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毛玉幻獣グリ子さん  作者: ふーろう/風楼
第三章

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バーベキュー


 管理人が用意してくれたバーベキュー具材への味付けは、薄めのものだった。


 素材が高級品、バーベキュー台も炭も一級品……それなら薄味でも十分、素材の味をじっくり楽しんで欲しいとの想いからのようだったが、ハクトが丁寧に焼き上げたそれらを口にしたグリ子さん達の反応は今ひとつだった。


 美味しくはある……素材も良いし、焼き加減も最高、炭の香りもたまらないのだが、根本的な味付けが足りず、満足とはいかない。


 そんなグリ子さん達の様子を見てハクトは、一旦バーベキューを中断して部屋へと戻り、自分のカバンからここまでの道中で購入したお土産の一つを取り出し、バーベキュー会場へと持っていく。


 カウボーイハットを被ったおじさんのシールが貼られたその瓶の中には、黒色のソースがたっぷりと入っていて……ハクトはそれを小皿に注ぎ込んで、グリ子さん達の前へと無言で差し出す。


 するとグリ子さん達もまた無言で、クチバシなどで具材を掴み上げてソースにつけ、それから口の中へと運び……咀嚼し始めた瞬間、目を輝かせての笑顔となる。


「この辺りで有名なソースで、バーベキュー用のものなんだ。

 色々なものを煮込んで作った……市販されている有名ソースよりもう少しこだわった感じかな。

 ここは高級志向というか、素材の味を楽しみたがるような人向けだろうからと一応買っておいたんだよ。

 結果は大正解のようだね……まぁ、ソースにつけるかつけないかはそれぞれ自由にしたら良いよ。

 ……足りないようならもう二瓶あるから、量も心配しなくていいよ」


 ハクトがそう言うと、ユウカとグリ子さん達は大喜び、海鮮を中心としたバーベキューを存分に楽しんでいく。


 肉も魚も野菜も、全部そのソースにつけて……それで十分、下拵えが丁寧にしてある高級素材だけあって、十分に楽しむことが出来る。


 皆がそうやって楽しむ間、ハクトはバーベキューに徹して作業をし続け、皆の皿に炭火で香ばしく焼き上がった食材を乗せていく。


「いやはや、炭火の香りと言うのはどうしてこうも心を踊らせるのでしょうねぇ。

 しかも並ぶのは高級食材ばかり……こちらなんか伊勢海老でございやせんか?

 アァ、これはまったく幸運な折にお邪魔できましたねぇ」


 するとそんな声を上げながら皿を持ったブキャナンが現れて……ハクトはバーベキュー用トングでもって焼き上がったばかりの肉を持ち上げ、渋々といった様子でその皿に乗せながら声を上げる。


「いらっしゃいませ、大僧正……ここ最近はお忙しそうでしたね」


 ハクトは暗に最近の動向は知っていましたよ、近くであれこれしていましたよね? と、そう伝えていて……それを受けてブキャナンは何も言わずにただ肉を受け取り、それをクチバシの中に運んで堪能する。


 ブキャナンはソースの味よりも素材の味派のようで、新鮮かつ丁寧な処理をされた具材の味を存分に楽しむ。


 そうしながらチラチラハクトの方を見て、片手で小さな円を作り、それを口元でクイクイと動かし、お猪口が欲しいと……お猪口に入れる飲み物が欲しいとアピールし始めるが、ハクトは一切相手にせずにただただ調理に集中する。


 それでもブキャナンがしつこくアピールをしてくると、仕方ないなとため息を吐き出し台所へと向かい……冷蔵庫の中からよく冷えた缶入り炭酸水を両手で抱えて持ってくる。


 それをテーブルの上に乗せて「どうぞ」とだけ言って調理に戻り……ブキャナンはなんともしょぼくれた顔をしながらそれを手に取る。


「えっと、先輩……少しのお酒くらいは良いのでは?」


 あまりのしょぼくれっぷりを哀れに思ってユウカが援護をするとハクトは渋い顔をしながら言葉を返す。


「そもそもお酒の準備なんかしていなかったんだよ。

 未成年がいるというのにそんな注文は出来なかったというか、許されなかったというか……俺達くらいの年の二人で酒まで用意してくださいなんて言ったが最後、予約を拒否されただろうね。

 どうしても飲みたいのなら大僧正が自分で用意してくれないと、俺にはどうにも出来ないよ」


「あ、ああ、そういう……。

 自分で用意して飲む分にはオッケーってことですか……。

 ブキャナンさん、そう言うこと―――」


 と、ユウカがそんなことを言おうとしていた時だった。


 話を聞きつけたのか、どこからともなく小僧天狗がお盆を持って駆けてきて……おぼんの上に乗っていた徳利とお猪口をブキャナンへと差し出す。


 どこでどう用意したのか? なんて疑問は意味がないのだろう……ハクトは気にせず調理を続け、目を丸くしていたユウカもハクトが何も言わないのであればと黙って食事に意識を向ける。


 グリ子さん達幻獣組は最初から興味を示しておらず、完全に食事だけに意識を向けていて……そんな中でブキャナンはバーベキューコーナーの隅にあったソファにゆったり腰かけ、小僧天狗に世話をされながら食事を堪能していく。


 それを見てハクトは、小僧天狗のための皿も用意してあげて……ソーセージなど、比較的食べやすく、小僧天狗が好みそうな食材をその皿に乗せていく。


 ジュースも箸も用意してあげて……すると小僧天狗は喜びながらもブキャナンの方を見て、食べて良いんですか? なんて表情をする。


「せっかくのハクトさんの行為を無碍にしてはいけやせんよ。

 美味しく頂戴して感謝の気持をたっぷり示したらよろしい……残さず頂くように」


 すると小僧天狗は大いに喜んで、ブキャナンの世話を忘れないようにしながら食事をし始め……本当に嬉しそうに美味しそうに箸を進める。


 それを見てハクトは更に調理に意識を向けて励み……そうやって皆を満足させたなら、自分の食べる分の調理を始める。


 そこでハクトが取り出したのは醤油と味噌で……バーベキュー風ではなく和風に食材を仕上げていく。


「え、あ、先輩ずるい!? 私もそっちの味付けが良かった!」


 それを見て……香ばしい香りを受けてユウカが悲鳴に近い声を上げると、ハクトは少しだけ怯みながら声を返す。


「い、いや、バーベキューが楽しみたいってことだったから……。

 それにソースは大体使ってしまったし……」


 しかしそんなハクトの声はユウカにも……ブキャナンにもグリ子さんにも、フェーやフォス、小僧天狗にまで受け入れてもらえず、結局ハクトはそれから自分と皆の分の和風仕上げを作ることになるのだった。


お読みいただきありがとうございました

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大僧正、自由人 ハクト、苦労人
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