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毛玉幻獣グリ子さん  作者: ふーろう/風楼
第三章

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天狗


 まず運ばれてきたのは各種ジュースのピッチャーとコップ、それとサラダと焼きダコだった。


 サラダは山盛りの野菜に、タコの刺し身と蒸し海老がこれでもかと乗せられていて、焼きダコはなんらかのタレに漬け込んだ足をじっくり焼き上げたものらしい。


 サラダも当然のように美味しいのだが、焼きダコがかなり美味しく……甘辛いタレをたっぷりと吸ったタコ足を噛んでいるうちに染み出してくる旨味がたまらず、ハクト達は思わず言葉を忘れて夢中で食べてしまう。


 言ってしまうとこれだけでも大満足、食事を終えた気分になれるのだけど、メインはまだまだこれからで……サラダとタコ足を食べ上げて、腹心地が少し落ち着いたくらいのタイミングでメインのトマト煮が運ばれてくる。


 大きな器に入ったトマト煮と、結構な大きさのバスケットに山盛り入った焼き立てのバケット。


 どちらも本当に美味しそうで……ハクトとユウカはそれなりの腹の状況だったために、少しだけ食べてからグリ子さん達の食事を手伝い始める。


 バケットを食べやすい大きさに千切ってあげたり、クチバシや口に運んであげたり。


 手を使わずにバケットをトマト煮に浸して食べるのは中々大変そうだからと考えて手伝い始めた二人だったが、すぐにそれが大正解であったことを思い知る。


 グリ子さんもフェーもフォスも、夢中だった、無我夢中だった。


 トマト煮がよほどに口に合ったらしく、器に飛びついてガツガツガツと食べて食べて食べて、全く休む様子がない。


 バケットをソースに浸して近づければ一口で食べて、またトマト煮を食べて……幻獣にとっては特に夢中になる美味しさであるらしい。


 確かに美味しくはあったけど、そこまでか……? と、そんなことを考えて冷や汗とかくハクトとユウカだったが、皆が楽しんでくれていること、それ自体は嬉しいことであり、今回の旅の目的でもあったので文句もなく、とにかく幻獣達の食事をサポートする。


「……しかしこれ、多分足りないな」


「先輩、今のうちに注文しておきましょう」


 ハクトが声を上げると、ユウカがそう返し……ハクトは一旦ユウカにこの場を任せて立ち上がり、部屋から出て店員に声をかけて注文をお願いする。


「幻獣達の分のトマト煮の追加をお願いします……大盛りで、次はバケットではなくパスタにしてください」


 店員は笑顔で「分かりましたー」との返事をしてくれて、それを受けてハクトは個室に戻り……再びグリ子さん達の食事を手伝っていく。


 そうやってトマト煮とバケットを食べ上げると、あらかじめ用意してあったのか、すぐに追加のトマト煮がやってきて……今回はパスタが中に混ぜ込んであるので、ハクト達は休憩、グリ子さん達の好きなように食べさせる。


 幻獣用だからか、普通のよりも長めのパスタをグリ子さん達は、器用にスルスルと吸い上げていて……それでいて全く音を立てていないのだから、驚かされてしまう。


 マナーを気にしているのか何なのか、器用にスルスルと……そうやって追加のトマト煮も綺麗に食べ上げたグリ子さん達は、満足したのかソファの壁に並んで背を預けて、ケプゥと満足げに息を吐き出す。


 と、その時。


 グリ子さんの羽毛がキラキラと光を放ち始める。


 どうやら美味しいタコをたっぷりと食べたことで満足し、魔力が充填されたらしい……それを受けてハクトはグリ子さんの側にいって、そっと手を差し出す。


 するとグリ子さんはまたもケプゥと息を吐き出して……それと同時にいつかに見た魔石よりも小さい、そこまでの魔力が込められていないものをハクトの手に乗せてくる。


「……手加減してくれたのかな」


 魔力を込めすぎるとまた扱いに困ってしまうので、程々の段階で形にしてくれたようで……すぐさまハクトはそれを、ポケットから取り出した風呂敷でもって包み込む。


 包みこんだならそれをしっかりと両手で覆った上で瞑目し……魔力を込めて放ち、このことを知らせようとする。


 するとすぐに反応があり、何者かが部屋の窓をコツコツと叩いてきて、それを受けて目を開いたハクトは、窓へと近付き窓をあける。


 そこにいたのは小僧天狗だった、ブキャナンの眷属であり配下であり……今回の旅にも同行しているらしいそれにハクトは風呂敷を預ける。


 すると確かに受け取りましたと、頷いて見せた小僧天狗は、その翼でもって飛び上がり……それをどこかへと持っていく。


 どこに持っていったかと言えばブキャナンの下なのだろう、そして旅の終わりまでブキャナンがそれを預かってくれるのだろう。


 実際ブキャナンが持ち続けてくれるのかは分からないが、怪しいコネクションのあるブキャナンのことだ、この辺りにも知り合いや関わっている組織など、信頼し預けられる相手がいるはずで……その辺りに預け、保管してもらうということもあるのかもしれない。


 何しろここは古都、この国でもひときわ長い歴史を持つ街で……長生きをしているブキャナンが関わっている人物、組織は山のように存在している。


「……そう言えば先輩、このあたりにも天狗さんっているんですかね?」


 ハクトがあれこれと考えていると、ユウカがそう言ってきて……ハクトは呆れ混じりの半目となりながら、言葉を返す。


「もちろんいるとも、近い所で言うなら前鬼坊様になるかな。

 ……と、言うか、この辺りこそ天狗をよく見かける地域というか……国内八大天狗のうちの半数以上がこの辺りで暮らしているんだよ?

 八大、すなわち太郎坊、次郎坊、僧正坊、三郎坊、伯耆坊、豊前坊、前鬼坊、相模坊。

 このうち太郎坊、次郎坊、僧正坊、前鬼坊がこの辺り……隣県とかにお住まいだね。

 ……そして大僧正も大昔はこの辺りで暮らしていた天狗なんだよ。

 鞍馬山僧正坊……先程上げた八大天狗の一翼を担っているからこその大僧正なのだから」


 そう言われてユウカは目を丸くする。


 目を丸くして窓の外を見て、それからハクトの顔を見て……それからユウカはその表情でもって、あのブキャナンが??? との疑問を示し……それを受けてハクトは、今までも散々言ってきたことなんだけどなぁと、ひときわ大きなため息を吐き出すのだった。


 


お読みいただきありがとうございました。

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