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毛玉幻獣グリ子さん  作者: ふーろう/風楼
第三章

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天ぷら


 一泊し、ゆっくりと体を休めたならチェックアウト。


 ゆったりとした運転でもって高速道路に乗って、安全運転で西に向かい……古都を後にする。


 途中休憩を挟みつつ西へ西へ……すると商都への案内看板が見えてきて、ハクト達の車が商都に入る。


 高速道路を降りて……物凄い勢いで車が行き交う道を進み、しばらく滞在することになる、商都中央にあるホテルに入ったならチェックインを済ませる。


 そして予約した部屋へ。


 最上階の一つ下、その階層の半分を占めるフロアを部屋と言い張るそこにカードキーで入ったなら、まずは荷物をそれぞれの部屋に置く。


 それからハクトは運転の疲れを取るためにシャワーを浴び、ユウカはお気に入りのワンピースを揺らしながらカメラを構え駆け回っての室内撮影。


 グリ子さん達は窓際のクッションで体を休めながら、窓の向こうに広がる光景を楽しむ。


 広い平野が広がっていて、幻獣災害に備えてなのか、大きく高く、堅固な城塞がどんと構えていて……その城塞の周囲には飛行可能な幻獣の姿がちらほらとある。


 もちろん城塞そのものにも幻獣が待機していて……頑張って働く幻獣の姿をグリ子さん達は、どこか誇らしげな様子で眺めて楽しむ。


 ハクトのシャワーと着替えが終わり、お茶などの休憩を済ませたらちょうどお昼時、身支度を整えたハクトが声を上げる。


「よし、予約したお店にご飯を食べにいこう」


 それを受けてユウカとグリ子さん達は大歓声。


 そしてユウカは用意していた麦わら帽子を自分とグリ子さんとフェスとフォーにも被せてあげてから、カメラを手にエレベーターへと向かう。


 ハクトは財布など忘れ物がないことを確認してから最後に部屋を出て……エレベーターでエントランスに向かったなら、徒歩で予約した店に向かう。


 賑やかなに人々が行き交う商都のあちこちでは屋台なども見ることが出来て、見たことのない料理や見たことのある料理、グリ子さんの好物なども普通に並んでいてユウカはシャッターを切りながら興味津々な視線を向ける。


 ……が、これから食事に行くのだからと屋台によるのは我慢して……屋台の席から本当に楽しそうな声が聞こえるのにもぐっと耐える。


「あらー、かわいこちゃんやねー」

「ほんとにかわいらしいねー」


 途中、道行く人々がそんな声をグリ子さん達にかけてくれて、嬉しさからかグリ子さん達が歩きながらぐっと胸を張ると、更に声が増えていく。


 商都らしいそんな光景にユウカは心を弾ませ……これから向かう店への期待も高めていく。


 やっぱりあの名物だろうか? それともあの名物だろうか? 商都名物のあれやこれやを思い浮かべながら足を進めていると……その店の看板が視界に入り込み、ユウカは驚きの声を上げる。


「天ぷら屋さん!?」


「ああ、有名な店がホテルの近くにあったからね」


 そんな声に何事もなかったような落ち着いた声を返すハクト。


 ユウカとしては名物が食べたかったのだけども……和風の平屋の落ち着いた佇まいと、『てんぷら』の文字だけの暖簾が、なんとも美味しそうなお店といった空気を醸し出していて……名物は屋台で食べれば良いかと開き直り、笑顔で店の中へと入っていく。


 予約していたこともあって案内はスムーズで、奥にあった個室へと案内してくれる。


 そこは手入れのされた庭を望める大きなガラス戸のある和室で、座卓の上面はガラス張りとなっていて……そのガラスの下にメニューが挟み込まれている。


 どうやらこの店は天ぷらさえ頼めば、ご飯や味噌汁、付け合せなども用意してくれる店のようで、メニューの隅にそういったことが書いてある以外は天ぷらのことしか書いてなかった。


 とにかく多種多様……中には揚げる油を選べるものまであって、相当なこだわりが感じられる。


「……えっと、どれを頼めば良いんでしょうか?」


 フォスとフェーを抱えてメニューを見せてあげながらユウカがそう言うとハクトは、


「ああ、メニューも予約済みだから、とりあえずは待っていると良いよ。

 追加で頼みたければ好きなのを頼むと良い……今日予約したのは松セットだから、それ以外のを頼むと良いかな」


 そう言われてユウカはメニューを改めて確認し、ハクトが口にした松セットを探す。


 すると一人で万を超える金額の、とんでもないメニューが書かれていて……ユウカは冷や汗を浮かべながらその詳細を確認していく。


 季節の野菜にエビ、穴子、タコや真鯛の天ぷらもあるようで……それらのメニューにはしっかりと写真も掲載してある。


「……あれ? このタコと真鯛の天ぷら、変じゃないです?」


 と、そう言ってユウカが指で写真を指し示すとハクトは、写真を確認してから「ああ」と声を上げ説明をし始める。


「タコの天ぷらと言うと、輪切りのタコ足をそのまま天ぷらにしたのを思い浮かべるけども、ここではミンチにしたのを小判状に成形してから天ぷらにするみたいだね。

 ミンチの中に細かく刻んだタコを入れたりもしていて……歯ごたえが楽しいらしいよ。

 真鯛の天ぷらもそれに近い感じかな、真鯛のは野菜とか色々入っていて……それがまた美味しいらしいよ。

 真鯛の天ぷらっていうと、とある有名な人に関連しての逸話があって、不吉な食べ物とする人も多いんだけど……ここは商都だからね、あえてその真鯛の天ぷらを好んで食べるんだ」


 そう言ってハクトがその人物に関しての簡単な説明をしてくれる。


 真鯛の天ぷらを食べすぎて死んでしまったらしいその人物の、好敵手が商都で暮らしていたらしい。


 好敵手の子もまたその人物と戦い……商都の人間として好敵手の方を好いている人達は、その人物を倒してくれたという味方も出来る真鯛の天ぷらを好んでいる……こともあるそうだ。


 もちろんそれでも不吉とする人もいるしで、人による部分ではあるのだが、話題の種になるとか、歴史談義で盛り上がれるとかで、有名な店で見かけることはまぁまぁあるらしい。


「へぇー……面白いものですねぇ。

 ……で、美味しいんですか?」


「クッキュン!」

「プッキュン!」

「わふー!」


 ユウカとグリ子さん達が、そんな話よりも味が大事だとばかりにそう尋ねるとハクトは、


「それはもう、死ぬほど食べちゃうくらいには美味しいらしいよ」


 と、返し……ユウカ達の期待をこれでもかと煽ってくるのだった。



お読みいただきありがとうございました。

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