクを取り出す。


「ではこれなんかどうですか? 凄く甘いことで知られる缶コーヒーです。

 これはその中でも特に甘いシリーズみたいですね」


 そう言ってハクトが黄色い缶コーヒーを手渡すと、男性はどれどれとプルタブを開けてから口をつけて一口飲み込む。


 すると男性の好み通りに甘かったのだろう、男性は今までにない笑みでにんまりと笑って……残りを一気に飲み干す。


「うまい! おかわり!!」


 まるで居酒屋でビールを注文するような勢いでそう言われてしまったハクトは、ただ頷くしかなく、もう一本の缶コーヒーを冷蔵庫から取り出す。


 すると男性はすぐさまそれを飲み干し……さらなるおかわりを要求してくる。


 この缶コーヒーは甘いだけに、そんなに何本も飲むと健康を害するのだが……目の前の男性は健康とかどうとかを超越している存在、ならば問題ないかと頷いたハクトは、男性が満足するまで缶コーヒーを出し続けるのだった。


お読みいただきありがとうございました。



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激甘コーヒーが何本も入ってる冷蔵庫スゴい… 施設の運営側はどういう基準で冷蔵庫の飲み物を選定したのか気になってくるやつ
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